暴露
アイテムボックスから出したのは、チョコレートのシュークリーム。
チョコクリーム部分を生チョコのもうちょっと柔らかいのにしたやつで詰めてみた。
濃厚なので、サイズは小さめ。
男性陣はどうだか分からないが、ルーナはあんまり食べられないと思うのだ。
「さ、話はおやつが終わってからにするでござるよ」
胃袋が満ちていた方が心も動揺しにくい。
ルーナが隠していた真実を勝手に明かすには、そういった手助けがあった方がいいと思うのだ。
ディーノさんが沸かしてくれたお湯で、さっぱりしたハーブを加えた紅茶を煎れる。
皆のマグカップに入れ分けて、可愛い木皿にシュークリームを盛り付ける。
男性陣は2つずつ、ルーナと私はとりあえず一つずつ。
「お代わりもあるでござるから、足りなかったら言って欲しいでござる」
旅の間では、おやつ食べ過ぎだって言ってお代わりなんてあげなかった。
でも、もうそろそろ最後が見えてきている。
そんな時ぐらいおやつでガミガミ言いたくないよね。
チョコクリームはとろっと舌に乗ったかと思うとすっと溶けていく濃厚さで、カカオの豊かな香りが鼻に抜ける。
……う~ん、ちょっと重すぎたかもしれない。
リッチな感じにしたかったけど、深刻な話の前には重かった。
というか、ディーノさんとジャンがなかなかあっちから帰ってきてくれない。
あっちってどっちだって?
お菓子の国だよ。
スイーツ侍とスイーツシーフ。
未だにお菓子の国で妖精さんと戯れている顔をしている。
いや、ディーノさんは真顔だけど。
でも雰囲気がスイーツ色なんだよ。
私はわざとらしく咳払いをしてみた。
「あ~、ごほんっ」
ノーリアクションだった。
「あっ!後ろにモルボルがっ!」
二人は一瞬だけ、ん?という顔をしたが、すぐに気配で悟ったのか再びお菓子の国に帰っていった。
「……ラビー、もういい。私達で話を進めよう」
痺れを切らしたソル君がそう言った。
「う~ん……でも、けっこう重要な話でござるよ?
あの月の剣が模造品だって話なんでござるから。
ルーナの命を代償とする剣なんて使ってられないって話をしたいんでござるよ」
そう言った瞬間、
「「「は?!」」」
という声が男性陣から洩れた。
ルーナは真っ青になっていて、口元を覆ってしまっている。
ソル君はさっとルーナを見やって、その反応から私の言葉が正しいと判断したようだ。
……信用ないな、おい。
「ちょっとセンセイ?!じゃあルーナは、ソルは?!」
亜光速で残ったシュークリームを口に放り込み咀嚼、嚥下したジャンが叫んだ。
「だから本物の月の剣を取り戻しに行くでござる」
「「「はぁ?!」」」
「最初っから言ってるでござる。ソルはともかく、ルーナは必ず幸せにしてみせるって。
ルーナの命を代償になんて、させるわけないでござる。
なんのためにこれまで封印モンスターを狩ってたと思ってるでござるよ」
ものすごい沈黙がその場に落ちた。
なんだろう……なんか、責められてでもいるような視線を感じる。
「……なんか文句でもあるでござるか?!」
私が凄むと、慌てたように視線を逸らすジャンとソル君。
なんだよ?!
私だって最初から全部言おうかどうしようか散々迷ったんだよ?
でも、やっぱりルーナが自力でサクラメントを覚えるまでは言わない方がいいと思って自粛してたんだよ!
黙ってるの、大変だったんだからね?
「ラビーちゃん……本当に?本当に、知ってる、の?
私達の誰も知らなかったことなのに?」
「本当でござる。ラビウサには不思議な力があるでござるからな。
簡単に分かっちゃうでござる」
簡単、かどうかは疑問だけど。
なんせ、総プレイ時間にしたらどれだけの時間になるんだろうとは思うし。
「ラビー。その本物の剣を使った人間は、どうなる?」
愕然とした顔を崩さない若者に対して、ディーノさんの問いは鋭い。
「死なないし、どんな代償も必要ないでござるよ」
そう答えると、僅かにディーノさんの肩の線がやわらいだ。
「センセイの隠し事、半端ねぇな……」
しみじみ言うんじゃない、そこのシーフ。
「ただし」
私がキリッとした声で言うと、ルーナを含めた全員が私に注目した。
「本物を手に入れるためには、ルヴナンより遥かに強い敵を倒す必要があるでござる。
本気で強いし、そいつを倒すために、もしかしたら誰かが戦闘不能になってしまう、かもしれないでござる」
ゲームでは、戦闘中に死んでも生き返っていた。
だが、本当に”死んで”しまった場合、この世界では蘇らせる術は無いんじゃないかと思うのだ。
「……私達が、強くなればいいだけの話だろう?」
ソル君が、晴れ晴れとした顔でそう言った。
「死ぬと決まってる戦いと、強くなりゃ勝てる戦いとは全然違うだろ」
ジャンはいつもの不敵そうな顔で笑った。
「希望があるなら、進むだけだ」
……ディーノさん、そういう言い方は卑怯だと思う。
「……ありがとう、ラビーちゃん……っ」
ルーナ。
お礼を言うのはまだ早いよ。
私に出来る最善を、まだ尽くしてないんだから。
「レベルを最大まで上げること、アビリティの無駄打ちを徹底することが勝利への近道でござる。
それが終わったとラビーが判断したら……最後の、封印モンスターを倒しに行くでござるよ」
とは言っても、この訓練にはそう時間はかからないだろう。
恐らく、一週間も必要ないと思う。
……案外、時間ってないんだなと、今さらながらにそう思った。
非常に不本意ながら、不穏な空気をかもし出しつつも満面の笑顔のソル君と、そんなソル君に腰が引けているルーナを二人きりで雑木林デートに送り出した。
「ラ、ラビーちゃんっ」
いや、本当に申し訳ないとは思うんだけどさ、ルーナ。
「……どうしても耐えられないことをされそうになったら、助けを呼ぶでござるよ」
私はものすんごい迫力のソル君から目を逸らしつつそう答えた。
ごめんルーナ。
そういうソル君を、私は止められないや。
「ラ、ラビーちゃん~っ」
引きずられていくルーナ。
「……今夜はお祝いの食事でござるかねぇ……」
「宿は、二人で取らせるか?」
ディーノさんの言葉に私はカッと目を見開いた。
「婚前交渉は厳禁でござるよっ!」
全く。
早く孫の顔が見たい舅か。
「お、じゃあセンセイは俺と同室で」
「引っ込めエロシーフ」
どう見ても両想いのカップルと一緒にしないで欲しいものだ。
ルーナがソル君に黙って命を捧げるつもりだったってことに、ソル君は非常にご立腹だ。
ご立腹ついでに、自分の未来を憂う心配が除かれたこともあって、きっと彼はルーナに告白することだろう。
いかにへたれチョーローでも、ここまでの事態になったら動くはず。
……ついに、名実ともに恋人関係が成立するんだろうなぁ。
「嬉しいような、寂しいような……」
あの二人をラブいちゃカップルにすることは私の目標でもあったんだけど。
やっぱりちょっと寂しい気持ちもあるのだよ。




