勝利と戦利品
大通りにあっという間に空白ができた。
そりゃそうだよね、不審なミイラ仮面からは誰だって距離置きたいよね。
エラクレスが妙な覆面を被っているのはアレだろう。
あいつは神殿のお偉いさんの息子だから、ここ神都で顔出しなんてできないと思ったに違いない。
だがエラクレスよ。
君は勇者になってモテまくりたいという野望があったはず。
万が一……というか、天変地異がいきなり起こって奇跡的にソル君達に勝てたとしても、顔を出していないと勇者の世代交代はできないんじゃないだろうか?
まぁそんな心配はないと思うけど。
「奥さんとメイドを一日交替で寝室に呼ぶっっ!これぞ男のロマンだろうっっ?!」
そんなロマン初耳だよ。
むしろ奥さんとメイドに謝りなよ。
私は執事だけどさ。
「おいセンセイ」
いかん。
ジャンの声が地を這うように低い。
ソル君はその後ろ姿から察するに、怒りの余り声も出ないと見た。
「回避か防御。
何回も言わせるなでござる」
エラクレスが妙に長い刀を振りかぶって走ってくる。
「うおぉぉぉぉっっっ!二人とも俺の嫁だ~~!」
はっ?!
あれは音無では?!
ディーノさんの専用武器の音無!
追い剥ぎたいよ!
というか本当に神殿の秘宝って半端ないな!?
どこの宝物庫から出してきたんだか。
彼の今の装備もだけど、やつが持ってる宝物庫の鍵もぜひ欲しい!
「お前、後でマジ殺す」
自分に向けられた音無を華麗に交わしながら、ジャンがエラクレスの耳元で囁いていた。
地獄の底から響いてくるような声だ。
ヤバい。
そろそろ限界っぽい。
なんであいつはあんなにキレているんだ……。
次いで向けられたスピードゆるゆるの音無を、なんとソル君は真剣白刃取りをしていた。
片手で。
「――防御だ」
チラッと私を見ながら言い訳している。
いや、問題はそこじゃなくてさ、いくらヒョロヒョロの刀でも片手で止められるなんて愛ってすごいねって言いたいってとこでさ。
いや、別にいいよ、もう。
エラクレスが詠唱始めたから。
「ジャン、今でござるよっ!
詠唱が終わる前に盗めでござるっっ!」
そうは言ったものの、詠唱が――という下りで既にジャンは盗むを成功させていた。
キラキラしたネックレス。
あぁっ、眩しいっ!
「よっしゃでござるっ!
褒めてつかわすでござるよ~!」
さて、次は追い剥ぎだが。
「――すごいなぁ~、さすが勇者様方やわ~」
とか、
「――あんな変な人、この辺にいたかいなぁ~」
とか、
「――勇者様ってほんまにかっこええなぁ~」
とか、
「――こっち見てくれへんかなぁ」
という声が周りで飛び交っているので諦めざるを得ないような気がする。
ソル君も、周りの観衆を気にしてエラクレスをキュッと絞めるくらいしかしていないし。
ルーナたんの目があったからかもしれないけど。
「ソル、俺にも絞めさせろ」
ジャンのバーサーカーが未だに健在だ。
「いやいやいやいや、死んじゃうでござるからな?
キレやすい男はかっこ悪いでござるよ。
暴力反対~」
ルーナたんの背中から上を見上げて、ジャンにぼそぼそ主張してみた。
ジャンがジッとこちらを見下ろす。
茶色い目がちょっと深みを増して焦げ茶に見える。
ちょっと怖かったのでルーナたんにキュッとしがみつくと、深くため息をつかれた。
いやいや、狂戦士は怖いって。
ラビーは非力なんだから。
デザートプリンセスでも今のジャンには結構なダメージを負いそうだ。
「はぁ~、ちょっとは怒れよ、センセイ」
「いやでもラビーでござるからな。
ナニをどうするでござるよ」
「危機感持てよ」
危機感てなんのだよ。
心の声が表情に出ていたのか、ジャンが再び、さっきよりもっと深いため息をついた。
非常に心外である。
無事にダイヤモンドネックレスを入手した私たちは宿屋に戻った。
今日は盛りだくさんな日なのだ。
これからもイベントがある!
いかにして覗き見るかが課題だが……。
プリンに戻って縮小化できないか試してみるべきか?
見つかったら瞬殺されそうだけど。
いやいや、きっとまだ勇者達には勝てるはずだ。
ギリギリで。
「勇者様!
お待ちしておりました。
この街を代表しているカンテ様が、ぜひ夕食をご一緒したいとのこと。
どうぞ私と一緒にいらしてくださいませ」
執事服を着ている私がちょっと恥ずかしくなってしまう、これぞザ・執事といった感じの初老のお爺ちゃまが私たちを宿屋で待っていた。
お爺ちゃまは関西弁じゃない。
まぁ執事さんが関西弁だとなんとなく違和感感じるよねぇ。
「俺たちは先を急いでいる。
明日には聖域に出かける予定だが?」
ディーノさんが渋く断っている。
「お食事というだけです。
それ以上お時間を割いて頂くつもりはございません。
粗末な食事ではありますが、ぜひ」
なんてったってこの街を代表する人の夕食だ。
こんなことを言っているが、そりゃもう豪勢なんだろう。
デザートとか食べてみたい。
後学のために。
「カンテってあのおっちゃんか?
ディアーヌお嬢ちゃんの親父さんの?」
私はヒョコっと耳を立たせた。
ジャンの口から初めて女性の名前が出た!
アレか?!
元カノとか?
興味津々でジャン達を眺めていると、ジャンがコホン、とわざとらしく咳払いした。
「――有名だったんだよ。美少女で。
俺が小さい頃から」
ほほう、やはり元カノ。
「ラビーちゃんっ、誤解だと思うよっ」
ルーナたん、なぜやつのフォローをするんだ?
むしろ誤解しようがどうしようが構わないと思うのだが。
あ~、でもこれからのイベント思うと、ジャンの元カノじゃないかもしれないよねぇ。
残念。
男女の修羅場とか見てみたかったのに。
「はい、ディアーヌ様もそれはもう楽しみにしておいででございます。
懐かしい夏の思い出を語らいたいと仰っておいでございます」
……ほほう。
夏の思い出。
これはもう年齢的に初キスとかそういう感じのアレだよね?
「はっはっは、ディアーヌ嬢は紛らわしい言い方が好きだなぁ。
俺たち、顔見知り程度だったはずだけどなぁ」
はいはい。
なんでもいいから、そろそろ豪華な食事付きのイベント見に行こうよ~。




