出会い
12年前の雨の日だった。
雷がとどろいていた。
これは事故だった。
突如、車は暴走し、電柱にぶつかった。
中川両親は即死、後部座席にいた娘・妙子はシートベルトをつけていて無事だった。
ある者はこの光景をほくそ笑んで眺めていた。
月州共和国首都「月都」。
セレスとミリアは聖騎士団に属する聖騎士だ。
聖騎士団はシベリウス教の宗教的アイデンティティーのようなものだ。
これはシベリウス教の特徴で、宗教と軍事が結合しているのだ。
聖騎士団は主に悪魔と戦うために存在している。
そして月花基地を本部としている。
セレスとミリアは兄と妹の関係だった。
セレスはジャージでランニングして来ていた。
セレスの髪は金色だった。
セレスは基地に戻ってきていた。
「ふう……よく走ったものだ。今日のランニングはこれで十分だろう。さて、もう昼だ。食堂で弁当でも食べるか」
そこに一人のきれいな女性が来た。
「ランニング、ご苦労様。どうするの? これからシャワーを浴びる? それともご飯にする?」
セレスはミリアが差し出したタオルを受け取る。
「先にご飯にするよ。シャワーはその後で入りたい」
「じゃあ、食堂に行きましょう」
セレスとミリアが歩き出したとき、ふとセレスのスマホが鳴った。
セレスはスマホを取る。
着信は友人の中川からのものだった。
セレスは顔をしかめる。
「こんな昼にいったい何の用だ? はい、もしもし?」
セレスが電話に出ると。
「あの、ファーゼンハイトさんですか?」
「? あなたは?」
セレスの耳に響いたのは友人の声ではなかった。
それは年配の女性の声だった。
「失礼しました。私は中川 健一の母です。とても申しにくいことなのですが、先日健一が事故で他界しました」
「え?」
セレスは一時我を疑った。
いったい、何を言われたのかわからない。
「つまり、交通事故で健一は死亡いたしました」
「健一が、死んだ?」
あまりに早すぎる死だ。
セレスは呆然とした。
セレスはリアリティーを感じ取ることができなかった。
「健一と今まで仲良くしてくれて、ありがとうございました。葬儀の日程は後程お伝えいたします。失礼します」
スマホの通話が切れた。
「? どうしたの、兄さん?」
「ミリア……大変なことになった」
「大変?」
「健一が事故で死んだ」
「え? 健一さんが?」
ミリアは驚きの表情を浮かべた。
ミリアも思考が一瞬止まったようだ。
「そんな……まだ22歳だったのに?」
健一はセレスの親友だ。
そして、ミリアとも面識があった。
セレスは今年で22歳。
ミリアは20歳だ。
中川 健一は学生の時に、美和 緑とのあいだに一人の子供をもうけている。
「ああ、あまりに若すぎる死だ」
セレスは喪服に着替えて中川 健一の自宅に行った。
健一は仏教徒であったため、葬儀は仏教式で行われる。
月州では人は必ず、何らかの宗教に入らねばならない。
と同時に宗教で人間が区分される。
セレスとミリアが中川家の親族に一通りあいさつすると、顔見知りの人物と出会った。
「おまえ、立花か? そっちのおまえは牧野か?」
「「ああ、そうさ。よくわかったね」
「久しぶりってことかい? 高校を卒業して以来だな」
三人は死んだ中川のことで話をした。
立花は新聞配達の仕事をしていて、牧野は工場で働いているらしい。
セレスは二人と別れると、ふと、ひとりの女の子が目に入った。
それがセレスと妙子の初めての出会いだった。
「君、どうしたの?」
セレスが優しく話しかける。
「……」
「君の名前は?」
「妙子」
「妙子? 健一の娘か? いくつだい?」
「6歳」
「そうか、つまり小学生だね」
「うん」
妙子は下を向いてさびしそうな表情をしていた。
「あら。兄さん、その子は?」
「この子は妙子。中川 妙子。 健一の娘だ」
「健一さんの?」
セレスはその後、妙子が身寄りがないため孤児院に入れられることを知った。
親族は妙子にあまりいい感情を抱いていないようだ。
セレスは妙子は悪くなく、周囲の人間に問題があると思った。
「なあ、妙子?」
「なあに?」
「俺の娘になる気はないか?」
この言葉を当時の妙子は信じられないというような表情で聞いていた。