32.観覧車の魔法
『ねぇ、見て見て、あの人かっこよくない? 芸能人かなぁ』
並んでいる間もクルトは何度も女の子たちからひそひそと噂されていた。
「……」
その声の主に視線を向けると、ひそひそ話すのを止めてバッと目を逸らされる。
「……」
「遊園地とはとても楽しいな」
「え? うん、よかった」
「ん? どうして離れるんだ?」
「あ……」
そんなクルトの隣にいる私は、周りからどう見えているのだろうか。
なんとなく釣り合っていないのではないかと距離を取ってしまったら、クルトがすかさず私の手を掴んできた。
「はぐれたらどうする」
「……ごめん」
アトラクションを出た後もそのまま手を離されることはなくて、私はクルトと手を繋いで歩くことになってしまった。
「……」
さつきくんとさなえちゃんのお揃いの耳をつけて、手を繋いで……これではどう見てもデートだよね……?
「あ、見てあれ! 可愛い!」
繋がった手から気を逸らそうと私もあちこち視線を巡らせていたら、さつきくんたちのオブジェが目にとまった。
指を差して、そっちへ向かう。
「ねぇクルト、私とさつきくんの写真撮ってよ」
「ああ、いいぞ」
クルトはもうスマホのカメラを使いこなしている。
だから安心して託そうとしていたら、とても感じのいい声で「よかったら撮りましょうか?」という声が聞こえた。
「あ……じゃあ、お願いします」
「はーい! それじゃあ並んでくださ~い!」
とても感じのいいパークスタッフのお姉さんにスマホを手渡し、クルトと一緒にさつきくんの隣に並ぶ。
「彼女さん、もっと寄ってくださーい!」
「え……はい」
彼女……。
やっぱり、そう見える……?
遠慮がちに少しクルトに寄ると、ぐいっと肩を抱かれて引き寄せられてしまった。
「!?」
「いいですね~! はい、撮れましたよ~!」
「あ、ありがとうございます」
撮影が終わったらすぐにスタッフさんに駆け寄りスマホを受け取ると、にっこり笑ってお姉さんが言った。
「仲のいいさつきちゃんとさなえくん、楽しんでね~」
「はい……」
気持ちのいい笑顔で見送られて私たちは再び歩みを進めたけど、胸がドキドキ言っていてクルトの顔を直視できない。
「……二人でいたら、恋人同士だと思われちゃうね」
「そうだな。どうやらここは恋人同士の定番のデートスポットでもあるらしいぞ」
「あ……クルト調べたんだ」
「ああ」
まぁ、家にいても暇だもんね。
っていうか、もしかして彼はすごく楽しみにしていたのではないだろうか。
異世界人のくせに、順応しすぎじゃない?
「ごめんね、勘違いされて。そろそろお兄ちゃんたちのとこに戻る?」
「なぜ謝る? 俺は光栄だ。ユアとそう見えるなら。それに、こうして二人で回れるのもとても楽しい」
「え……」
あまりに堂々と言い切られて、再び顔に熱が集まる。
深い意味は……もしかして、ある?
*
それからまた二人でアトラクションを回っていたら、いつの間にか日が暮れてきていた。
いい加減お兄ちゃんと綾乃と合流しようと思ってスマホを見たら、綾乃から『このまま別行動しよう♡ 琉生君にはうまく言っておくから♡』というメッセージが届いていた。
「えー?」
「どうした?」
スマホに向かって反応した私にクルトが首を傾げる。
「……綾乃が、このまま別行動しようって」
「わかった」
「……随分受け入れるの早いね」
この二人は既に合流する気などなかったのだろうか。
まぁ私も、クルトとデートみたいでちょっと嬉しいけど……でもお兄ちゃんは大丈夫だろうか。連絡も来ていないし、綾乃がうまくやってくれているのかな?
「ユアは嫌だったか? 俺と二人だと」
「嫌じゃないよ」
「……では今度は、あれに乗りたい」
クルトが指差したのは、デスティニーワールド名物の巨大観覧車。
「うん……時間も今だとちょうど一番綺麗かも」
観覧車か……。
一瞬ドキリと胸が鳴ったけど、クルトは純粋に初めて訪れた遊園地を満喫したいだけだ。
観覧車だって初めてだし、このデスティニーワールドに伝わるジンクスだって知るはずがない。
「――見てクルト、すっごく綺麗だよ!」
自分で乗りたいと言ったくせに、観覧車が少しずつ地上から離れて行くにつれクルトは表情を硬くしてぴったりと椅子と背もたれにくっついている。
「……本当に、落ちないんだよな……?」
「あはは、大丈夫だよ」
「しかし、時々揺れるぞ!?」
「少し風が出てきたからね」
強くて頼もしい騎士のくせに、こういうところは結構可愛げがある。
飛行機に乗れるようになるのはきっとまだまだ先ね。
「ほら、かなり高くなってきたよ。クルトも見てみてよ」
「……」
おそるおそる壁から離れ、そっと私の指さすほうへ視線を向けるクルト。
「おお……これはすごい」
「でしょう?」
ちょうど夕日が沈むところで、とても綺麗。
アトラクションにも光が灯って綺麗に輝いているし、遠くの街の輝きまで見える。
「……あ」
外を眺めていたら、後ろのカップルが横目に映った。
観覧車の中でいちゃいちゃしている。
「……」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
まぁ、確かにこれはとてもロマンチックだ。
狭い密室の空間に二人きり……。
そしてこのデスティニーワールドの観覧車に乗ったカップルが一番上でキスをすると永遠に結ばれるというジンクスがある。
とてもよくある話だと思うし、根拠なんてないけれど、世のカップルたちは面白がってその噂にあやかり、てっぺんでキスをするのだ。
もちろん、クルトはそんな話知らないだろうし、そもそも私たちはカップルではないから、そんなことは関係ないのだけど……。
「……」
それでも、上に向かうにつれて段々ドキドキしてくる。
大丈夫、大丈夫よ結愛。何をそんなに緊張しているのよ……。
あれ? 私もしかして、期待してる……?
「……」
「……ユア」
「なに!?」
クルトのことを意識しすぎて、変な声が出た。
恥ずかしい……。
「そっちに行ってもいいか?」
「え……」
いいと言う前に、クルトは長い足をこちらに向けて、私の隣に腰を下ろした。
「……」
そんなクルトを座ったまま見上げていたら、彼もまっすぐに私を見つめてうっすらと口を開いた。
「本当に、とても綺麗だな」
「……うん」
クルトはもちろん外の景色のことを言っているのはわかるけど、あまりにもまっすぐ私を見つめているから、勘違いしてしまいそうになる。
「……っ」
さっきまであんなにビビっていたくせにもう慣れたのか、私のほうにおしりを滑らせて身を寄せてくる。
「クルト、あんまり近づくと傾くよ……」
「落ちなければ平気だ」
「……そう」
窓際に私を追い詰めて、更にガラスに手をついて……。
きっともうすぐてっぺんだけど……まさかクルト、キスする気じゃないよね……?
鼓動はドキドキととても速く脈を刻み、きっと顔も赤くなっているだろうけど、クルトの綺麗な青い瞳から目が離せなくなった。
夕日を受けて、クルトの銀色の髪が赤く染まって見える。
〝デスティニーワールドの観覧車の一番上でキスをしたカップルは永遠に結ばれる〟
「……」
私は、クルトと永遠に結ばれたいと思ってる……?
クルトには、異世界に帰ってほしくない……できればずっと、このまま一緒に暮らしていたい――。




