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静まらない夜

 焚き火の炎は低く、小さく揺れていた。昼間あれだけ歩き続けたのに、夜の森は静かで、まるで時間ごと呼吸をひそめているみたいだった。


 僕は寝る前の見回りの準備をしながら、ちらりと莉亜のほうへ目を向けた。彼女は横になったまま、ぼんやりと手のひらを見つめている。眠るにはまだ少し早いようだった。


「……莉亜、眠れそう?」


 声をかけると、彼女はぱっと顔を上げた。驚いたみたいに瞬きをして、それから小さく笑った。


「……ううん、少しだけ。」

「また前世のこと考えてたの?」

「……帝国のことだよ。楽しみだなって。」

 

 莉亜の声音は柔らかくて、どこか自分を落ち着かせるようにも聞こえた。前世の記憶を抱えて、それでもこの世界で生きようとしている。彼女は強い。でも、脆くもある。それを1番知っているのは僕だ。


「そうだね、僕も楽しみだよ。莉亜がいるから。」


 そう言うと、莉亜は一瞬だけ驚いたような顔をして、そのあとゆっくりと笑った。焚き火越しのその笑みは、炎よりずっと温かかった。


「……ほんと、優真くんはずるいよ。」

「今のはわざとじゃないよ?」

「うん。そういうことさらっと言うのがずるいんだよ。」

「……それは治せないかも。おやすみ、莉亜。」

「おやすみ。……優真くんもちゃんと寝てね?」

「……もちろん。」


 まぶたを閉じる直前の横顔は穏やかで、今日一日の疲れが溶けていくように見えた。


 ――この世界で、また莉亜と出会えたこと。2人とも、生きていること。全部全部奇跡みたいなものだよね。


 胸の奥を静かに満たすその想いは、僕の疲れを少しだけ癒してくれた。


 莉亜の寝息が整った頃、僕はそっと立ち上がった。焚き火に薪をひとつ足す。ぱち、と火の粉が弾けて夜空へ登る。


 そして僕は森の暗がりへゆっくり踏み出した。彼女が安心して眠っていられるように。――そのためなら、僕は何度でもこの暗闇を歩く。歩き続けなきゃいけない。それが、彼女を守ると決めた僕の責任。あと2日だ。帝国につけさえすれば、追っ手が来ることは無い。そうすれば、莉亜はもっと笑顔を見せてくれるかな?ひとつの曇りもない笑顔を――。莉亜の笑顔。喜んでいる顔。それが見たい――ただそれだけなんだ。彼女が不安にならない日々を過ごせるように。

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