最後の夜
サボッテンダーがルーナの”サクラメント”がもたらす流星に貫かれ、温かく柔らかい光に満たされて天に昇っていく。
これまでずっとだらしなく横になって真剣に戦おうとしてこなかった彼らも、浄化の光に照らされた今はちゃんと直立して……妙に悟りきった顔で天へと昇っていった。
悟りきった顔のサボッテンダーにイラッとした私は、やはり心が狭いのだろうか?
何度攻撃しても余裕ぶって昼寝を続行していた過去があったからだと、私は信じている。
さて結論から先に言おう。
ラビウサは、戦闘向きのジョブじゃなかったわ。
地獄の4日が終わった時点での、私のステータスは以下になる。
デザートプリンセス(亜人化) Lv.80
Hp:2300
Mp:800
アビリティ:デザート作成、料理作成、声援
レベルが80でHpが2000台ってのは低いと思う。
そりゃもちろん、85から2300になったのは素晴らしい進歩だとは思うけど。
でも、あんなにサボッテンダーに石投げまくったのに……!
脱臼するかと思うぐらい肩を酷使したのに……!
一方で、デザートプリンセス本体の方はレベルの上がりが悪くて、レベルは63までしか上がらなかった。
デザートプリンセス Lv.63
Hp:12300
Mp:1100
アビリティ:糖弾、鑑定、黒魔法(火・氷・水)、デザート作成、亜人化、幻惑
8500だったHpが10000を超えた。
Hpが限界突破したことは喜ばしい……が、これはこれでちょっと微妙な気分だ。
なぜなら……
『もうやめてっ!
ラビーちゃんなのよ?!
もうこれ以上、ラビーちゃんを傷つけられないっ!』
からのノーマルエンドコース。
変に打たれ強いと、せっかく私を倒すと決めた気持ちが揺るがないか心配なのだ。
そりゃもちろん、男性陣はそんな甘っちょろいことは言わないだろうけど、優しいルーナの心が戦闘で折れてしまったらすごく困る。
そして幻惑ってなんだろう……試してみたいけど、万が一強力なアビリティで勇者一行を撃退してしまったらどうすればいいのだ……。
まぁ、それでもレベル的には最強勇者の敵ではない。
私が変な抵抗をしない限りは瞬殺だと信じている。
だが問題点はそこだけではない。
なんだよ、亜人化アビリティの料理作成に声援って。
「本当に嫁特化アビリティだよな、センセイ」
頬を染めるな、変態シーフ。
「ラビーちゃんのご飯って、とても美味しいわ!」
ルーナまでキラキラした目で私を見てくる。
材料を揃えて手をかざせば出てくる料理に、そんな尊敬目線はいらないと思うよ、ルーナ……。
「声援……いや、確かに有用なアビリティだけど……」
ソル君。
笑いたいなら笑いなよ。
なんだよ声援って。
味方全員の攻撃力防御力魔力その他色々なステータスを少々上げるバフらしいのだが。
「ラビーの応援は、効くな」
「…………」
……ディーノさん。
孫の応援じゃないんだから。
アビリティを発動したら、なんかよく分からないダンスと共に
『頑張れ~♡』
と叫ばされたにっくきアビリティ。
微妙に尻尾をふりふりさせられた屈辱は忘れない。
が、まぁそんな毎日も今日でお終いだ。
今日の戦闘で、全員の攻撃がサボッテンダー相手にダメージ2を与えた。
攻撃力がカンストした場合にのみ、サボッテンダーへのダメージは2倍になるのだ。
つまり、勇者達のステータス上げが完了したことを意味する。
防御力とかは真にカンストしたかの確信はないものの、攻撃力に準じているはずだからほぼイコールだと思うのだ。
念のため、半日余分に費やしたしね。
「明日はいよいよ、最後の封印モンスターを倒しに行くでござるよ」
私が作成した晩ご飯を食べている勇者達にそう告げた。
「お、いよいよか。……長かったな」
よっぽどステータス上げがイヤだったんだね、ジャン。
「戦う前にちゃんと盗むでござるよ?
そんなに強くないから、下手したら瞬殺しちゃうでござるよ」
くれぐれもその点だけはよろしくお願いしたい。
「問題は……この迷宮の主だね」
「うむ」
さすがソル君。
最大の問題点をよく把握している。
「真っ向勝負をするしかないでござる。
防御を固め、素早さを上げて地道に削っていくしかないでござるな。
回復は最優先でござる。
一人でも倒れたら一気に瓦解するでござるよ」
私は、詳細な攻略情報をまとめてメモにしたためている。
口頭でも伝えているけれど、書いてあるものがあった方が私自身も安心できる。
「確か……最深部に至る前の、”己の影”と戦う時に落とす武器が、私達の最強武器なんだよね?」
ソル君は確認するようにそう呟いた。
私の攻略情報を話半分に聞いているように見せながら、実は頭に入れていたらしい。
それを確認してくるのは、やはりソル君も不安だからなんだろう。
「そうでござる。
入手したらすぐに装備するでござるよ。
それからジャン、迷宮の主からは何も盗めないでござる。
だから盗まずにアクセラーと攻撃に徹するでござるよ」
最強になった彼らの中で、最もダメージを稼げるのはジャンだ。
「お、五月雨斬りだな?」
「そうでござる。
斬りまくって良いでござるよ」
硬いしHpも多いから好き放題五月雨斬りしまくれるはずだ。
「明日は、最後の封印モンスターと戦うのね……」
ルーナが、食後のお茶が入ったマグカップを両手で持って呟いた。
「ついに封印が解けるってわけだな」
ジャンは、私が作った最後のデザートを口にしながらにやりと笑った。
最後のデザートは何を作ろうか迷ったけど、結局皆の希望でチョコレートのシュークリームになった。
別に最後のデザート何がいい?とか聞いていない。
リクエストを募っただけだ。
「……弱いから。
ちゃんと戦って倒すでござるよ。
でも攻撃する前に盗むのは、忘れちゃダメでござるよ?」
何度も言ってるからジャンも話半分に聞いている。
何かを言い募ろうとして、私は口を閉じた。
余計なことまで、言いそうだったから。




