変事
その日の夜。
「ねえ、お父さん」
妙子がセレスの部屋に訪ねてきた。
「? どうした、妙子?」
「また、これを読んで」
「ああ、赤毛のアンか。いいぞ。妙子の部屋に行こうか」
セレスと妙子は本をもって妙子の部屋に移動した。
妙子はベッドに入り込むと、照明を暗くするように、セレスに頼んだ。
「妙子はまだ真っ暗は怖いか?」
「うん。少しだけ明るくしてほしい」
「じゃあ、この前読んだところの続きだな」
「うん!」
セレスは朗読を始めた。
「ねえ、お父さん」
「どうした、妙子?」
「心配かけてごめんね」
「……ああ、そうだ。俺も心配した」
「私、良い子になるから……」
「妙子」
「なあに?」
「おまえは無理に良い子になる必要なないんだ。苦しければ良い子をやめてもいい。おまえはあるがままのおまえであれば」
「……うん」
「さあ、続きを読むぞ」
セレスは続きを読み進めた。
いつの間にか妙子は眠っていた。
「妙子……眠ったか……」
セレスは妙子のそばに本を置き、セレスは妙子のほおにキスをした。
その日はミリアは早く帰宅していた。
キッチンでは夕食の準備をしていた。
ミリアは扉が開く音を聞いた。
「妙ちゃん、おかえり」
「……」
「妙ちゃん?」
ミリアは心配になって妙子の近くに寄った。
「うわああああああん! ミリアお姉ちゃん!」
妙子はミリアに泣きながら抱きついてきた。
「妙ちゃん、どうしたの!? なんで泣いているの?」
「ウう、ううう……ぐすん……これ……」
妙子は月州語のノートをミリアに見せた。
「何、これ!?」
そこには赤鉛筆で「しね」と書かれていた。
「まずは兄さんに電話しないと……」
ミリアはスマホを出して、セレスに電話をかけた。
「俺だ。どうした、ミリア?」
「兄さん? 悪いけど、すぐに帰れる?」
「ん、まあ、すぐに帰れるが……どうかしたのか?」
「ええ。口で説明することよりも実際に来てもらった方がいいと思って」
「……わかった。すぐに帰る」
セレスは飛ぶように帰ってきた。
「今、帰ったぞ! ミリア!」
「ああ、兄さん、おかえりなさい」
時刻は夕方の4時35分だった。
「いったい、何があったんだ?」
「兄さん、これを見て」
「これは……」
そこにはノート一面に大きく赤鉛筆で「しね」と書かれていた。
「そういうことか……妙子は今どうしてる?」
「妙ちゃんは今泣きつかれて寝ちゃったわ」
「これはいじめだな。ほかには何かなかったのか?」
「わからないわ。妙ちゃんはほかには何も言わなかったから……」
「学校から事情を聞き出す必要があるな。俺は東山先生に電話してみる。ミリアは妙子の様子を見守っていてくれ」
「わかったわ」
セレスは東山先生に電話をかけた。
「はい、東山です」
「東山先生ですか? 俺です。セレス・ファーゼンハイトです。実は妙子のことでお話を聞きたいと思いまして」
「妙子さんがいじめられたことですね?」
「もう、ご存じでしたか」
セレスは対応が早いなと思った。
「そのことについて話をしたいのですが、明日学校に来ることはできますか?」
「……わかりました。詳しいことはその時に。明日学校にうかがいます」
セレスは電話を切った。




