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最後の民


 ルーナは、このローライト戦でアビリティを覚える。

 ”サクラメント”という、聖属性複数魔法攻撃がそれだ。

 覚えるのは、戦闘中だ。

 涙を流しながらの戦闘中に、究極の浄化魔法としてルーナが会得する。

 それは、ルーナが正式に巫女となった証でもあった。

 ……もう誰も守る者もいない、月での女王になった、証。


「お兄様、わたくしは、あなたを止めます」

 ローライトの攻撃は精神攻撃にも似ている。

 鎧やローブといった防御をすり抜けてダメージが届く。

 だからルーナは何度も仲間を癒す。

 何度も、何度も。

 そうして、ルーナはついに覚醒するのだ。

 闇を、魔をうち祓う巫女としての能力に。


「あなたに、安息を。あなたを蝕む闇を、祓いましょう」

 ルーナは、高らかに宣言した。

 そして詠唱が始まる。

 ここまでくれば、もうローライト戦は終わったも同然だ。

 ゲームでは、ローライトのHpを一定まで減らせば始まるイベントだから。

 でも……。

 ルーナは、まだ泣いてる。

「闇よ、晴れよ!”サクラメント”!!」

 大樹を貫いて降ってくるような、眩い流星群。

 ルーナの頬を乾く間もなく濡らし続ける雫が、流星の明かりでキラキラ輝いていた。


「わたくしは、一緒には、逝けません」

 ルーナの声は、地に堕ちる流星の轟きでごく僅かにしか聞こえなかった。

「ごめんなさい、お兄様……」

 私より側にいるソル君には、きっともっとはっきり聞こえてる。

 でも、ソル君はルーナを振り返らなかった。

 バイコーンだったローライトの姿が薄れ、徐々に人間(ひと)の姿を取り戻しつつ過ごす最期の時間を、じっと見つめていた。

 ジャンは消えていくローライトに、同情のような憐れみのような、どこか優しい目の色をして見送っていた。

 ディーノさんは後ろ姿しか見えないけど、その肩を見る限り、怒りの感情はもう宿っていないように思える。


「ばぁ~か」

 私は、こっそりと呟いた。

 大好きな人を、最後の月の民にした。

 大馬鹿だ、ローライトは。

 私は、そう思う。 




 人に戻ったローライトの姿さえ消え失せてようやく、ルーナは頬を伝う涙を拭った。

 繊細なプリンセスがするような上品な拭い方じゃなくて、泣き疲れた子供が頬を拭うみたいな、手の甲を使った拭い方。

 ソル君がそっと寄り添って、不器用に涙を拭うルーナの手を取った。

 代わりに、自分のハンカチで拭っている。

 ルーナは、抵抗もせずにそれを受け入れていた。

 きっと、今だけは、とか思ってるんだろうな。

 ”サクラメント”を覚えた。

 そのことでルーナの記憶は完璧に戻り、”月の剣”の在処も、その実態も思い出せているのだ。

 きっと、ルーナの中で選択は終わっている。

 なんとしてもソルを死なせない、きっと、そういう風に選んでしまっているんだろうな。


「――ありがとうございます。……これで皆を、弔えます」

 月に染みついた、月の民の恐怖。

 それを祓えると、ルーナは微笑った。

「最後の、仕事ですから……」

 最後の、月の民だから。

「――私も、手伝うよ」

 ソル君が申し出た。

 テラの民であるソル君に、できることなんてあるのかな?そう思っていたらルーナは柔らかく微笑った。

「ありがとうございます。……祈って、もらえますか?月の民のために」

「あぁ。祈るよ。君のために」

 月の民のせいで命を賭けねばならなかったソル君が、月の民のために祈ってくれる。

 ルーナはそれが、嬉しかったみたいだ。

 それが例え、自分のために行われるのだとしても。




 跪いて祈りを捧げるルーナの周りに、柔らかい光が少しずつ集まってくる。

 怯えた子供がおずおずと日差しの下に引き寄せられてくるみたいに、光は明滅しながらルーナの元に集まってきた。

 あれが、負の感情なのかな。

 どれも淡く色づいて、恐ろしいものとは無縁なもののように感じるのに。

 ソル君は、ルーナの斜め後ろに、同じように跪いて祈っていた。

 粘着系チョーロー勇者なんだけど、まるで月の民みたいに敬虔な祈りを捧げているように見える。

 もしかしたら。

 もしかしたら、死した月の民に、ルーナを守ってくれるように祈ってるのかもしれない。

 ルーナのことに関しては、チョロい人だから。


「なんか、綺麗だな」

 私の隣でジャンが、そう呟いた。

「うん」

 反対隣のディーノさんも、僅かに頷く気配がした。

 私達は静かに、宙に舞い上がっていく光を、ずっと見送っていた。




 祈りを終えたルーナは、微笑みながら私達を、玉座の間の上にある宝物庫へ案内した。

「ここに、”月の剣”があります」

 大樹の洞を登ってたどり着いたそこに、恭しく飾られた剣。

 青く煌めく宝石で象眼された、純白の鞘。白銀の柄。

 いかにも儀礼用と思しき、荘厳な片手剣がそこには飾られていた。


「――これが」

 ディーノさんは、声を喉元で詰まらせた。

 うん、ソル君が死なずにすむ剣は、ディーノさんにとってどんな宝物よりも大切で、貴重なものに映ってるんだろうな。

「っしゃ、良かったな、ソル!」

 ジャンは、親友がこれで救えると無邪気な笑顔を浮かべた。

「…………」

 ソル君は、自分に未来がある実感がまだ沸いてなさそうだった。

 ちょっと呆然としてる。

 ルーナは。

 微笑ってた。

 優しい、とっても優しい目の色を浮かべて、ソル君を見つめて。


 


 ”月の剣”は、レプリカなんだ。

 本物は、遙か昔に月から失われた。

 だから、本物と同等の力を振るうためには、代償がいるんだ。

 ……巫女の、命。

 ルヴナンを消滅させるために、今度はルーナの命を捧げないといけないんだ……。




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