45.漢クルト、ピンチ再び(※クルト視点)
身体にひっかけられたビールを流しに風呂場へ行き、ついでだから頭も全身も洗って湯浴みを済ませた。
そこで部屋から着替えを持ってくるのを忘れていたことに気がついて、少し悩んだ。
ユアを呼んで持ってきてもらおうか……自分で取りに行くか……。
ルイは二階で寝ているし、どうしたものか……。
考えた結果、腰に布を巻いて自分で取りに行くことを選んだ。
しかし、そのほんの数分の間にアヤノたちは帰ったようで、リビングにはユアだけが残されていた。
先ほどユアがルイを部屋に運んでいる間に、友人たちと交わした会話が思い起こされる。
『クルト君、結愛とはどうなってるんですか!?』
『どうって……、別に』
『やっぱりまだなんだ! 一緒に暮らしてるのにクルト君って真面目なんですね!』
『とにかく、今夜はクルト君に最大のチャンスをあげますから! 結愛も十八歳になったので、安心してくださいね!』
『……チャンス? 安心って何を……』
『私たちからの誕生日プレゼント! だからクルト君は楽しみに待ってて!』
――――。
最後のほうだけユアに聞かれて、なぜか彼女は不機嫌になっていたが、あれはつまりこういうことを言っていたのだろうか。
俺にビールがかかったのはさすがに計算外だろうが、酒に弱いルイが酔いつぶれることを見込んで、俺たちを二人きりにするという作戦か……?
気持ちはありがたいが、しかしなぁ……。
悩ましい気持ちでユアに声をかければ、俺の格好を見て彼女は顔を真っ赤にして動揺した。
そうだった、俺は今ほぼ裸だったのだ。
自分でもまずいとは思ったが、ユアがそれ以上に動揺してソファに倒れ込んだから、つい「大丈夫か」と声をかけて一歩歩み寄ってしまった。
「大丈夫じゃない」と答えて俯くユアがあまりにも可愛くて、俺の胸は締めつけられる。
このままユアを抱き上げて部屋に運び込んでしまいたくなる衝動をなんとか抑え、早く服を着てこいというユアに、確かにまずはそれからだと自室に足を向けたとき、玄関に繋がる廊下の扉が開けられた。
アヤノたちが戻ってきたのかとそちらに顔を向けると、そこには知らない女性がいた。
綺麗な人だが、俺やルイよりもかなり年上の女性だ。
髪を綺麗にまとめ上げ、スーツというこの世界の正装に身を包んでいる。
「……誰かしら、この男」
見たことのないその女性は、偉そうに腕を組んでユアを見下ろしていた顔をそのまま俺に向け、えらく冷たい瞳で睨み付けてきた。
「結愛、どういうことかきちんと説明しなさい」
「え……っと」
突然現れた、知らない女性。ユアの友人というわけではなさそうだ。
もしかして……。
「貴女は、ユアの母上殿ですか?」
「……」
「うん、そうだよ……」
ユアは先ほどとは比べものにならないほど顔を真っ青にしながらチラリと俺に視線を向け、女性の代わりに呟いた。
やはり、母上か。
この家の人間は、いつも突然帰ってくるらしい。
冷めた目で身体を上下に観察されて、自分の今の格好を再び思い出す。
「あ……では、親子水入らずで話すといい」
きちんと挨拶をしたいが、まさか初対面がこんな形になるなんて……最悪だ。
「ちょっと待ちなさい」
さすがの俺でもこの状況がどれほどまずいことかわかる。
だから早々に部屋に籠もろうと背中を向けたが、すぐさま突き刺さるような声に呼び止められた。
「服を着たら、あなたも座りなさい」
「……はい」
こうなってしまったものは仕方ない。
ユアは今にも泣き出してしまいそうな顔をして俺を見上げていた。
ここは男として、騎士として――覚悟を決めて望むまでだ。




