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覚悟


 これから向かう砂岩の迷宮は――。

『センセイ、いい匂い』

 こ、これから向かう砂岩の迷宮は――。

『あ"~、離したくねぇな~』

 こ、これから向かう、砂岩の迷宮はですねぇ!

 正面入り口の前にとあるストーカーが待ち構えていてですねぇ!


「ラビーちゃん、大丈夫?」

 心優しい絶世の美女が、悶絶モノの黒歴史と戦う私を気遣ってくれる。

 そっと肩に手を乗せられる優しくて温かい感触が嬉しくてホッとする。

「センセ――」

「だまらっしゃいっ!」

 くわっと叫んだ。

 痴漢、滅ぶべし!

 なるべくやつは視界に入れない。

 目線は斜め下が鉄則だ。

 痴漢と目を合わせちゃいけません。図に乗るから。


 アレから2日経った今でも警戒を怠らない、用心深い大人のレディである私は、エロシーフ改め変態シーフから適切な距離を取り続けていた。

 オカアサマはあんなことしない。

 だから変態シーフで決定。

「あぁ、あれかな、ラビー」

 岩砂漠の中、遠目に見えてきた砂の尖塔群を目にしたソル君が話しかけてくる。

「…………」

 私は、裏切りを許さない。

 あんな変態と二人っきりにして逃げたソル君のことを許してはいないのだ!


「ラビー?」

 ディーノさんに問いかけられてようやく私は返事をした。

「……あれでござる」

 全く、絶世の美女であるルーナにセクハラ行為を働くのなら、重罪だけれどもそれは理解できる。

 だってルーナは無防備ヒロインだからね!

 だが。

 なんでこんな、人間の男からしたら幼稚園児ほどの大きさしかないラビウサにああいう……なんかマーキングっぽい行為をできるのか、まったく理解に苦しむのだ。

 そして痴漢は滅びればいいと思うのだっ!


「すまなかったよ、ラビー」

 2日経った今になってようやくソル君が謝ってきた。

「遅いっ!でござる!」

 ルーナのこと以外はどうでもいいソル君にしたら、謝っただけ上出来かもしれないけどね!

「でも正直、自分が死ぬことも考えに入れて動くラビーのやり方には賛同できない。

 ……ジャンも、そこに怒ったんだろう?

 やり過ぎだとは思うけれど」

「……んん?」

 一瞬、何が悪いのか分からなくて首を傾げた。

「そうよラビーちゃん。

 ラビーちゃんを死なせたりしない。

 だから念のために、なんて考えて欲しくないの。

 ラビーちゃんは、大事な私のお友達なんだから」


 …………。

 こ、これあかんやつだ。

 『私、ラビーちゃんを殺せないっ』とかいうパターンの、あかんやつだ!

 それならむしろ、『俺たち騙してたのかっ』ってパターンの方が100倍マシだわ!

「……え~、で、でも人生諸行無常っていうか、最悪のことには備えておいた方がいいんじゃないかっていうか……」

 もごもご言い返したら、背後からゆらっと殺気が飛んできた。

 し、知ってる、この殺気……!

 私は敢えて変態シーフを振り向かないことにした。

 目が合ったら喰われる、野生動物と対峙した気分だった。


「お前達」

 ひぃぃ~、という私の心の声を聞いてか、ディーノさんが重々しく口を開いた。

「お前達だって、万が一を覚悟しているだろう。

 ラビーも同じようにしているだけだ。

 その覚悟を否定するな」

 ズンッと重い声だった。

 そうだよ。

 皆だって、自分の命を賭けて戦ってる。

 私の場合は死亡フラグというか死亡率がちょっと高いけど、皆だって裏ボスと戦って無事でいられるかどうかなんて分からない。

 

「ラビーだって、覚悟してるでござるよ」

 戦えないけどね。

 痛いのも苦しいのも嫌だけど、それでも皆を幸せにしたいんだ。

 それだけは、絶対に譲れないんだから。


 私の呟きに、誰も返事はしてくれなかった。

 僅かにくぐもった呻きが聞こえたような気がしたけれど、私の言葉を否定しない代わりに肯定もしてもらえなかった。

 ただ、ディーノさんが温かい掌でぽん、と頭を撫でてくれただけだった。




 漂う暗い空気を払拭してくれたのが、毎度ありがたい貢ぎ物を献上してくれるストーカーだった。

「よぉ、お前らこんな所までよく来れたな!」

 ――こっちの台詞だよっ!

 エラクレスの今日のコスプレは……賢者!

 身に纏う濃い紫色のマントを翻して高らかに笑う、元祖変態。

 ……変態って、ウィルス感染でもするんだろうか?

 こいつのがジャンに感染したとか、そういうオチだろうか?

 っていうかその賢者のマント、ぜひともいただきたい!

 ……あ~、でももうすぐソル君はサナダローブゲットするし、もう用なしかなぁ?


「俺さ、ついにレベル60越えたんだぜ?!」

 元祖変態がキラキラしたイイ笑顔で告げてきた。

 特にルーナと私に、それはもうどや顔を見せてくる。

「へ~。なかなか頑張ったでござるね」

 エラクレスにしてはなかなかだ。

「ったく、これだからウサギっ子メイドは世間知らずだな!

 そ、そそそそこのお嬢さんは分かるだろ?俺の凄さが!」

 ドモリ過ぎだ、エラクレス。

 そして私はメイドじゃない。

「え、えぇと……そう、ですね?」

 ルーナが困ったように頷いた。

 現時点でレベル80超えの勇者達(ステータス上げも中盤)に、そんなこと言われてもねぇ……というかむしろレベル60でここまでよく来れたよね?!

 

「ん?」

 元祖の方の変態の腰にぶら下がっているあのアイテム……というか、香炉は……。

「邪気祓いの香焚いといてよくそんな大口叩けるよな、エラクレス」

 後ろから聞こえるジャンの声に、私は納得した。

 敵とのエンカウント率を限りなくゼロにする、ゲーム終盤というか最終盤で手に入るレアアイテムだ。

 うざい雑魚戦がゼロになる、とんでもなくありがたいアイテム。

 ……なんでそんなもん持ってるんだ、あいつは!

 この砂岩の迷宮、最下層の宝箱にある秘宝のはずなんだけどもねぇ?!


「う、うるせぇなっ」

 そう言ってエラクレスはソル君に向かって小さい何かを放って叫んだ。

「こ、これでもやるからもうちょい待ってろよっ!

 いいか、処女はぜってぇ俺のもん――」


 ぶごはぁっ!


 血をまき散らしながら天高く飛び去っていくエラクレス。

 ……ソル君のアッパーって、空を飛べるんだね……。

 ルーナの、なにあの人?!っていう目線が痛い。

 ……あ。

 ルーナの耳、塞ぐの忘れてた……。




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