気づいてあげられなかった思い
「……レオン様。落ち着きましたか?」
「セレスティア……。ごめん、リアナを止められなかった。」
「私は大丈夫。レオン様は大丈夫?」
「ごめん、心配かけた。」
「私は、もういいよ。」
「え?」
「何言われても平気。全部受け止めればいいだけだから。」
「それは、だめだ。セレスティアが壊れてしまう。それに、リアナは……。」
「リアナ様は……?」
「いや、なんでもない。」
「そう……。」
セレスティアは少し歯がゆそうな顔をしていた。
「……レオン様。さっきなんで“りあ”と呼んだの?」
「それは……。」
「……。言いたくないなら言わなくてもいいよ。無理に聞き出したらリアナ様に束縛だって言われちゃうもんね。」
「ごめん、セレスティア。いつか、言える日が来たら言うから……。」
「うん。待ってる。」
セレスティアの優しさが心に染みる。やっぱりこの笑顔を壊してはいけない。改めてそう思う。
リアナに言わなきゃいけない。今まで先送りにしてたけど――。このままじゃだめだ。
「……リアナ。」
「レオン様、こちらを見ないでくださいませ。」
「……リアナ?」
リアナの目には涙が浮かんでいた。リアナを泣かせたのは……僕だ。
「リアナ、ごめん。」
「なんのことですの?」
「リアナ、もうやめてくれ。」
「私はやりたいことをやっているだけです。たとえ王子様が止めようと、私の意思は変わりませんわ。」
「王子様なんかじゃない、優真として。」
リアナの目が揺らいだ。
「……それを出すのは、ずるいです。」
「ずるくてもいいよ。もうやめてくれ。」
「私は……。私は悪役令嬢です。」
「リアナ、それは違う。自分からなりにいってるだけだ。」
「悪役令嬢は無駄にプライドが高いの。何を言われても途中で折れることはないわ。」
「リアナ。それは君の本心じゃない。」
また、リアナの瞳が揺れる。リアナが自分の中で葛藤しているのがわかる。だから、僕はリアナに手を差し伸べるだけ。前世みたいに道連れになんないように、しっかりと手を握るだけ。
「リアナ。君は人を傷つけることが苦手だろう?悪役令嬢を演じなきゃいけないのに、自分では攻撃しない。嫌味を言っても、リアナまで苦しんでる。そんな人に処刑なんてできない。“意味のある死”って莉亜は言ったよね。今の君が死んでも、そんな綺麗な意味は誰も見いだせない。君が死んだからといってセレスティアが救われる訳でもない。」
「違う。私は悪役令嬢、私が処刑されたら世界が幸せに包まれるのよ。」
「だから、莉亜は悪役令嬢じゃない。悪役令嬢になりきれなかったやつが死んだって世界は変わらない。」
「ひどいこと言うわね。」
「処刑しない。」
「……え?」
「それでも莉亜が貫くんなら、処刑しなければいい。」
「無理よ、私には罪がたくさんあるんだから。」
「莉亜のじゃない。それに、今から新しい罪を作ることができるのか?莉亜は人を傷つけれない。だから、この先も罪は増えない。」
「言葉も罪よ。セレスティアのこと傷つけているわ。レオン様のことだって傷つけた。そんな私に、生きる価値なんてないのよ。」
「違う……。」
「何が違うのよ?」
「……。」
僕は答えることができなかった。言葉は人を傷つける。痛いほどわかる。でも、リアナは本心で言ったわけじゃない。いや、本心じゃなくても、傷つけたことは変わらない。でも、リアナが悪いのか?リアナは処刑されるほど悪いことをした?
「リアナは悪くないよ。」
「……!」
リアナの目には涙が浮かんでいた。初対面の時は冷たい紫紺色だと思った瞳も、今はアメジストのように輝いて見えた。




