表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手の鳴る方へ、尾を振る方へ  作者: 下山 辰季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

8・早春の散歩道

 外を歩くと色んな匂いが鼻に届く。それこそが散歩の醍醐味(だいごみ)だよねー。


 冬の澄んだ空気が、ほんの少しにごるようにゆるみはじめた春の空気。ポカポカ温かいのは気持ち良いけれど、良くも悪くも落ち着かない気分にもなるのがこの季節だ。


 梅が花をつけている。梅の木々の間を数羽のメジロがちょこまかと飛びかっている。せわしない動きで、見てると目が回りそう。メジロは花の蜜が好きなんだ。


 トウヤの肩に一羽のメジロが飛んできた。特に驚きも喜びもせず、トウヤは鳥の好きなようにさせている。

 和服の青年と梅と小鳥なんて、なかなか絵になる光景なんじゃないの。これで少しはトウヤのふさぎこんだ気分も晴れれば良いな。自分の気持ちを言い表すのがまだ上手くないけれど、今のトウヤは不安定なんだと思う。


『仲良しだね』


 ふわっとした白い髪をクチバシでそっとついばんでから、メジロはせわしなく飛び立った。


 寒さで枯れた草地に、若い雑草の緑がぽつりぽつりと目立ってきた。カラスノエンドウが柔らかなツルを伸ばし始めている。これから草刈りが大変になってくるぞー。


「……あそこだけ植物が均一ですね。意図的なものですか?」


『そうだよ。あっちは畑!』


 トウヤは言葉のやりとりはできるし、本人の観察力や思考力もしっかりしてる。でも圧倒的に人間社会の経験値が足りていない。

 そんな現状が浮き彫りになる質問だった。


『昔からこの村は薬作りで栄えてきたんだ。薬草園もあるんだよ』


 長者屋敷のご先祖は薬作りの腕と商売の才能を持っていて、今ではその子孫が都会で製薬会社ってのをやってるらしい。

 この村は街から離れていて、人口も多いってわけじゃないのに、どこか余裕や活気があるのはそういうこと。大金持ちの故郷だから。

 現役世代は普段は街で暮らしていて、たまの休暇にこちらの家に戻ってくる。不在の間は村にいる親戚筋の世話役が家の管理をしてくれている。それに、トウヤの食事の用意とかもね。



 山へと続く、小川沿いの道を静かに進む。


 トウヤは気づいているだろうか。

 村の人たちは不自然なほどにトウヤを放っている。関わるのを恐れるみたいに。長者屋敷の世話役も、悪意はないけれど少し距離を置いている。


 こういうのをなんて言ったっけ……。

 村八分……ちょっと違うな。

 腫れ物扱い……うん、こっちの方がまだ近いかな。


 ふと、村の人たちとトウヤの関係にしっくりとくる言葉を見つけた。

 触らぬ神に祟りなし、だ。


『……』


 トウヤ本人もあまりくわしいことがわかっていないようすだけど、何か厄介な事情があるのは間違いない。私は霊犬だけど、犬目線でもトウヤはなかなかに異質の経歴の持ち主だ。

 私は村の人たちをひどいとか意地悪だって責める気はない。ま、どんな頑固爺さんも疑い深いお婆さんも、私が小さいころから成長を見守ってきた愛着もあるからね! この村に極悪人はいないよ。……心がせまいとか、そそっかしいとか、逆におっとりしすぎ、みたいな小さな欠点はあるにしても!


 新しい土地にやってきて、話し相手が私しかいないというのも刺激に乏しいだろうからね。


『友だちにトウヤを紹介したいな。構わない? 人じゃなくて、私みたいな利発で可愛くて徳の高い霊獣とか、気の良い妖怪とかだけど』


「はい、構いません。モナカさんのような方々なら、きっと……」


 私を見ながらトウヤがすっとしゃがみこんだ。

 ゆっくりと手がこちらに伸ばされる。私の首のふかっとした毛に、穏やかな感覚が伝わってきた。心地良い。トウヤは犬をなでるのに少しずつなれてきてるみたいだ。

 私をなでながら、誰もが知る当然の事実でも話しているかのトーンで、トウヤが静かに断言する。


聡明(そうめい)で、愛らしく、情け深い方々でしょうから」


『……うっ、……うん。そう! かも?』


 ……盛大な自画自賛(じがじさん)はまったく平気だけど、自分以外から真顔でこんなことを言われるのはめっちゃ照れるね!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ