明らかな敵意
だいたい挨拶が終わり、パーティーも終盤に差し掛かってきたころ。1人の少女が挨拶に来た。
「……ご挨拶が遅くなりすみません。グランチェス公爵家のリアナ・グランチェスと申します。よろしくお願いします。」
リアナと名乗る彼女は、すみれ色の髪に紫紺のきりっとした瞳だった。
「よろしくお願いします、リアナ。」
「よろしくお願いします、リアナ様。」
挨拶をすると、セレスティアに対して、鋭い視線を送っていた。セレスティアに嫉妬している。こんなに敵意が感じられる令嬢はいなかった。どの令嬢も、密かに、だった。この人は、違う。頭のどこかで警笛が鳴り響いた。
「セレスティアは侯爵家なのよね。レオン様に不釣り合いじゃないかしら?」
「セレスティアは聖女だ。侮辱するな。」
リアナに牽制しつつ、セレスティアを少し後ろにさげる。悪役令嬢――。彼女のような人のことだ。この時、初めて実感した。
「侮辱なんてしていません、レオン様。セレスティアよりもっとレオン様にお似合いな方がいるでしょうに、と申しただけですよ。」
彼女の笑みは、完全にセレスティアを軽蔑したものだった。セレスティアを見ると、困ったように笑っている。
「セレスティア、行きましょう。」
「……はい、レオン様。」
リアナとの出会いは最悪だった。悪役令嬢――。莉亜はこんな人に憧れていたのか。腹が立った。莉亜にもリアナにも。莉亜は悪役令嬢なんかになれない。死ぬ間際まで、僕の心配をしてたから。この世界の悪役令嬢が莉亜だったら良かったのに。そうしたらセレスティアが傷つかずに済んだ。リアナは、救いようがない悪人――。人を傷つけてあんなにも楽しそうに笑っていられるのだから――。
この時の僕は、1度あっただけでリアナを悪人と決めつけていた。その裏に理由があるとも知らずに――。
「セレスティア、大丈夫か?」
少し離れたところで、彼女に声をかけた。さっきの笑顔があまりにも苦しそうだったから。
「……ええ、大丈夫です。こうなることは予想できてましたから……。」
「そんな……。ごめん、守れなくて。」
「いえ、レオン様の責任ではありません。」
そう言うセレスティアの顔は、とても辛そうで、大丈夫には見えなかった。
前世で、莉亜のことを救いきれなかった。そのことを、今でも引きずっているのかもしれない。また、守れなかった。そう思うと、胸の奥がずきりと傷んだ。セレスティアのことを守る。そう心の中で誓った。もう悲しませないように……。




