お約束宝箱
この雷の聖域では、大きな石をずりずり押して移動させることで解除できる仕掛けがある。
石の大きさはラビー以上ルーナたん以下。
ルーナたんが押そうとすると、ルーナたんの銀色の頭が半分ほど見える高さだ。
幅は細いルーナたんの2倍ほど。
思ったより厚さはないが、それでもルーナたん一人では押せない程度の重さがある。
もちろん、男性陣は余裕で一人で押せた。
……ソル君ですら。
さて、この巨石をぐいぐい押して床に設置してあるボタンを押させることで開くドアや、小部屋、階段などがある。
それに、普通ではアクセスできない所にある宝箱に至る隠し通路も。
「くっ、やはりかこの脳筋めっ!」
だがこの聖域に入る前から不安は抱いていた。
奴だ。
あの脳筋細マッチョちょい悪イケメンだ!
あいつは、このBF6を冒涜している!
勇者の身長の2倍近い高さを、奴は猿のように登っていく。
ロッククライミングのノリだ。
石組みの遺跡には手足をかける場所が随所にあるので、それが悪い方に出てしまった。
ギミックって何?というノリでジャンは宝箱を回収していく。
「な、泣きそうでござるぅ……」
あの宝箱を取るために、4部屋あるこの階の巨石をああでもないこうでもないと動かし、リセットボタンもないから終いには初期位置すら分からず途方に暮れた私のプレイ時間を返せ!
「どうしたの?
泣きそうって、ラビーちゃん大丈夫?」
心配そうにルーナたんに声をかけられ、私は我に返った。
そうだよ、ここはゲーム世界じゃない。
簡単に宝箱が取れるならいいじゃないか。
ジャンだって、宝箱回収中に出会ったモンスターはその場で倒さずにソル君達の所まで引き連れて来てみんなで倒してるじゃないか。
経験値を独り占めしないというその考え、すごくいい。
ジャンすごいじゃん!
ヒューヒュー!
パフパフドンドンド~ン♪
――自分をマインドコントロールしようとしたが、やっぱりやり切れなかった。
「……何でもないでござる……ちょっぴり昔の傷が疼いただけでござる……」
初回プレイ時には攻略無しで挑んだものだ。
なので一周目に取り逃がした宝箱は多い。
二周目は満を持して、この聖域に入る前にセーブして挑んだものだが、それでも取り残しがあって最後は攻略を頼った。
そういう意味でこの聖域は私にとって思い入れのある聖域だったのだ。
「昔の傷?え?
もしかして、前の恋人のこと思い出しちゃったの?
ジャンさんを見て?」
……ルーナたんが何かを誤解している。
「ん?ラビーに恋人?
どんなウサギなんだろうね、それは」
現在、ジャンの宝箱回収を待っている私たちは暇だった。
「ウサギじゃないよっ、ソルさん!
人間の、男の人だったんだってっ」
「ルーナたん、ソレ女同士の内緒話……」
ルーナたんの無邪気な裏切り行為に、こっそり傷つく私。
「あぁっ、ご、ごめんねラビーちゃんっ!忘れて!ね?ソルさん!」
「ルーナがそう言うのなら」
ルーナたんの上目遣いに、あっさり返事をするソル君。
うん、私は知ってる。
単に興味ないんだよね、私に。
「……そうか、ジャンには言わない方がいいな」
ポン、と頭に乗せられるごつくて温かい掌。
「いや、ディーノ殿、ラビーは別に元彼のことなんてさっぱりこれっぽっちも考えては――」
「ごめんねラビーちゃんっ!
ちょっとはジャンさんに脈ありなのかなって思うとついつい聞いちゃって!」
……ルーナたん、別に私は強がってもなんでもないよ?
「いや、あの……」
「しっ、ジャンが戻って来たぞ」
あの……ディーノさん、そんなに警戒するようなことでもないと思うんだけど……。
……!
アレか!ネタ的なアレだな!?
いやぁ危ない、ついつい本気で反論しそうになったじゃないか。
「ヒャッホ―、天空のローブでござるな~」
ここは期待に応えて、元彼を引きずる女を演じて見せようではないか!
「?センセイ、なんか元気ない?」
自分の2倍以上ある高さからシュタッと下りてきたジャンが、私の抑揚のない喜びの声に首を傾げていた。
「ジャンさん、そっとしといてあげてっ」
なんと!
ルーナたんが私を抱き寄せてひょいっと抱っこしてくれた。
お、おおう、このこんもりした膨らみと、なんとも言えない華のような香りで甘酸っぱい気分になりますなぁ!
ニヤニヤ笑いながらルーナたんの胸元にすりすり頬を擦りつけていると、ベリッとソル君に剥がされた。
「――図に乗るなよウサギ」
こそっと囁かれた声はものすごい凄みが籠もっていた。
く、くそぅ、別に怖くなんてないやいっ!
晴人君、今頃どうしてるかなぁ。
ゆりさんと結婚してるとか、そういうのはないと思うんだけど。
さすがに日本の優秀な警察は、ああいう短絡的な事件はさっさと解決してくれそうだし。
私が殺されて、ショック受けてるんじゃないかなぁ?
ちゃんと、また好きになれる人を見つけて、今度こそその人と幸せになっててくれるといいんだけどなぁ。
私はなんだかんだ言って幸せな転生人生を送ってるし。
晴人君のことを思い出すと、自動的に私の家族のことも思い出されてきた。
お父さんお母さん、ちゃんと割り切ってくれてるかなぁ。
最後に帰ったのって、確かお正月だった。
『次はゴールデンウィークね!
たまには旅行にでも行こうか』
そう笑っていたお母さん。
『高いからいいよぉ。
家でゴロゴロするから』
そう言って笑ってバイバイした。
それで最後。
今でも泣いてたり、してないよね?
私はちゃんと幸せになってるからね?
だから、お父さんとお母さんも、もう悲しまないでね?
お兄ちゃんが久しぶりにBF6をプレイして、そこで今までいなかったはずのラビウサがいて、そんでもってそのラビウサが透子に似てるって気づいてくれたりして。
それでお父さんお母さんに言って、それでみんなで笑ってくれるといいのに。
お姉ちゃんに『馬っ鹿じゃないの』って突っ込まれてさ。
「……うん、きっとそうに違いない」
私は呟いてうんうん一人で頷いた。
「おーい、センセイ次行くぞ~」
ジャンの言葉に、私は元気に
「分かってるでござるよっ」
と返事をしてまた歩き出した。




