表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/27

18.5

 イビスは苛立っていた。


 本来ならば、簡単な仕事のはずだった。

 難癖をつけて、認めないと言い切る。こちらの立場は揺るがない。ならば、相手が折れるしかない。

 今まではそれで十分だった。実際、それで多くを退けてきた。


 ――なのに、今回は違う。


 相手が下がらない。

 それどころか、余計な援護まで現れ、形勢が崩れた。


 酒をあおっても胸のざわつきは収まらない。濁った泥のような感情だけが残る。

 そんなイビスの耳元に、コルヴァスの静かな声が落ちた。


「司教。教皇猊下が、結果をお待ちでいらっしゃいます」

「わかっている!」


 感情のままに机を叩く。鈍い音が響いた。

 それでもコルヴァスの表情は微塵も変わらない。


「もちろんでございます。ただ……状況が整っていないことも、猊下は理解しておられるでしょう」


 イビスは黙った。

 コルヴァスは淡々と続ける。


「結論を急ぐのは危険です。しかし、結論が出ないままというのも、また……よろしくない」


 そう、結論が必要なのだ。教皇が納得する結論が。


「結論を出すには、結果が要ります。結果さえあれば、判断は容易です。幸い――備えは、ございます」


 そう言って、机の上に小さな包みをそっと置く。

 ごとり、と重たい音がした。

 妙な存在感を放つそれを、イビスは胡乱気に見つめる。


「……これは?」

「もしもの時のために、お預かりしていた物です。使用の可否は、司教のご判断にお任せいたします。私は、結果が明確になることを望んでいるだけです」


 言葉はあくまで穏やかに告げ、一礼して引き下がる。

 ただ、この状況を打破する解決策は示された。後はイビスの決定だけ。


「どう使う?」


 短い説明を聞き終えたとき、イビスの口元に笑みが浮かんだ。


「……そうか。明確に、だな」


 コルヴァスは何も答えない。

 ただ静かに、視線だけを伏せた。




「だから、この調子でウィステリア様を守ろうね!」


 サクラは身振り手振りを交えながら、楽しそうに語りかけてくる。

 視察官は神子を陥れようとしているとかなんとか。あまりに荒唐無稽な話で、ヒバリはいまひとつ理解できていない。

 それでも、ヒバリは幼馴染の不可思議な言動に付き合うのは嫌ではなかった。


「なあ、サクラ」

「なになに?」


 サクラが前のめりになって聞いてくる。


「一応、確認なんだけどさ。……これ、本当に大丈夫か?」

「何が?」


 無邪気に首を傾げるその姿に、ヒバリは一瞬だけ言いづらそうに視線をそらした。


「視察官って、偽証も厭わない連中なんだろ? だったら――思い通りにいかなかった時、なりふり構わなくなる可能性、あるよな」


 水を差す形になるのは承知のうえで、それでもはっきりと口にする。

 サクラはぽかんと口を開け、そのまま固まった。


「ど、どうしよう!?」


 次の瞬間、悲鳴にも近い声を上げ、部屋の中をぐるぐる回り始める。

 しばらくの間、ぶつぶつと落ち着かない幼馴染の様子を眺めていた。落ち着いてきたころ合いを見計らって、ヒバリは再び声をかける。


「落ち着けって。もし何かするなら、どこ狙うと思う?」

「う、うーん……ウィステリア様本人よりは、神木……かな」

「だよな。あの人には護衛がついてる。直接はやりづらい。だったら神木だ。しかも“視察官”だから、近づくなとも言えねえ」


 サクラが大きく首を振る。


「お願いして、神木の警備を強められないかな?」

「強めても意味ないだろ。――だったら、オレたちでやればいいだろ?」


 幸いにも、ヒバリたちが宿にしているのは教会だった。ここからなら、神木を見張ることはたやすい。


「でも、二人だけで大丈夫かな? 孤児院の仲良くなった子たちに手伝ってもらう?」

「なんて言って、手伝わせるんだよ?」

「えーと、視察官がウィステリア様をいじめてるから、来たときは注意しててって」


 ヒバリは唸った。

 できなくはないだろう。孤児院の子らは、なぜか神子にかなり好意的だ。


「そうだな、昼間は普通に祈りに来る人も多いし、それで十分か」

「じゃあ、気を付けるべきは夜なのかな。寝ずの番みたいでワクワクするね!」

「早番と遅番に分けようぜ。オレは早番で見張るわ」


 嬉しそうに、でも少し申し訳なさそうにサクラが「いいの?」と聞いてくる。

 サクラは夜更かしは得意だが、早起きは苦手だ。いいも悪いも、逆は無理だろう。

 ヒバリが頷くと、満面の笑みを浮かべた。ヒバリは照れたように頬をかく。


「居眠りすんなよ!」

「ヒバリこそ、寝坊しないでね!」

「するかよ、サクラじゃあるまいし」


 軽口を叩き合うと、顔を見合わせて笑い合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ