妙子の失踪
次の日、テレビをつけて三人は朝食を取った。
メニューはご飯、みそ汁 (豆腐とわかめ)、目玉焼き。
セレスの目玉焼きだけが白味と黄身がまじりあい、多少こげついている。
「……どうして俺の目玉焼きだけがこんな悲惨な状態なんだ?」
セレスはとがめるような口調で。
「だって、それは妙ちゃんが作ったのよ? 嬉しそうにいただけば?」
「お父さん、ごめんね。失敗しちゃった」
妙子があどけない顔で見上げてくる。
「ま、まあ、妙子も失敗くらいするだろう……妙子、人は失敗してそれから学ぶことが大事なんだ。これはこれで食べられるだろう。妙子、ありがとう」
セレスは目玉焼きに醤油をかけて食べてみた。
「ふむ……見た目はこれでも味はいけるな」
「それは当然よ。私が隣で見ていたんだから」
「妙子、失敗は誰でもする。それからいかに学ぶかで、人は違いが出てくる。まずは経験だ。妙子には料理のセンスがあると思う。だから、あまり深く悩むな」
「うん、ありがとう、お父さん」
「妙ちゃん、ゆっくり朝食を食べている時間はないわ。少し、急いで食べてね?」
ミリアが妙子を気づかった。
「うん、ミリアお姉ちゃん」
その後、妙子は登校した。
聖光基地にて。
この基地は対悪魔用に建設された。
聖騎士の仕事とは人を襲う悪魔から人々を、守ることである。
この日は天気は晴れやかだったが、暗い雲が現れつつあった。
どうやら午後から一雨来そうだ。
セレスとミリアは食堂で昼食を食べていた。
メニューはけんちんそばであった。
「フーム……やはりそばはいいな。俺はそばの方がうどんより好きだ」
「ここの食堂はその気になったら、麺をうどんに変更できるわよ?」
正面の席でミリアがそばをすすった。
二人とも食べ方に品があった。
音を立てないように食べている。
その時、セレスのスマホが鳴った。
「? 誰だ?」
セレスはスマホを取った。
「私です! 鈴木 ゆかりです!」
「これはこれは担任の先生。妙子はどうしていますか?」
「大変なんです! 妙子ちゃんが学校からいなくなりました!」
「なんだって!? それはいつからですか?」
「昼休みになったころからです! 私が気づいた時にはもういなくて……」
セレスはこういうトラブルが起きたことを冷静に考えていた。
むしろ、妙子の良い子ぶりが異常だったのだ。
「先生、落ち着いてください。私には妙子の行き先にいくつか心当たりがあります。先生にはそのまま教室にいてください。妙子は私が見つけますよ」
「わかりました。お任せします。こちらで妙子さんの姿を見かけたときは連絡しますね」
「それでは……」
セレスは着信を切った。
「妙ちゃんがいなくなったの!?」
「ああ、そうらしいな」
「私も探したほうがいいわよね?」
「いや、もしかしたら家に帰ってくるかもしれない。ミリアは家で待っていてくれ。妙子は俺が探し出す」
「わかったわ」
セレスはさっそくジープである場所を訪れた。
そこは仏教寺のある墓地だった。
セレスが車から外に出ると雨が降ってきた。
「雨、か……」
セレスはそのまま中川家の墓へと向かった。
すると、そこには妙子の姿があった。
「妙子……ここにいたのか?」
「セレスさん……」
妙子はこちらに顔を向けた。
妙子は泣いていた。
セレスは妙子に近づいた。
そして、優しく抱きしめた。
「どうして泣いているんだ?」
「だって、私のお父さんとお母さんは何で死んじゃったの?」
それにセレスは答えられなかった。
「お父さんとお母さんに会いたい……会いたいよう……うう……」
妙子はそのまま大きく泣き出してしまった。
「妙子、おまえのお父さんとお母さんは死んでしまった。事故らしいが……おまえだけ奇跡的に生き延びた。その命をおまえは大切にしなければならない。まだ頼りないかもしれないが俺とミリアがついている。俺たちは家族だ。俺たちは家族だ。俺たちは必ずおまえを見捨てない。俺たちはおまえたちを守って見せる! それとも俺たちではだめか?」
セレスは真剣に妙子に聞いた。
「俺たちは妙子を愛している。それだけは忘れないでくれ」
「うん……」
妙子はセレスに抱きついた。
それから妙子は泣き続けた。
思い返してみれば、妙子は葬儀でも泣かなかった。
今まで溜め込んでいたものが決壊したのだろう。
その後妙子は泣きつかれたのか、眠ってしまった。
セレスは妙子を家まで運び、ベッドに寝かしつけた。