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第六十九話 本音



「「はぁはぁ…」」




涼太と蜜樹はなかなか終わらない攻防に息を切らしていた。

ヴーっと蜜樹のスマホが鳴り響く。




「もしもし!」




自分と戦っているのに、通話に出る蜜樹の余裕に涼太は戸惑った。

先程まで同じく息を切らしていたのに。




「…っ、わかりました、今行きます」




「通話出るなんて、余裕かよ…!」




「ごめんねぇ、あたしもう行かなきゃ!

梅さんに呼ばれちゃった」




「は、ま、待て!」




————







熱い、熱い、首元が。


……なに?


俺、なにされた?


……俺、


どうして刺されてるんだ…





「ゆうり…!」




陽翔の声が聞こえる。




俺はただ…




痛い、もう、刺さないでくれ…





ただ、

キャバ嬢じゃなく、俺を見てほしかっただけだ、父さんに。



「ゆうり…!」





陽翔が必死に手を伸ばしてくれてる。




やっぱり…涼太とキャッチボールをすればよかったかも。




ヒーローなんて、くだらないと思ってたのに…


俺はお前と、ヒーローをやりたかった





こんなことになるなら、最初から素直になれば、よかった…。





もっと、ちゃんと、向き合えばよかった…





もう、力、入らねぇけど…












「ゆうり!ゆうり!」




ふらつく足に力を入れ、ゆうりに手を伸ばす。




「陽翔…」





「ぐ…っ、ゆうり…!」






ゆうりは吐血しながら、震える手を陽翔に伸ばしたが、ぱた、と力なく床に落ちる。





時が止まった気がした。

理解することができなかった。



理解してしまった瞬間、感情が溢れた。




「あぁぁぁぁ!!

ゆうり、ゆうり!!!」




「しずかに」





「お前あのときの…なんなんだ、お前!!

ゆうりを、ゆうりを!」





「おい」




仮面の男がビクッと震えた。




「陽翔を抑えろ」




「し、しかし…」




私に逆らうのか?と睨む。

仮面の男は仕方なく、陽翔を羽交いしめする。




「離せよ!!

あと、あともう少しで…!」




ゆうりの手を取れそうだったのに…!




そう、陽翔は涙を流した。




「ゆうりくん、帰りましょうか」




梅が亡くなったゆうりを姫抱きする。




「ゆうりに触るな!!

ゆうりをかえせよ!!」




「こちらで有効活用させていただきますので、大丈夫ですよ」




「ふざけるな!!」




「…これ以上、暴れるな」




仮面の男は陽翔の耳元で囁く。




「離せ!

頼む、ゆうりをかえしてくれ!

ゆうりと一緒に帰してくれ…!」




「大丈夫ですよ、ゆうりくんの身体に酷いことはしません」




「あぁぁあ、お願いだから、頼むから…!」




「もう、聞くな」




「がっ」




仮面の男が陽翔の首に手刀を切る。

陽翔は気絶し、だらんと力が抜けた。




「こいつに、お願いしても無駄だ…。

もう残酷なものは見聞きしなくていい…」



「陽翔の絶望した顔が見れてよかった」




百合は梅に嬉しそうに話しかける。

仮面の男はその様子を見て、吐き気を催した。

陽翔をベンチに横たわらせる。




「陽翔くんはどうしますか?」




「今日はもう満足。

みんな帰る」




イルカがジャンプをし、水面を揺らした。

イルカの鳴き声のみが、スタジアムに響いた。










「はぁ、はぁ、しつこいなぁ!」





「待て…!


…!?

ゆーり…?」






スタジアムから出てくる梅に抱かれた力なく血を流しているゆうりを見て、涼太は悲鳴をあげた。




「ゆーり…!」





血の気のない、ゆうりを見て足がすくんだ。




「お前たち、ゆーりを…

陽翔は、どうした!?」




「スタジアムにいますよ」




「なんでゆーりを連れてくんだ!!」




「ゆうりくんはうちの子ですので」




「待てよ、ゆーりを!」




「陽翔くんまで、失いたいのですか?

今頃、プールに沈んでますよ」





「な、なんだと…陽翔…!」





涼太は力ないゆうりを見て躊躇うが、これ以上失いたくない、と思いスタジアムに向かう。




「くそ…!」



足が震える。

プールに沈んでる…まだ間に合うだろうか。

陽翔、せめて陽翔だけでも…!




そうスタジアムに駆け込むと、ベンチで気絶する陽翔を見つけた。





「はぁ、はぁ…!」




嘘だったのか。

逃げるための…



「う、う…!」




涼太は気絶する陽翔のベンチの前で崩れ落ちた。

生きていたという安堵と自分の甘さに、拳を握りしめた。





———



「帰るの?

射抜くチャンスだったんじゃない?」




「いいんだ、あいつを狙い撃つにはまだ準備不足だし」





ね、君もそう思うだろ?


と、日向はクリオネがいる水槽に声をかけた。


クリオネは優雅に泳ぎ、揺れていた。



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