さよならエラクレス
ついに、ついに月の剣を手に入れた。
しかも最強の敵を倒せるほどの実力を持つ勇者達だ。
朝ご飯に食べたステーキに当たったとかそんなオチでもない限り、この先ハッピーエンドに間違いはないのだ!
いかに浮かれたソル君がウザかろうとも、ルーナの幸せを思えば心から祝福できる……!
「ルーナ、これでようやく君に結婚を申し込めるよ」
「え、えっ?!ソ、ソルさんっ!」
しゅ、祝福、でき……るっ!
「ルヴナン倒してからにしろよ~」
っしゃ、ジャン!
いいこと言った!
「その点に関してはお前も反省しろ」
……?
どゆこと、ディーノさん?
腑に落ちない点はあるものの、私達は転移の魔法陣に立った。
行き先はミバドゥ。
ミバドゥを北上すれば、セレネピアはすぐだ。
ルヴナンを封じた聖女アンヌの体は、まだ無事なんだろうか?
生後すぐに別れたお母さんの姿を一目見たくて、勇者という役目を引き受けたっていうのがゲーム上のソル君だった。
……現実世界のソル君が、そんな可愛らしいマザコン男かというと、ちょっと疑問は残るけど。
「……行くぞ。
アンヌも、お前を待っている」
っか~!
ゲームでも同じ台詞言ってたよ、ディーノさんっ!
んでもって何周もプレイするたびに身もだえたよっ!
まさかディーノさんが甘党で深謀遠慮バク転戦法のイケ侍だとは知らなかったけど、やっぱり現実世界でもカッコいいよね!
「ソルさん……」
心配そうに見上げるルーナに優しく笑って見せて、ソル君はしっかり頷いた。
「えぇ……。みんな、行こう」
この世界を救う旅は、あと少しで終わる。
……まぁ、その前に会っとくやつとかいるけどね……。
魔法陣は、ミバドゥを見下ろす山道の、最後の曲がり角にあった。
「こうして見下ろすと、い~い景色だなぁ、ソル!」
確かに絶景だった。
大きく広がった湾に、シックな木造の家並み。
木肌は焦げ茶だが、漆喰は真っ白で空と海に映えている。
海から町を守るみたいに佇む、白く輝く塔。
ショタジジイのお膝元とはとても思えない、美しくも健康的な風景だった。
「……そう、だな。
……気づかなかったよ」
ソル君は苦笑いしている。
ミバドゥに向かってここを通った時、ソル君は自分の死を覚悟していた。
たぶん、美しい風景を見てもどこか遠かったんじゃないかな。
山道を下りる時間も、すぐ終了だ。
あっという間にミバドゥの門前に立つ。
ミバドゥに入らずにそのまま北上する街道を通るとセレネピアに着くのだが、ミバドゥの門前にはすんごく目立つコスチュームのあいつがいた。
「……エラクレス、またお前かよ……」
ジャンにまで疲れた口調で話しかけられる、我らがエロくデス。
エロくデスエンカウントはこれで最終である。
最終というからには、記念品はマーベラスでゴージャスである。
それが、宇宙の真理というものである!
「お前らっ!
ようやく俺様の準備が整ったんだぞ!?
もっと敬えよ?!
そんでもって……その、えぇとそこのお嬢さんと――」
最初は威勢の良かったエラクレスだが、ルーナの冷たい眼差しに気づいたのか徐々に口ごもっていった。
ルーナ、やっぱり覚えてるんだね、エラクレスの野望……。
「なんでしょうか」
ルーナの声が硬くて冷たい。
返事をしているのに、会話を拒否しているような空気がガンガンに伝わってくる。
「あ、あの、その、お、俺がルヴナンを封印する!だから――」
「けっこうです」
だから、と続ける言葉をぶった切るようにルーナがそう断った。
恐らくは勝負服であろう背中に孔雀っぽい羽を背負ったエラクレスが、うっと絶句した。
ちなみにタキシードは虹色に輝くど派手なものだ。
恐らくは虹のスーツだと思う。
魔法を反射するスーツを、タキシード風に着ている。
首には蝶ネクタイ。
防御力アップのアクセサリだ。
背中に背負っている羽は、恐らくはレインボーコカトリスの翼、だと思う。
防具で、精神アップの効果があった。
……防御力・精神力アップの装備品にも関わらず、エラクレスのメンタルは崩壊寸前である。
むしろその装備をよくぞ今日、装備してきたものだと褒め称えたい。
うんうん頷いている私だったが、ど派手な鳥男がグルッと向きを変えて私に視線を向けてきたので思わずのけ反った。
「ウ、ウサギっ娘は俺だよな?!
あんなに俺たち、熱く見つめ合ったもんな?!」
バサバサ翼を揺らしながら不器用に駆け寄ってくるエラクレス。
ラビウサの小さい体では、正直言って気持ち悪いより大きくて怖いという感情の方が勝った。
勝った私は手近にあった体に飛びついて叫んだ。
「こ、こっち来んなでござるよ変態っ!」
飛びついた先の、誰かの腰にしがみついて喚いた瞬間、アレ?と思った。
なんか、冷気と一緒に熱い視線を感じる。
「――……だってよ、フラれたな、お前」
上から降ってきた声に、一瞬で私まで固まった。
くっそエロい声のシーフが、そう言って私の体を抱き上げたからだ。
余裕げに笑っているが、視線が物騒だった。
「う、うわあぁぁぁぁぁんんっっっ!」
ジャンの威圧感に固まっていると、情けない泣き声が鳥男から聞こえてきた。
「お、お前ら俺を弄んでそんなに楽しかったのかよぉぉぉぉっっっっ!?」
ガクッと地面に膝をついて、鳥男が男泣きに号泣していた。
ちょっと可哀想には思ったものの……勝手に誤解したのってお前じゃ?という感想が拭えない。
「……男が気安く、泣くな」
エラクレスの息継ぎする絶妙な合間を狙って、ディーノさんの声が静かに響いた。
涙と鼻水に濡れまくった顔をはっと上げて、エラクレスはディーノさんを見上げた。
「男が泣いていいのは、母と妻を亡くした時だけだ」
二人の男は見つめ合った。
新しい涙が、エラクレスの目から盛り上がっては静かに流れていった。
「あ、兄貴ぃぃぃぃぃっっっっ!」
ディーノさんに取りすがっておいおい泣くエラクレス。
……ディーノさんが、男をオトした瞬間を目撃してしまった……!
しばらくして泣き止んだエラクレスは、やけに清々しい顔をしていた。
泣き腫らした、それでもすっきりとした顔で私達に、
「今まで迷惑かけたな。
ほら、ルヴナン倒すのに使えるだろ?」
と言ってアイテムをポン、と渡してくれた。
受け取ったのはディーノさんだ。
ジャンは私を抱きかかえて下ろさないし、ソル君はルーナを背後に庇ったままで、ディーノさんしか動ける人間がいなかったというか。
「……悪いな」
「いいんす、兄貴」
……え?
ちょっと待って。
なにこの展開。
「さ、行くか」
「兄貴、ご無事で!」
ちょっとなんなのこれ?
どこで何が芽生えて育ってるわけ?
っていうか、ディーノさん的に何をどうしたいわけ?
斜め上に考えたら、その場のノリで何も考えてないって結論になっちゃうんだけど?!
……いただいたアクセサリは、神々しいダイヤのブレスレット。
だが、ゲームでのアクセサリ名は違う。
名前は、”コスプレキング”。
全員がお互いの装備品を装備できるという、夢のアイテムである!
…………ぶっちゃけなんの意味もない、ドリームアクセサリだけどね!




