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27.マウリ様とミルヴァ様の5歳のお誕生日

 マウリ様とミルヴァ様のお誕生日の朝も、わたくしたちは畑仕事に向かった。クリスティアンとミルヴァ様もお手伝いしてくれた。ミルヴァ様はスティーナ様と畑仕事ができて嬉しそうだった。


「おかあさま、わたくし、おみずをはこびます」

「重い如雨露を持てるのですね」

「わたくし、ちからもちよ!」


 畑仕事を始めた頃からだったが、ミルヴァ様はクリスティアンよりも大きな如雨露で水をやっていた。本性がドラゴンなので腕力があるのかもしれない。

 マウリ様も抜くのが難しい雑草を根っこから抜いたりしているので、ドラゴンには腕力があるのかもしれない。雑草を抜いたり、害虫を駆除したり、マウリ様も大活躍している。


「おかあさまもはたけしごとをはじめたのね!」

「朝に畑仕事をすると、食事が美味しく食べられて、元気になるのです」

「おかあさま、げんきなの! よかった!」


 飛び跳ねたせいで水が零れてかかるがそんなことは気にせずミルヴァ様は喜んでいた。産後に体調を崩してからずっと寝込んでいたスティーナ様のことを、ミルヴァ様もミルヴァ様なりに心配していたようだった。

 畑仕事が終わるとシャワーを浴びて着替える。マウリ様はシャツとジャケットとショートパンツ、ミルヴァ様は葡萄色のワンピースがよく似合っている。

 わたくしも青い花柄のワンピースを着てカーディガンを羽織った。クリスティアンもハーフパンツとシャツとジャケット姿になっている。

 全員で朝ご飯を食べているときに、マウリ様がハンネス様に聞いていた。


「にいさまのおたんじょうびは、いつ?」

「私のお誕生日は夏ですよ」

「にいさまのおたんじょうびは、おいわいしないの?」


 スティーナ様に毒を盛った夫の妾の子どもとはいえ、ハンネス様はマウリ様と血が繋がっている。血の繋がったハンネス様のお誕生日は去年も祝われなかったのに、自分とミルヴァ様のお誕生日だけが大事に祝われるのが不思議になったのだろう。

 ハンネス様も返答に困っている。


「そうですね、マウリにとっては大事な兄ですものね。ハンネス様のお誕生日は、貴族を集めてではありませんが、お屋敷で盛大に祝いましょう」

「スティーナ様、そんなこと、いけません。ハンネスはスティーナ様のお子ではありません」

「マウリとミルヴァにとっては大事な兄ですし、わたくしを助けてくださった恩人です。図々しいかもしれないですが、わたくしの息子のように思っております」

「スティーナ様……」


 スティーナ様のお言葉にヨハンナ様もハンネス様も驚き、感動している。


「にいさまのおたんじょうび、わたくしもおいわいしたいです!」

「もちろん、ミルヴァも呼びますよ」


 夏休みにはハンネス様のお誕生日を祝うことになりそうだった。

 朝ご飯を食べてから寛いで、昼にお茶会が開催される。大広間で軽食を準備して行われたお誕生日会に、マウリ様とミルヴァ様はスティーナ様と一緒に並ぶはずだったが、マウリ様はわたくしのスカートを引っ張っている。


「アイラさま、まーおにぎり、たべたい」

「おにぎりは……ありますね。ちょっと食べますか」


 お腹が空いていたらマウリ様のご挨拶も上手くいかないかもしれないと、おにぎりとお茶を取って手渡すと、端の椅子に座ってもくもくと食べ始める。両手でおにぎりを持って、噛み切れない海苔と「んぎぎぎぎ!」と戦っている。やっと嚙み千切れたおにぎりをもぐもぐと咀嚼していると、隣りにミルヴァ様が座って同じくおにぎりを食べ始める。


「んぎぎぎぎぎ!」

「んぐぐぐぐぐぐ!」


 湿った海苔はマウリ様とミルヴァ様にはなかなか噛み切れない強敵のようだった。お茶を飲みながらよく噛んで食べている。


「ぼくもたべる」


 クリスティアンも参加して、三人並んでおにぎりと戦っている様子は可愛い。食べ終わった頃にマウリ様とミルヴァ様が呼ばれた。二人とも勢いよく椅子から飛び降りて、貴族たちの足元をすり抜けてスティーナ様の元に走って行く。

 わたくしのラント領のお屋敷に保護されたころはスティーナ様の存在を疑っていて、なかなか受け入れられなかったマウリ様とミルヴァ様も、すっかりとスティーナ様と母子の愛情を築き上げている。スティーナ様がよき母親でよかったとわたくしは改めて思わずにはいられなかった。

 スティーナ様が二人を両脇に立たせて紹介する。


「息子のマウリと娘のミルヴァもようやく5歳になりました。マウリはヘルレヴィ家で健やかに育っております。ミルヴァはラント家に預けられて、楽しく過ごしているようです。今後のヘルレヴィ家を支えていくのはこの二人です。二人の成長を祝ってやってください」


 それから、とスティーナ様はわたくしを呼んだ。わたくしがスティーナ様のところに行けば、マウリ様が片手を大根マンドラゴラと繋いで、もう片方の手をわたくしと繋いでくる。


「マウリの婚約者のアイラ様です。これからヘルレヴィ領でマンドラゴラ栽培ができるように研究と指導をしてくださる予定です。新しくマンドラゴラが特産品になればヘルレヴィ領も潤います」


 オスモ殿の治世で荒れていたヘルレヴィ領も少しずつ立ち直り始めている。去年立ち上げたマンドラゴラ栽培のための農地付きの寮はすぐに家や土地を失ったひとで埋まったと聞く。

 去年はマンドラゴラの栽培の時期ではなかったので、栄養剤のための薬草を育てて、今年もまだ種の量が揃っていないので、栄養剤のための薬草を育てることになる。万全の準備を終えてから、来年からマンドラゴラ栽培に入るヘルレヴィ領。わたくし程度の知識でも役に立てればいいのだが。

 戸惑っていると、周囲の視線がマウリ様の手を繋いでいる大根マンドラゴラと、ミルヴァ様の抱き締めている人参マンドラゴラに集まっていた。


「あれがマンドラゴラ……」

「品種改良されているのに、感情豊かだ」

「やはりドラゴンの力か」


 ドラゴンとマンドラゴラとの繋がりについては、貴族たちは知識として知っているようだった。クリスティアンの蕪マンドラゴラが躍り出るのに、ざわめきが起きる。


「踊っている……!?」

「マンドラゴラが踊っているぞ!」

「わたくしも欲しいですわ」


 一目で貴族たちを魅了してしまったクリスティアンの蕪マンドラゴラは、人参マンドラゴラと大根マンドラゴラの手を引いて、ぐるぐると回って踊り始めていた。

 実際にマンドラゴラを見せたことで貴族たちの対応もよくなるかのように思えた。


「獣の本性を持たない小娘がいい気になって」


 好意的になったのは全ての貴族ではなかったようだ。言われ慣れている嫌味にダメージなど受けないが、やはり全員が賛成してはくれないのだとわたくしは理解した。

 マウリ様とミルヴァ様のお誕生日パーティーは表面上はなんの問題もなく終わった。


「みー、またきてね」

「まー、だいすきよ」

「わたしも」


 両親とクリスティアンとミルヴァ様がラント領に帰るときには、マウリ様とミルヴァ様がしっかりと抱き合う。


「にいさま、つぎはにいさまのおたんじょうびにきます」

「ミルヴァ様、嬉しいです」

「にいさまのおたんじょうびを、おいわいしたいの」


 抱き締め合っていた双子が解けてハンネス様のところに行く。ハンネス様は照れ臭そうにしていた。可愛い小さな弟妹は間違いなくハンネス様を慕っている。母親が違うとはいえ、マウリ様とミルヴァ様とハンネス様は確かに兄弟だった。


「クリスティアン、ミルヴァ様と仲良くしてくださいね」

「あねうえも、マウリさまとなかよくしてくださいね」


 クリスティアンに言えば逆に返されてしまう。

 苦笑してわたくしはクリスティアンの髪を撫でた。

 クリスティアンはくすぐったそうに笑っていた。

 マウリ様とミルヴァ様、わたくしとクリスティアン、別々の領地で育つけれど、いつでも会うことはできる。

 それが分かっているから、別れはそれほど寂しくなかった。


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