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よみがえりの魔法と再生の道  作者: 彩霞


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第5話 違和感

 ダニエルが戻ってきてから一週間後。ルイーゼは、朝食の後片付けをしながら恋人に尋ねた。


「ねえ、ダニエル。今日の夕食は何が良い?」


「君の好きな物で」


 彼が柔らかに答える一方で、ルイーゼは顔を上げると眉を寄せた。


「昨日もそう言っていたじゃない」


「僕は、君が美味しそうに食べている姿を見るのが幸せだから」


「それも昨日言ったことと同じじゃない」


「だって、本当のことだ」


「……そう言ってくれるのは嬉しいけど」


 アルテイシアとの三つの約束。その中に、「彼に食事を与えてはいけない」とあった。ダニエル自身も自分から食べ物を望むことが無い。それは仕方のないことだと思っているが、何を食べたいのかを聞いても、彼は「ルイーゼの好きな物」としか答えないのである。


(自分が食べたいものを言ってくれてもいいのに……)


 戦争に行ってから、彼はきっと色んなことを我慢してきたはずなのだ。

 ゆえに、せめて食べたかったものや、好きだったものを作ってあげたいと思っていたのだ。


 しかしルイーゼは、それは自分のわがままだと気が付いて首を振る。


(ダニエルの好きなものを作ってあげても、彼は食べられないんだものね……。そんなことをしたらむしろ辛くなってしまうわよね。だから言わないのだわ。きっと、そうよね。きっと、そう……)


 だが、ルイーゼ自身が持っていた不満は、次第に彼への違和感となっていった。


 まずは朝起きてからのダニエルの行動が、前日とほとんど同じということ。つまり初日から何も変わっていないのだ。森にいて他にすることがないとは言っても、食事をしたあと、同じ本の同じところを、だいたい同じ時刻に二週間以上読み返していたらやはり変ではないだろうか。


 さらに変なのは会話である。言っていることがこれも同じなのだ。


 食事のことを聞くと「君の好きな物で」。

 何かやりたいことがないかと聞くと「この本を読んでいるから」。

 家族の話をすると、「分からない」もしくはルイーゼも知っているような同じことしか答えない。


 唯一、ダニエルが行動を変えたのは散歩のときだ。

 ルイーゼは嬉々としたが、日が経つにつれ、彼が森の外を気にするようになると気が気ではなくなっていった。最初は視線だけを向ける程度だったが、次第に外へ出ようとするようになったのである。


 あるとき、ダニエルはルイーゼが家事をしている間に、黙って家を出ようとしたことがあった。


「ダニエル、どこへ行くの⁉」


 彼女は、キッチンからドアの前に立つ彼に向かってヒステリックな声でとがめる。すると彼は振り返り、うつろな表情でぼそぼそと呟いた。


「戦わないと……仲間が、死んでいく」


「ダ、ダニエル……?」


 ルイーゼはいぶかしげな表情を浮かべつつ、ダニエルの傍に立つ。彼はぼんやりと彼女の顔を見た後、はっとすると「ごめん……少し休むよ」と言って、ベッドのある部屋へと行ってしまった。


 残されたルイーゼは、ダニエルの言葉を反芻はんすうした。


(あの人の中で戦いがまだ終わっていないの……?)


 それ以来、ダニエルがルイーゼから離れようとする回数が日に日に増えていき、家を出て森の外へ行こうとする彼を、慌てて追いかけ森の家に連れ戻すということを幾度いくどとなく繰り返した。


 ダニエルと生活する――。

 ルイーゼが望んだものだったのだが、彼女は日に日に憔悴しょうすいしていった。



     ☆



 ルイーゼが、アルテイシアの元を訪ねてからふた月が経とうとしていた頃。

 秋は深まり、木々を赤や黄色に彩っていた葉はほとんどなくなっていた。森に吹く風は以前に増して冷たくなって、そろそろ雪が降りそうである。


「ただいま戻りました」


 外に出ていたアズールが中へ入ってくると、アルテイシアは読んでいた本から顔を上げた。


「おかえり」


 そう言ってアズールの姿を見るや否や、またすぐに本へ視線を落としてしまう。いつもの彼なら外套がいとうを脱いでキッチンへ手を洗いに向かうのだが、今日はそのままアルテイシアに声を掛けた。


「アルテイシア様」


 アズールに声を掛けられ、彼女は本を読みながら「うん?」と返事をした。


「あのままでよろしいのですか?」


 彼の問いに彼女は本を閉じると、アズールのほうを見た。


「ルイーゼさんたちのことね?」


「はい」


 アズールは、ルイーゼがダニエルと生活を始めてから、毎日彼らの様子を外から見守っていた。それは主人に「魔法がどう作用するか分からないので、何かあれば止めて欲しい」と言われていたからである。

 だが、おかしくなったのはダニエルではなくルイーゼで、日々何かに苦悩しているかのようだった。


「彼女、相当参っているでしょう」


 アルテイシアの言葉に、アズールは目を見張る。アルテイシアはこうなることを知っていたということだ。


「ご存知だったのですか?」


「そうなるかもしれない、と思っていただけだよ」


「どういうことです?」


 アズールが怪訝けげんな顔をすると、アルテイシアは本をパタンと閉じてテーブルに置いた。そして、外に通じるドアを見つめて、ぽつりと言う。


「彼が来る」


「え?」


 どういうことだろうと考えているうちに、ドアを叩く音が聞こえた。


「開けて頂戴ちょうだい


 アルテイシアがアズールにお願いすると、彼は戸惑いつつもいつも通りの淀みない動作でドアを開ける。するとそこには、強張った表情をしたダニエルが立っていた。

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