商人の娘
「そう、カーティス卿から腕相撲大会でオルゴールを貰ったの。
そして花冠も……」
「花冠は、カーティス様がお声をかけてくれましたが、配っていた乙女がくれたもので」
「ふふふ。とにかく良いデートだったみたいね」
ティア様は楽しそうに笑っている。
「で、デートというか、お祭り見物ですよね!」
「あらあら、リナったら、照れているのかしら?」
*
ティア様とそんなふわふわした、浮いた話をした日の夜の事。
カーティス様が晩餐の後に、厨房で洗い物を手伝っていた私に会いに来られたので、厨房の人に断りを入れた。
「すみません、ちょっと抜けて来ます」
「はい。こちらはお気になさらず、洗い物は終わらせておきますので、ごゆっくり」
騎士様をお待たせする訳にいかないので、私は濡れた手を布巾で拭って、厨房の外に出て、お待たせしてる廊下に向かった。
「しばらく留守をする事になります、セレスティアナ様をよろしくお願いします。
女性騎士二人は残りますので」
「え? カーティス様はどこかに行かれるのですか?」
「はい。ギルバート様の護衛騎士の様に、空路を行ける様、我々も竜騎士の資格を取って来たらどうかと、他ならぬセレスティアナ様のお言葉なのです」
「あ、そうだったのですね」
「ええ、それで男性騎士三人が試験を受けて来ます。
女性騎士は二人だけで、ラナン卿の空飛ぶ船に同乗出来ますし、二人くらいはお側に残さないといけませんので」
「分かりました。お気をつけて」
なるほど、またグランジェルド国の竜騎士が増えるんだ。
* *
出立前日の夕方にご挨拶をいただいたのだけど、いよいよ出発の朝が来た。
私もお見送りをしようと庭に出て、騎士達と転移陣前に向かう途中だった。
「カーティス様! お待ちください、少し、お話を、お時間を下さいませ!」
「な、なんですか、貴女は、急に。私はこれから任務ですので、困ります」
どこぞの令嬢が急にカーティス様に縋り付いて来た!
黒髪の切長の瞳のキャリアウーマンっぽい雰囲気の女性。
でも男に縋り付くとか、顔に似合わない事をしている。
身なりは良いから良家の子女だろうとは思う。
別に知り合いでも無いのかな?
カーティス様も戸惑っている。
「私を救えるのは貴方だけなのです!」
「そんなはずはありませんよ、ご病気なら神殿なり、教会にでも行って神父や神官に相談してください」
「病気ではなく、策略です!
私の家が、私が継ぐべき商会が狡猾な妹に乗っ取られそうなのです!
どうか私と結婚してください!」
「は!? 私と結婚すればどうにかなる問題でも無いでしょう?」
きゅ、急に求婚された……!!
ここはギル様の別荘のお庭ですよ!?
場所を考えて!
「私を救えるのは鑑定鏡を持つ貴方だけなのです!
それが有る貴方なら、お父様も認めてくれます!
父は仕事で力となる婚約者を見つけ、その方と私を婚約させました。
けれど妹が私の婚約者を奪って、家業まで奪おうとしているのです!」
あ、あの眼鏡は貴重で希少な鑑定鏡をカスタマイズした物だってカーティス様は言ってたような。
毒や呪いを看破出来るから、主を守る為に使うというのだし、眼鏡を譲る事は出来ないよね。
「商会と言う事は、商売をされてるんでしょう。商人は信用が第一です。
いきなり婚約者を変えるような不義理をさせる者が、家業を継げますか?
お父君や妹、婚約者、周りの方とよく話あってください。
それに私は商人の婿になる気はありませんから」
最もなお話。
ザクッと逆プロポーズの話を切ったカーティス様。
「そもそも貴女は誰ですか? 何故この庭に入り込んで」
ティア様の他の護衛騎士の一人である、レイナード卿が女性に声をかけた。
「私はこの別荘に食材を届けている商会の者です。許可はあります!」
令嬢は通行証の札を水戸黄門の印籠のように取り出した。
どうやら本物みたい。
「商人の娘が騎士の任務の邪魔をするでない!
そもそも約束も無く急に無理を言うな! 重ね重ね無礼であろう!」
レイナード卿もカーティス様を助けようと、いつになく厳しい事を言われた。
食材を配達に来る出入りの業者はいつもおっさんだったけど、彼女は元締めの令嬢なのね。
「とにかくこれから任務ですので、失礼する」
「あっ……!!」
カーティス卿は商人の娘を振り切って、同僚の護衛騎士と転移陣へ向かった。
これから竜騎士になる試験があるんだものね。
仕方ない。
──結局、最後まで成り行きを見守ってしまった。
でも可哀想な話ではある。
あのお嬢さんは婚約者を奪われたら婚約破棄の不名誉もあり、家業まで奪われる危機なのよね。
「あ、あの、リリアーナ王女殿下ではありませんか!?
どうか、貴女の仕える尊いお方に、お取り次ぎを願えませんか!?」
うわ! 見つかった!
「わ、私はもう王女ではありません、ただの従僕です」
「それでも、どうか……!! セレスティアナ様に!」
ギルバート様じゃなくてティア様を頼るのか。
なるほど。
「分かりました、お話だけはしてみますが、あまり期待はされないでください」
「ありがとうございます!!」




