ウィル様の誕生日と例のあの人。
「──ふう、気持ちいい」
朝起きて、ライリーのお城に用意されている自室にて、私は冷たい水で顔を洗った。
冷水の気持ち良い、夏の日。
カーテンを開けて窓の外を見てみれば、白い入道雲と、真っ青な空。
この世界は、5、10、15、20歳とか、本来なら節目っぽい特別な年齢の時のみ、お祝いするらしいのだけど、家によっては毎年、あるいは余裕のある時などは誕生日を祝うらしい。
ウィル坊ちゃまは今日9歳になるので、今日よりも来年の誕生会の方が規模の大きなパーティーが開催されるらしい。
とはいえ、今年はティア様の結婚などもあってめでたいので、小規模ながらも今日はお誕生会をする。
テーブルの上に置いていたピンポンパールの入った金魚鉢の様子を見ると、今日も元気に泳いでてほっとした。
リボンやオルゴールを貰ったカーティス様用の贈り物はまだ発注をかけたばかりなので、納品待ち。
朝食の後に、メイド服から可愛らしいピンタックのワンピースに着替えた。
ティア様のお部屋にある、少し大きめな鏡を見たら、我ながらお人形さんみたいな可愛いらしさ。
リリアーナ王女の容姿だけど。
「そのワンピース、よく似合ってるわ、可愛い」
私の今日のお洋服をそう褒めながらも、ティア様は記録のクリスタルを構え、撮影をはじめた。
ティア様に娘でも産まれたら、嬉々として着せ替えを楽しむ事だろう、私は予言する。
「ティア様の本日のブルーのドレスも綺麗ですね」
レースもふんだんに使われていて、華麗である。
「今日はサファイアの装飾品に合わせたのよ」
パーティー会場はサロンだ。
お祝いなので、いつもより多めのお花などで綺麗に飾り立てられている。
「ウィルバート様! お誕生日おめでとうございます!!」
「みんな、ありがとー!」
乾杯がなされた。
大人の飲み物はワインなどのお酒、子供にはジュースが用意されている。
豚の丸焼きや鳥の丸焼きもあるし、瑞々しいフルーツもチョコレートケーキもある。
目立つ大きなお肉を騎士様がウィル坊ちゃんの為に切り分けている。
「僕、骨付きのやつ、大きいの」
「こうですか?」
「うん! そう!」
あ、あれは、まさか、伝説の……! 漫画肉!!
「ふふ……血は争えないな」
いつの間にか側にいたイケメンエルフのアシェルさんが、大きなお肉に齧りつくウィル坊ちゃんを見て、くすりと笑った。
「あ……」
ティア様が小さく声を漏らした。
そして坊ちゃんがお肉に齧りつく姿を見ていたアシェルさんの横腹を肘でつついて、軽く睨んでいる。
「ごめん、ごめん」
アシェルさんがティア様に笑いながらも謝罪してる。
──ん?
もしかして……血は争えないって、あの漫画肉を食べた事が有るのは辺境伯ではなく……ティア様!?
高位貴族の令嬢が、漫画肉を!? 小さく切り分けずに!?
いや、ティア様の事だ、やりかねない!!
見た目はエレガントでも中身が面白い人なのだ。
まだ9歳になったばかりの坊ちゃんには、漫画肉丸ごとの完食は無理だったようだ。
そこそこ肉を食べ終えた後に、サイダーを飲んでる坊ちゃんに招待客達がプレゼントを渡しはじめた。
あ! 私も!
私は衝立の後ろに隠していたピンポンパールの入った金魚鉢を持って来た。
「ウィルバート様、お誕生日おめでとうございます」
「わあ、可愛い色のお魚だね! ありがとう!」
良かった、喜んでいただけた!
「私からは御守りよ、いつも首から下げてね」
「はい! ありがとうございます! 姉様!」
ティア様は美しいエメラルドのペンダントをウィル坊ちゃまに贈った。
ペンダントの石からは清らかなオーラを感じる。
おそらくティア様の祈りが込められているんだろう。
辺境伯からは新しい服一式、辺境伯夫人からは新しいマント。
ギルバート様からは高そうな靴、イケメンエルフのアシェルさんからは草スキー用のソリですって!
坊ちゃまはソリが一番嬉しそうだったわ! 負けた!
ふと見るとカーティス様が女性に話しかけられている。
あれ? 見覚えのある、あの出入り業者の令嬢じゃない?
カーティス様と結婚したがっていたあの……シルクレラ商会のミリアン・アペール嬢。
「カーティス様、竜騎士になられたそうで、おめでとうございます」
「……どうも、ありがとうございます」
贈り物を渡している。竜騎士になったお祝いに……か。
あ──、先を越された!!
あっちの方はよく見てなかったけど、あの人、まさか坊ちゃまより先に声かけた訳じゃないわよね?
カーティス様は流石に竜騎士昇任祝いだし、受け取り拒否はしていないけど、微妙に困った顔をしている。
やっぱりあの人、そもそもカーティス様狙いだったのでは?
思わず疑惑の眼差しで見てしまった。




