高速お裁きと聖地巡礼
「そう、カーティス卿にいきなり求婚する商人の娘が……ね」
「急なお願いで申し訳ありません、どうしてもとお願いされて」
「他ならぬリナの頼みだもの、会いましょう」
「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」
* *
そして温泉街のホテルに、面会を許された商会の娘、ミリアンが来た。
切長の瞳に黒髪の……キャリアウーマンっぽい雰囲気の女性だ。
わりと気が強そうで、守ってあげたいような雰囲気はない。
もしかしたら、妹は逆の愛らしいタイプの容姿をしているのかもしれない。
「面会をお許しいただきありがとうございます。
シルクレラ商会のミリアン・アペールと申します」
「ミリアンね、妹に婚約者を奪われて貴方が継ぐはずの商会まで奪われると言うのは本当なの?」
だいぶん赤裸々に実情をぶっちゃけているが、なりふり構ってられない状態なのだろう。
「はい、本来オドラン商会の跡継ぎたるエクトルと婚約していたのは私、ミリアンです。
ですが妹レリアがいつの間にかエクトルを誑かし、このような事に」
妹は小悪魔タイプかな?
「ではミリアン、貴方の父親が本当に貴女を差し置いて、そんな妹と不貞の輩に商会の未来を預けるつもりなのか、私が直接問いただしてみましょう。
王都の中央神殿に二人を呼び、神聖なる神殿で嘘偽りなく話をして貰います。
高位貴族の招集令状なので、万が一、来ない場合、このグランジェルド内で商売は出来なくなります」
いつの間にか用意されていた二通の手紙を、ティア様が私に手渡されたので、私が一旦預かって、ミリアン嬢に手渡した。
「ありがとうございます!」
ミリアン嬢は感謝して頭を下げた。
*
ミリアン嬢がホテルから手紙を届ける為に帰った所で、私はティア様に話かけた。
「それにしても、わざわざ王都の中央神殿まで出向いて行かれるのですか?」
「婚約者の妹に手を出すような浮気者、ギルバートのお屋敷にもライリーの城にも入れたくないもの。
それに神殿なら嘘をつきにくい場所だし」
「な、なるほど」
ここはお二人にとって大事な愛の巣ですものね。不貞の輩を入れるなど縁起が悪い。
そして約束の日、私達は神殿へと向かった。
ティア様の本日のお供は私とラナン卿とリーゼ卿の女性騎士のお二人だ。
ギル様達は王城に何か用事があるらしいから別行動らしい。
*
荘厳な神殿の神様の像の前で、商人達がティア様の前で跪く。
ティア様は彼等の前で厳しい顔をして、腕を組んで立っている。
「シルクレラ商会長、本来商会を継ぐべき長女のミリアンを差し置いて、彼女の婚約者を射止めれば、妹のレリアが貴方の商会を継ぐのを許すおつもり? そんな道理が通ると思いますか?」
ミリアン嬢の髭親父と、オドラン商会の跡継ぎのエクトルは真っ青な顔になった。
エクトルって浮気男、顔は悪くはないけど、体形が細いわね。
普段かっこいい筋肉質の騎士様達を見慣れてしまって、なおさらそう感じてしまう。
「より、優秀な方に継がせるようにと私どもは考えておりまして……」
「でも元々はシルクレラ商会長は長女に継がせるつもりでエクトルと婚約をさせたのでしょう?
エクトル、貴方が今愛しているのはどちら? 妹? それとも姉?」
「は、私は……っ、妹のレリアを愛してしまいました!」
アホか! どんだけ妹のレリアって子が可愛い訳!?
「エクトル、お前の婚約者は姉の方なのに、ずいぶんと身勝手で酷い男ね。
そしてシルクレラ商会長!
婚約者を略奪出来たら妹の方が優秀だとでも言うの?
そんな性根の相手とは、商売でも繋がりたくはないと思うのが普通でしょうに」
膝を折っている二人の男商人はびくりと肩を震わせた。
ティア様はなおも言葉を続けた。
「貴方が略奪者の妹やそこの浮気者にシルクレラを継がせるつもりなら、うちとの契約も切りますし、このグランジェルド内での商売も出来なくなると思いなさい!」
ティア様が仁王立ちでキレた。初めてキレてるのを見たかも!
珍しく威丈高なティア様もかっこいい!
「お待ちを! シルクレラは長女のミリアンに継がせます! どうか、契約解除はお許しください!」
シルクレラ商会長は真っ青な顔でそう叫んだ。
「そう、神に誓って偽りなく、そのつもりがあるなら、正式に文書にて長女ミリアンに継がせると契約書を書きなさい」
「はい!」
「ところでミリアン、そこの浮気男エクトルとは当然婚約破棄でいいのね?」
「はい」
ミリアン嬢は感謝して頭を下げた。
「かと言って、我が騎士カーティスを貴方にあげる訳にはいかないわ、他に相応しい相手を探しなさい」
「え、あ、そ、そうでございますか……」
一瞬顔を上げたミリアン嬢はあからさまにガッカリした顔をしていた。
本当にあわよくばカーティス様をゲット出来ると思っていたのかな?
「自分で良い相手を探しなさい。カーティスはいい男ですが、ダメです。
他に気にかけている女性がいるようなので。
家業が継げるように確約出来ただけでもありがたいと思ってちょうだい。
私は新たな婚約者探しまで面倒はみられません」
ティア様はピシャリと言った。
反論出来る雰囲気ではない。
──ところで、カーティス様の気にかけてる女性って……どなた?
私はキュッと苦しくなる胸を押さえて、考えを巡らせていると、ミリアン嬢の絞り出すような声が聞こえた。
「わ、分かりました……」
あ、これにて、スピーディーに裁きは終了した……みたい……。
突然のカーティス卿への求婚問題は本人も居ぬ間にティア様の権力でサクっと解決出来た。
神の使徒様、強い。
私は……何も出る幕が無かった。
ティア様に商人達との面会の橋渡しをしただけね。
*
「リナ、どう、グランジェルドの中央神殿は?」
「あ! とても荘厳です。綺麗です!」
え? お裁きから急に観光モード!?
「ギルバートは今王城に行っているの、せっかく王都まで来たし、次は王城も見学していく?
庭園のお花が綺麗よ」
「と、とんでもないです、庶民には王城は敷居が高いですし、一度行ったので、十分です。
見に行くなら城下町の市場とかのが嬉しいです!」
「城下町の市場ね、分かったわ」
せっかくならティア様とギル様が出会った市場がいいわ。
聖地巡礼!
ティア様は市場に行く為、神殿の一室を借りた。
着替えは全てインベントリに入っていたので、ドレスから淡い緑色のワンピースに着替え、魔道具で色変えを行った。
お忍びモードだ。
護衛騎士は冒険者に扮装したラナン卿とリーゼ卿がおられるから、大丈夫よね?
「リナの銀髪も目立つわね、予備の変装魔道具を貸すわ、このブレスレットをして好きなカラーリングを思い浮かべると、そうなるから、なるべく地味な色にしてみて?」
「はい」
イメージしやすいのは、私は元が日本人なので、黒髪、黒目だ。
私は買い物に来た町娘風にバスケットを手にして淡い黄色のワンピースを着た。
「なるほど黒髪ね、銀髪よりは目立たないからいいわ、行きましょう」
ティア様のポシェットの中にはリナルド氏とミニサイズになった翼猫のアスランも入ってるらしい。
いざ聖地巡礼! 王都の市場に行くわよ!




