焦りの結晶
森の朝は冷たいはずなのに、僕の体はずっと熱っぽかった。エリオットの言葉が、頭の奥でずっと鳴り続けているからだ。莉亜が騎士団に見つかったら?見つかんないように、できるだけ早く移動しないと。本当は飛行魔法で飛んでいきたいけど、そんなことしたらすぐに見つかってしまう。だから、急いで歩こう。
「優真くん、そんなに急がなくても……」
「急がないと、見つかっちゃうよ。」
言い方がきつくなってしまった。その瞬間、莉亜が少しだけ驚いた顔をしたのが視界に入って、胸が痛んだ。ごめん。でも、君を守るためなんだ。理由は言えないけど……。
「うわっ……!」
足が木の根に引っかかり、前につんのめる。咄嗟に手をついた地面には小さな石があって、強く擦ってしまった。
「優真くん!?」
莉亜がすぐ駆け寄ってきた。手のひらを見れば、赤くなってじんわりヒリつく。
「大丈夫。ちょっと擦っただけだから。」
「大丈夫じゃないでしょ! 見せて!」
強めの声に、僕の動きが止まった。怒ってるっていうより……すごく心配してる声で。莉亜を心配させてしまった。そのことに、後悔で押し潰されそうになる。莉亜は僕の手をそっと取った。その指先が震えているのがわかる。
「……!」
淡い光が莉亜の両手から広がっていく。森の薄暗さを押し返すみたいに、優しい光が手のひらに温かくしみ込んで、痛みがじんわり消えていった。それと一緒に、心のざわつきも少し溶けていくような気がした。
「……治癒魔法?」
「うん。痛くなくなった?」
「うん、ありがと。」
そう答えると、莉亜はほっとしたように笑った。その笑顔が、焦りでばらばらになっていた僕の心をそっとまとめてくれるみたいだった。
「優真くん、私のこと、もっと頼ってくれていいんだよ?」
「……?頼ってるよ。」
「うそ。1人で抱え込もうとしてるでしょ?隠してることがあるの、私でもわかるよ。」
僕は言葉が出なかった。
「言わなくてもいいけど……。でもね、私は優真くんに頼って楽になったから。もっと私の事も頼って欲しいな。私、守られてばっかだもん。」
「……ありがと。」
そう言うと、莉亜はふわっと笑った。
「うん。助け合おうね。」
差し出された手は小さくてか弱いけど、それでもどこかに強さがあった。その手を、僕はしっかり握り返した。莉亜のことを守る。でも、守られたっていいんだよね。莉亜の手の温かさが、そのことを教えてくれた。




