30.たとえいつか(※クルト視点)
「私たちも、帰ろうか」
ユウマとリサの背中が見えなくなった頃、俺の隣でユアが呟いた声にはっとして彼女に向き直る。
「ユア、大丈夫か?」
「うん。クルトが怪我したって聞いて保健室に行ったんだけど、嘘でよかった」
俺はどこも怪我などしていないのだが、ユアはそんなことを聞いて心配して保健室まで行ってくれたのか。
騙されたというのに、まず〝よかった〟と言って笑って見せるユアに、俺の胸は熱く締めつけられる。
「しかし、ユウマに鍵をかけられたのだろう? 本当に何もされていないのか?」
「うん、それも理沙が私を騙って悠真に書いた手紙に、大事な話があるから〝一人で来て鍵をかけて〟って書いたみたい」
「そうだったのか……」
「クルトはいないし悠真には鍵をかけられて驚いたけど、すぐにお互い誰かに騙されてるって気づいたから……。それに彼は私を怖がらせないように一定の距離を取っててくれたよ」
「そうか……」
彼が思ったより紳士でよかった。
だが、ユアを守ると言いながら一歩違えば危険な目に遭っていたかと思うと、とても悔やまれる。
今回、俺は何もしていないのだ。
「すまない。俺が目を離さなければよかった」
「四六時中見張られるほうが怖いから、本当に気にしないで」
「……」
ユアと肩を並べて帰路を行きながらも、先ほどユウマが言っていた言葉が頭を巡った。
俺がユアを捕まえておかなければ、やはりユアは他の男に取られてしまうのだろうか。
「……」
今日何度も聞かれた〝時岡結愛と付き合ってるんですか?〟という言葉。
その質問を受けた回数と同じだけ、俺はそれを否定した。
否定する度、胸が痛んだ。
ただユアを守る騎士として隣にいるだけならば、ユアに見合ういい男が現れたとき、俺がいては邪魔だろう。
それはわかっているが、どうしてもユアが他の男のものになることを考えると胸が苦しくなってしまう。
これは俺の我儘だ。
いつかユアに「いらない」と言われるのが怖い……いや、違う。本当はわかっている。ユアは異世界から来た行き場のない俺を簡単に捨てるような女ではないということを。
俺はそれに甘えているのだ。
ここにいてもいいのかと自分で問いながらも、その答えから目を逸らしている――。
「ねぇクルト、今日のご飯何にしようか」
「ああ……なんでもいいぞ」
「もう、それが一番困るのよ!」
本当にユアが作ってくれるものはなんでも美味いし、俺はユアと一緒に食事ができるだけでありがたいのだ。
ユアとこれ以上どうなりたいと望むなど、俺には恐れ多いことだ。
「……俺にはこれ以上の望みはない」
「ご飯くらいで大袈裟ね」
心の声が漏れてしまったように呟くと、ユアはその言葉の意味を少し勘違いして小さく笑った。
「じゃあ今日は一緒にカレーを作ろっか。作り方教えてあげるから、今度クルトに作ってもらお」
「カレーか……うん、テレビで見たぞ。皆美味そうに食べていたな」
「美味しいよ! あ、クルト辛いのは平気かな?」
怒ったり、笑ったり、考えたり――。
一つ一つの表情すべてが可愛らしく、愛らしい。
「……」
「……クルト?」
助けてくれたからというだけではない。
他に頼れる相手がいないからではない。
俺は、ユアという女性と一緒にいたいんだ。
「なんでもいいぞ。ユアが美味いと思うものを俺も食べたい」
「……そっか、じゃあ辛口にするね」
たとえいつか元の世界に戻らなければならないときが来たとしても――。
今の俺の願いはユアと一緒にいることだ。
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