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自殺しようとする同級生を助けたら乙女ゲームの世界の王子になりました  作者: 夜月海歌


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29/88

リアナの沈黙

 夜の学院は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 蝋燭の炎がわずかに揺れる。影が長く伸び、僕の胸の奥まで不安を差し込む。


 ――リアナは、何を隠している?


 事件の記録を洗い直した結果、どうしても腑に落ちない点がひとつあった。聖具が壊れたあの夜、リアナとセレスティアが学院の東回廊で“二人きりで会っていたこと”。なぜそのことを、どちらも口にしないのか。その時、何を話していたのか。


 疑問は確信に変わりかけていた。けれど、真実を知るためには、彼女の口から聞くしかない。僕は、図書館の灯りがまだともっているのを見て、迷わず扉を開けた。


 リアナは机に向かっていた。長い髪が肩にかかり、指先は静かに本の頁をなぞっている。僕の気配に気づいても、彼女は顔を上げなかった。


「……リアナ。」

 声が思ったより低く響いた。

 やっと彼女が顔を上げる。その瞳は、まるで眠っているみたいに感情の色を失っていた。


 「レオン様。まだ起きていたのですね。」


 ――いつもの穏やかな口調。けれど、そこにあるのは距離だった。

 触れようとしても、届かない場所にいるような。


 「君に聞きたいことがある」

 僕はゆっくりと歩み寄った。

 「事件の夜、東回廊で……セレスティアと会っていたね?」


 リアナの手が止まる。

 蝋燭の火がぱちりと弾け、光が一瞬だけ彼女の表情を照らした。

 けれど、次の瞬間には何事もなかったように再びページがめくられる。


 「どうして、そんなことを?」


 「一瞬見たんだ。ふたりが話していたところを。」

 僕は彼女の真正面に立つ。

 「リアナ、あの夜、何があったんだ?二人で何を話した?」


 彼女は視線を落としたまま、何も言わない。

 その沈黙が、ひどく痛かった。

 僕は机の上に手を置き、身をかがめた。

 「君がやったなんて、僕は思っていない。だけど、黙っていたら誰も信じてくれない。どうして何も言わない?」


 リアナの唇がわずかに動く。

 「……信じてくれないからよ」

 囁くような声。だけど、その奥にかすかな震えがあった。

 「私が何を言っても、もう誰も信じてくれない。だから、黙っている方が楽なの」


 「僕は信じる」

 思わず言葉が出た。

 「何があっても、君を信じる。だから、話してくれ。頼む、リアナ」


 彼女の瞳が、ゆっくりと僕を見た。

 揺れて、光って、けれどすぐにその光は消えた。


 「……レオン様、あなたを巻き込みたくない。」

 「僕は君の味方だ」

 「違うわ。あなたは王子様。私は、悪役令嬢よ」

 「そんな呼び方、もうやめろ!」


 怒鳴った自分に、驚く。

 リアナの肩が小さく震えた。

 僕は深呼吸をして、声を落とした。

 「……君が誰に何を言われようと、僕にとっては莉亜なんだ。それ以上でも、それ以下でもない。だから、本当のことを話してくれ。」


 しばらくの沈黙。

 蝋燭の炎がまた揺れて、壁に僕らの影を映した。

 リアナの影は小さく、頼りなかった。


 「話せない。」

 「どうして?」

 「話したら、あなたを傷つけてしまう。」


 その言葉に、心臓が強く締めつけられる。

 真実を彼女は言わない。でも、もう彼女が犯人ではないということは明白だった。


 「リアナ……」

 僕は彼女の名を呼んだ。けれど、その声はどこにも届かない。

 彼女はただ、静かに本を閉じて立ち上がる。

 「もう遅いわ、レオン様。さようなら。」


 背を向けて去ろうとする姿が、ひどく遠く感じた。

 僕は一歩、彼女に近づく。


「……莉亜。聖具を壊したのはセレスティアか?二人で話した時に、彼女が君の髪飾りを奪った。そして、聖具を壊して君のせいにした。違うか?」

「……レオン様は全てお見通しだったのですね。」


 彼女は振り返りながら言った。その顔は、涙と笑顔で溢れていた。

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