第50話:墜落の残滓、あるいは囚われの白百合
T3による無慈悲な投擲によって撃墜された王国軍の偵察隊。
シノは生存者の確認と情報の抹消のため、静まり返った墜落地点へと足を踏み入れます。
そこで彼女が目にしたのは……。
月明かりが照らし出す墜落地点は、まさに地獄の静寂に包まれていた。
T3のブロックは音速を超えて着弾し、その圧倒的な運動エネルギーによって、空の王者たるグリフォンの巨体を完膚なきまでに粉砕していた。周囲には、千切れた羽と赤黒い肉塊、そして歪んだ鉄の鎧が、ぶちまけられたゴミのように散乱している。
シノは音もなく着地し、クロークの裾を翻して周囲を調べた。
(……10人、確実に仕留めたはずだけど……。こうもバラバラだと、人数を数えるのも一苦労だわ)
鼻を突くのは、焼けた獣の毛の臭いと、鉄錆のような血の匂い。シノは猫のように耳をピンと立て、五感を極限まで研ぎ澄ませた。風に乗って運ばれてくる音。……それは、絶望に満ちた激しい喘ぎと、今にも消え入りそうな細い呼吸だった。
「……二人、生きている」
一人は、ひっくり返ったグリフォンの翼の下ですぐに見つかった。
左足を付け根から失い、出血多量で意識を失っている。だが、その胸当てに刻まれた紋章は、明らかに王国軍の隊長クラスにのみ許される豪奢な装飾が施されていた。
そしてもう一人は、少し離れた岩陰。
ガサリ、と微かな衣擦れの音がした。何者かが怯えるように息を潜めている。だが、シノの隠密スキルの前には、その存在は白日の下に晒されているも同然だった。
シノは影を渡るようにして、その背後へ音もなく忍び寄った。
獲物の喉元を掻き切る準備をしながら、しかし彼女はその人物の装束を見て、僅かに細い眉を寄せた。
(……戦闘員の装備じゃない。それに、これは王族が纏うような最高級の絹だにゃ。王女……? それに、どういうことだにゃ。手も足も、頑丈な革ベルトで拘束されている……)
そこには、自国の軍によって運ばれていたはずの、手足を縛られた少女が震えていた。
王国軍の偵察隊が、なぜ自国の貴人を捕虜のように扱っていたのか。
シノは一瞬逡巡したが、情報を得るために、あえてその少女に声をかけた。
「……大丈夫かにゃ?」
「ひっ……!?」
振り返った少女は、月夜に光るシノの猫目と、その手に握られた逆手の短剣を視認した瞬間、恐怖のあまり喉を鳴らして、そのまま白目を剥いて気絶してしまった。
「あら、繊細なことだわね」
シノは肩をすくめると、手際よく周囲の遺体から証拠を漁り始めた。
グリフォン・ライダーの本分は伝令だ。隊長クラスの男の腰ポーチを探ると、案の定、厳重に封印された革筒が出てきた。中には、他ならぬ王国現国王の「親書」が収められていた。
(これは後でみんなに見せなきゃいけないやつだにゃ。中身を盗み見るのは……今は我慢するにゃ)
シノは通信の糸を震わせ、移動要塞にいるショウへ報告を入れた。
「ショウ、瀕死の生存者がいたから連れて帰るにゃ。一人は隊長、もう一人は……なんだか訳ありの女の子だにゃ。拘束されてたから、放っておけないにゃ」
『了解した。……拘束? 妙な話だな。分かった、要塞を止めて待ってるよ。気をつけて戻ってきてくれ』
ショウの穏やかな、しかし自分を案じる声を確認すると、シノは気絶した少女と、欠損した隊長の二人を、その細い体からは想像もつかない剛腕で軽々と担ぎ上げた。
【疾風】のスキルを全開にし、彼女は夜の闇を裂いて「動く煉瓦倉庫」へと帰還する。
一方、先行するグラウンド・テラーでは、ガリウスが窓の外の岩山を見つめ、低く唸った。
「……見えてきたぞ。あの大岩の裂け目が、わしの故郷……エルダー・スミスへの入り口じゃ」
29歳、成人男性。
仕立て屋ショウの元に届けられたのは、第2の拠点への切符と、王国の腐敗を象徴するような「生きた積み荷」だった。
歪んだ歴史の糸が、また一本、ショウの針へと絡みついていく。
第50話をお読みいただきありがとうございました!
シノが救い出したのは、なぜか味方に拘束されていた王女。
そして国王の親書に記された、王国の隠された意図とは?
いつも応援ありがとうございます!次回、お楽しみに!
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※AIとの共同執筆作品となります。
いつも作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。
おかげさまで第50話まで書き進めることができました。この節目を機に、今後の更新頻度をこれまでの定期更新から「不定期更新」に変更させていただきます。
物語の展開が複雑になってきたこともあり、一話一話のクオリティを維持し、納得のいく内容をお届けするための判断です。
マイペースな更新にはなりますが、今後もお付き合いいただけましたら嬉しいです。
引き続き、よろしくお願いいたします。




