晩餐 前哨戦
お食事に誘われて、ではそのままというわけにもいかない。
むしろ街の代表者との会食に、そのままの普段着で出かけようとするジャンがすごいと思う。
「?行かないのか?」
ディーノさん……あなたもか。
「ルーナたんは今の恰好でいいかもしれないでござるが、さすがにラビーは着替えて行くでござるよ。
これではさすがに非礼でござろう?」
お子ちゃま執事服を指して言うと、ディーノさんは首を傾げていた。
いや、だって本物の執事と間違われたらどうするのさ。
正直、執事としての仕事なんて何にもできないと思う。
「ある意味、準礼服なんじゃねぇ?」
「いやいや、あからさまに執事服でござろうよ」
コスプレという言葉が通じないだろう事がもどかしい。
これが前世なら、『コスプレでセレブディナーに参加できるかぁぁ!』と一喝すればそれで済むのに。
「あっ、じゃあラビーちゃんこれ着てねっ」
ニコニコしたルーナたんが袋に入った包みを差し出してきた。
「さっきのお店で買ったの。
きっとラビーちゃんに似合うから着てみてねっ」
「……え~と、ちなみにお支払いは?」
「ソルさんが払ってくれたよっ」
チラッとソル君を見る。
立てられた指が6本。
くっ、60ビルか。
後で払おう。
そうしないと10日で5割増えるとかいう訳の分からない借金を背負うことになりそうだ。
「あ、ありがとうでござる~」
ちょっとヨロヨロしながら宿屋の部屋に戻って着替える。
ルーナたんセレクトは、ビロードっぽい重厚な肌触りのワンピースだ。
色はルーナたんとお揃いの藍色。
背中側に同色の大きなリボンがあり、襟は同色のレースで繊細に飾られている。
子供服で結構なお値段だとは思ったが、この仕上がりならそれぐらいはするかもしれない。
ついでにルーナたんにダイヤのネックレスをつけてあげて、普段は下ろしている髪もハーフアップにしてみた。
うんうん。
これからのイベントには、ルーナたんに可愛い格好していてもらわないとね。
ソル君も号泣して喜ぶことだろう。
……チッ。
部屋から階段を下りて、受付前で男達と合流する。
うむ。
一応、ジャンもディーノさんもソル君も、くたびれた普段着から、多少はこざっぱりした服に着替えたようだ。
まぁみんなイケメンだから、服が替わってもあんまり変わらないかもしれないが。
「待たせたな」
ディーノさんが執事さんに話しかけた。
はい、大変お待たせ致しました。
いざ晩餐会に出発!である。
さすがラヴァティーの代表者だけはある邸宅だ。
お城というほど豪華ではないが、お屋敷という程度には華がある。
居住区で一番大きなお屋敷が、問題のカンテ氏の邸宅だった。
ゲーム内ではこのイベント時にしか入れず、その時にしか取れない宝箱が当然存在した。
もちろん期間限定品とあって中身も良い装備だったのだが、勇者貯金のことを言えばすんなりもらえるだろうか?
「勇者様方、ようこそいらっしゃいました!」
問題のカンテ氏は小太りのいかにもな感じの成金臭漂うおじ様だった。
そのおじ様がソル君達に挨拶するのをほとんど押しのけるようにして現われたのが問題のディアーヌお嬢様。
ソル君の、冷たい印象のある薄い金髪とは違って真夏の太陽のように濃い金髪をした女性だ。
ソル君の冬空みたいな寒々しい青い目とは違い、彼女のは真夏の海のように明るい青だ。
そして恐らく20歳前後だと思うのだが、それはもう立派なお胸をしていた。
着ているドレスも深紅で胸元の開いた豪華なドレス。
「あぁいうドレスって胸がないと似合わないでござるよねぇ。
さすが、着こなしてらっしゃるでござる」
前世でもそうだったが、今世はそれ以上にツルペッタンな私。
いや、前世では人並み弱ぐらいはあったのだ!
でも乙女の憧れのあの台詞、『胸が大きくて肩が凝っちゃうんだよねぇ』を言える身分では当然なかった。
言うならネタとしてだけだったが、そんな自虐ネタに走るキャラではなかったのでやはり言う機会はなかったといえよう。
「そ、そうだねラビーちゃん。でも声大きいよっ」
ひそひそ声でルーナたんに窘められた。
「まぁオホホ、そこのウサギさんはよくものをご存じやねぇ」
褒められた。
まぁ、内緒話でも褒め言葉なら悪い気はしないはずだよね。
女性的には。
「とてもお似合いでびっくりでござる。
さすがラヴァティー一の美女とジャンが言っていた方でござるな」
別におべっかではない。
実際に美人だしね。
ただ問題は……ラヴァティーどころかこの世界一の美女が私の隣にいるってだけで。
「まぁ……ジャンが」
お?
呼び捨て?
やっぱり真夏の初キスイベントが過去にあった感じ?!
「まともに話すのはこれが初めてだよな、ディアーヌ嬢」
ジャンが妙に低い声でディアーヌお嬢様に言った。
ほほう、声を交わさずともやっちゃう初キスかぁ。
……なんとなくピュア感が遠のいたような……?
「ささ、今日はささやかな食事を用意しとります。
勇者様方にぜひ楽しんで頂ければと」
どことなく漂い始めたきな臭い雰囲気をさり気なくスルーして食事へと促す手際は、さすがにラヴァティーの代表者とも言えた。
……イベントの邪魔してごめんなさい。




