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51.永遠の愛を君に

「――ごめんね、クルトにまで迷惑かけちゃって」


 お兄ちゃんとの食事を終えた帰り道、クルトとゆっくり、暗くなった道を歩いた。


「クルト、仕事中だったのに行ってくれたんでしょ? ありがとう」

「いや……」


 食事中も口数の少なかったクルトが何を考えているのか少し不安を覚えた私は、あえて明るく言葉を紡いだ。


「ユア、少しあの神社に寄って行かないか?」

「……うん、いいけど」


 けれど、やっぱりクルトは何かを考えるように真剣な表情のままそう言っていつもの神社に私を誘う。


 帰れば綾乃たちの家族がいる。

 とてもあたたかい人たちだけど、クルトはもう少し私と二人きりで話したいことがあるのかもしれない。



「――ユア」

「なぁに?」


 神社まで黙って歩いてきた私たちは、拝殿前の石段に並んで座った。


「ユアはルイに言われた通り、自分の家に帰ったほうがいい」

「……え」


 ずっと何か言いにくそうにしていたクルトがようやく口を開いたと思ったら、突然はっきりとした口調でそう言った。


「本当は心配なんだろう? 母上のこと、ずっと気になっていたんじゃないのか?」

「どうして……? そんなことないよ」


 なんだか、嫌な予感がする。

 クルトの口調は穏やかだけど、なぜだか、胸が変にざわざわする。


「ルイも言っていただろう? 離れて暮らしても、別に会えなくなるわけじゃない」

「でも……いくらこっちの世界に慣れてきたとはいえ、まだまだわからないことも多いだろうし、私と一緒にいたほうがいいでしょう……?」

「仕事にも慣れてきた。そんなに困ることはないから大丈夫だ。それよりユアはずっと母親の愛に飢えていたのではないか? 本当は母上と一緒にいたいはずだ」

「……」


 どうしてだろう。

 お兄ちゃんやクルトが言うように、私はまだ十八歳なんだし、恋人と同棲なんて早いのはわかってる。だけど、なんだかとても彼を遠くに感じる。


 もし今ここで頷いたら、もう二度とクルトに会えなくなってしまうのではないかと思うほど、焦燥感を覚える。


 ……そんなはずないのに。


「私は本当に気にしてない。もう自立するって決めたから」


 だから、ついムキになって言葉を返してしまった。

 重たい女だって思われちゃうかな。


「どうした、ユア。そんなに俺と離れたくないとは……よほど俺のことが好きなんだな」


 クルトはいつもの冗談みたいに笑って言ったけど、私はその言葉に目を逸らさず、まっすぐに彼を見つめ返した。


「そうだよ」

「――え?」

「よほど好きなの。クルトのことが」

「…………」


 考えるでもなく口をついて出た言葉に、クルトが息を呑む音が聞こえた気がした。


「私は、もうクルトと離れられないくらい、あなたのことが好き」

「……」

「そんなの、わかってるでしょう? クルトは違うの?」


 彼が私を呼ぶ声にも、触れる指先にも、いつも私を強く想ってくれている感情が込められていた。

 これは勘違いでも、自惚れでもないって、わかってるよ。


 クルトは、自分がこの世界の人間じゃないことを気にしているのよね?

 どうせ、この世界の住人じゃないから自分じゃ私を幸せにできないとか……そんなことを考えたんでしょ?


「ユア、俺は――」

「異世界から来たとか、戸籍がないとか……そんなの関係ないよ。だってクルトはここにいるじゃない。私の目の前で、こうして生きてる」

「……」


 彼が口にする前に、それを否定した。

 クルトだって、本当はわかってるはず。


 私って、結構我儘みたい。今まで我慢していたから、一気に溢れているのかも。


「私はクルトと一緒にいられるのなら……たとえ入籍できなくたっていい。クルトが主夫になってくれてもいいよ。そしたら私がクルトを養ってあげるから――っ!」


 つい勢いで、プロポーズみたいなことを言ってしまった。


 けれどずっと黙っていたクルトが動いたと思ったら、次の瞬間には彼の顔が目の前にあって、私が言葉を呑み込む。


「……俺にも話をさせてくれ」

「…………」


 クルトに「さよなら」を言われるのではないかと怖くてしゃべり続けていた口を、彼の唇によって塞がれ、黙らせられたのだ。


「君を不安にさせてしまったようだな、すまない。だが俺はユアのことを愛している。誰よりも、何よりもユアが一番大切であることは今でも変わらない」

「……クルト」


 私の肩に手を置いて、まっすぐに見つめてくれる彼の瞳にはいつものように私への想いが込められていた。


「確かに俺は怖かった。ユアに辛い思いをさせるのが。だがユアがそこまで覚悟をしてくれているのなら、もう考えるのはやめだ」

「……?」

「俺は何があっても絶対に君を離さない。ユア、どうか俺と結婚してほしい」

「――――!」


 とても力強いその言葉が、じんわりと私の中に響いていく。


「俺が異世界人だとか、だから君を幸せにできないだとか……そんなことを気にする暇がないくらい、ユアを愛してみせる。それに、どうせ嫌だと言われてもユアから離れられる気がしないしな」


 軽い言葉じゃないということは、私が一番よくわかってる。

 だってクルトは今までずっと考えてくれていたはずだから。


 今までずっと同じ家で、同じ部屋で寝泊まりしていたのに手を出してこなかったのは、私たちのことを真剣に考えてくれていたからだ。


 だってこんなに伝わってくる。


 クルトの想いは嘘じゃないって、私をとても大切にしてくれているって、自信を持って言えるくらいその気持ちが伝わってくる。


 だから、その言葉の重みは誰よりもよくわかる。


「はは、泣くな。ユア」

「だって……っ」


 それを思えば、どうしても涙が込み上がってきた。

 もちろんこれは、幸せな涙。


「本当にユアは泣き虫だな」

「……クルトの前でだけだよ?」

「その涙は、俺が一生拭い続けてやろう」

「……うん」


 いつものように優しく親指で私の涙を拭って、視線を合わせるとゆっくり顔を近づけてくるクルト。


 まぶたをおろせば涙の雫にちゅっと口づけて、そのまま頰に唇を滑らせていく。


「……」

「……ユア」


 ねだるように彼を見つければ、言いたいことを理解してもう一度唇を重ねてくれるクルトに心の底から安堵してまぶたをおろし、永遠の愛を確かめ合えた喜びを深く深く噛みしめた。


 相手を想うその気持ちを溢れさせるように、何度も角度を変えては互いの熱を確かめ合う。


 いつの間にか背中に回されていたクルトの手が腰を撫で、くすぐったさに身をよじらせると彼との距離がより縮んだ。


 私も彼の背中に腕を回し、その存在を確かめるようにクルトの熱を感じた。


 クルトは確かにここにいる――。


「……クルト」

「誓うよ。これから先も、君の笑顔は俺が守る」

「本当?」

「ああ、本当だ」


 一度唇が離れたところで彼の名を呼ぶと、クルトはとても優しく微笑んで愛を誓ってくれた。


 私はその言葉があればこれから何があっても頑張れそう。

 そう思ってぎゅっと彼に抱きつくと、クルトも私を優しく抱きしめてくれる。


「……ずっとこうしていようね」

「ああ、もちろんだ」


 同じ柔軟剤と、同じシャンプーを使っているはずなのに、クルトは私とは少し違う匂いがする。すごくいい匂い。クルトの匂いが、私は大好き。


「……」

「クルト――」


 もう一度見つめ合い、ふとまぶたを下ろしてクルトからの口づけを待った。


 ――けれど。


「……クルト?」

「ユア……?」

「クルト……!?」


 ふわっとクルトの身体が浮き上がったような感覚になったと思い目を開けた次の瞬間、目の前にいたはずのクルトが遠くに消えていく。


「え、待って、クルト……どこに行くの……っ!?」

「――ユア!!」

「クルト……! 待って、待ってよ、クルト――!!」

「――……!」


 クルトが私を呼ぶ声が、かすれて聞こえなくなる。

 必死に手を伸ばしても、私の指先は彼に届かない。


 クルト、クルト……!!


 今誓ったばかりなのに、あなたは一体私を置いてどこに行くのよ――……。



本日4回目の投稿です。次は22時頃で本編完結予定。

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