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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
能力邂逅編
49/672

四九話 疑心



早朝。


日が昇り始めたその時間、ヒロムは一人、屋敷と近くにある公園へと来ていた。


「……」


一人公園にあるベンチに座って目を閉じ、誰かが来るのを静かに待っていた。


「……」


昨日ある人物に連絡を取り、急遽ここで会うことになった。


「遅くなったよ〜」


呑気にいつもの口調でやって来たのは滝神カルラ。

いつものように黒いマスクで口を隠し、夏休み中なのにスーツ、しかもこの暑い中で律儀にというか謎に白衣を羽織っている。


目を開けてその姿を見たヒロムはただカルラの姿が暑苦しいとしか感じらなかった。


「……早かったな 」


「そっすか?

結構ギリギリな気もしますが……」


どこか気の抜けたような話し方。

これが滝神カルラの本来の話し方。


教師として学校にいる時も多少は気の抜けたような話し方をするが、それでも教師として振る舞うために多少は隠そうとしている。


だが、ここは学校外で、しかも夏休み中の公園。

カルラが隠そうとする理由もなく、ただ普段通りの話し方をする。


「それで、用件は何すか?」


「約束通り一人で来たか?」


「約束通り一人で来ましたよ?

それで……」


するとヒロムは四つ折りにされた紙をカルラに投げ渡した。


カルラはそれを受け取ると、これが何なのかヒロムに確認しようとした。


「……えっと、これ何すか?」


「そこに用件は書いておいた」


「いやいやいや!!

話があるから家来いって……」


「ああ、言ったよ」


「電話の最後に公園に変更したっすよね?」


「ああ、したな。

ユリナたちがいたんじゃ話しにくいだろうしな」


カルラの質問に対する回答をヒロムはすぐに返すが、ヒロムの回答にカルラは呆然としていた。


「えっと……その結果がこの紙?」


「まあ、用件はそこに書いてるのは事実だが、来てもらったのはそれを渡すついでに確認したいことがあったからだ」



「確認したいこと?」


三つある、とヒロムはカルラに聞きたいことについて話し始めた。


「まずは今の「姫神」が置かれている状況だ。

これは「姫神」が「十家」に対してどういう立場にあるかを知りたい」


「……状況は最悪っすよ。

「十家」全体の勢力が大きくなりつつあるし、「姫神」も何とか現状を持ち堪えている状態だしね……」


そうか、とヒロムは軽く言うと次に聞きたいことを話した。


「今「姫神」はどこまでオレのことを把握してるかだ」


ヒロムが求めているであろう内容がいまいちわからないカルラはヒロムが求めるであろうものを話し始めた。


「キミが「ハザード」に発症していることと「狂鬼」との戦闘で進行していることを夕弦が「姫神」へ伝えているよ。

同時に、キミの身に何か起きたこともね」


「他は?」


「他?

直接的な報告はそれだけだよ?」


そうか、とヒロムはため息をつくと少し悩んだような顔をした。


ヒロムの「ハザード」。

それについては夕弦がそれを自身の目で確認し、そして「姫神」の家に報告している。


とはいえこの報告は結果として悪くはない。

むしろ、ヒロムのために動こうとしている「姫神」がそれを受けて何らかの対処方法を探し始めるはず。


つまり、ヒロムにとっては利益しかない。



なのにため息をついた。

なぜだ?

それは安堵のため息なのか、それとも別の何かがあるのか。


何を思ってのため息かわからない……



ため息の意味について悩むカルラにヒロムは最後の質問をした。


「……今のオレは「姫神」にとってどういう存在だ?」


「どういう存在?」


「いや……今のオレは迷惑をかけてないか聞きたかっただけだ」


本当にか、と気の抜けたような話し方ではなく、ただ真剣さしか感じられぬような言葉でカルラはヒロムに聞き返した。


「本当は違うことが聞きたかったんじゃないの?

キミは「姫神」にとって大切な存在だ。

そんな分かりきったことをなぜ今聞くんだい?」


「……最近のオレは少し自由に動きすぎてる気がしただけだ。

忘れてくれ……」


「……そうか。

じゃ、最後のは聞かなかったことにしとくよ」


カルラは気づけばまた気の抜けたような話し方に戻っており、ヒロムから受け取った四つ折りにされた紙を白衣のポケットに入れると、何か思い出したのかヒロムに伝える。


「そうそー。

そろそろ恒例の愛華さんの誕生日パーティーあるっすけど、どうします?」


「そんな時期か……」


カルラの言葉にヒロムは頭を抱えながらため息をついた。


カルラの言う愛華さんというのはヒロムにとってはとても大切な存在。


そして同時に逆らうことの出来ない相手であり、今のヒロムの行動のほとんどが許されているのもその人物のおかげだ。


が、ヒロムにとってはその人よりもその人を祝うパーティーの方が厄介だった。




「苦手なんだよ……

あのパーティーは」


「まあ、キミはそういうの好むタイプじゃないすからね〜」


「……答えわかってて行くか聞いてんだろ?」


「わかりました?」


ヒロムの言葉にカルラはマスク越しにも分かるような笑顔を見せるが、それを見たヒロムはただため息をついた。


「……面倒だな」


「行かないとその方が面倒でしょ?」


「知ってて言ってるなら余計に腹が立つな」


そう、ヒロムにとってパーティーへの参加は極力避けたいことだが、それ以上に避けたいのが参加しなかった場合の翌日に来ることだ。


(去年はドタキャンしたせいで次の日に長々と話聞かされたからな……

行っても面倒、行かなきゃ面倒……どっちにしても面倒だな)



「……わかった。

とりあえず、行くとだけ伝えておいてくれ」


「了解っす」


ヒロムの参加を確認したカルラはどこか嬉しそうに返事をし、それを聞いたヒロムはただ嫌そうな顔をしてしまう。



そして話を終えたカルラはその場を去ろうとヒロムに背を向け、そのまま歩いていく。


ヒロムもそれを見届けると、頭を抱えながら大きくため息をついた。


というか、先程からヒロムはため息ばかりだ。


するとヒロムの影が大きくなり、影から二つの人のようなものが浮き上がり、それはガイとイクトに変化する。


「……悪いな。

長々と待機させて」


「構わないさ」


ガイはそう答えるとヒロムの横に座るが、イクトは立ったままでヒロムに尋ねた。


「なんで最後の質問変えたのさ?」


「……悪い」


ヒロムの返事はただ一言のみ。

さすがにそれで納得できるイクトではない。

追及するかのようにヒロムを問い詰めた。


「朝早くからオレとガイを呼ぶなり、大将の影の中に隠れろって言うから何かと思えば先生に聞きたいことあるとか言ってたのに何でなんだ?」


「それは……」


落ち着け、とヒロムを問い詰めようとするイクトをガイは止めるとヒロムを庇うようにイクトに話す。



「呼ばれた理由をオマエもわかってるだろ。

ヒロムだって本当はこんなことしたくなかったんだぞ?」


「それはわかってるさ。

けど、いつもの大将なら決めるとこはしっかり決めてた」


「ヒロムだって人間だ。

気持ちに迷いが生じることだってある」


イクトを宥めようとするガイ。

ガイはヒロムに確認のために一つだけ尋ねた。


「聞かなきゃいけなかったことは紙には書いてるんだよな?」


「ああ、書いてるさ。

……だから本当に言いたかったことは伝わってるはずだ」


「……あのさ」


先程までヒロムを問い詰めようとしていたイクトが何か申し訳なさそうな様子でヒロムに尋ねた。


「本当にバッツの正体を「あの人」だと思ってる?」


「……オマエらの昨日の話を聞いたからこそその結論に至った。

間違いなく……アイツがバッツだ」


「だとしたらだ大将。

バッツと戦うってことは……」




わかってる、と続きを言おうとするイクトの言葉を遮るようにヒロムは言うとため息をついた。


「だからこそ……オレの手でバッツを倒す」


「けどヒロムのその推測だけだと「あの人」も知らぬ存ぜぬを貫き通せるんじゃないのか?」


「……決着をつけるならあの日、それまでにバッツと接触できれば確実にわかる」


ヒロムは覚悟を決めた顔をして言葉を発するが、強く握る右手の拳はなぜか震えていた。


そう、この決断はヒロムにとって大きな分岐点となる。

だからこそ、ヒロムの中には少なからず不安があった……

「時間はまだある。

言い方は悪いが、「八神」が……」


「オレの話を楽しそうにしてるなぁ」




ヒロムの言葉を遮るかのように三人の背後から煙とともにバッツが姿を現す。


こちらに向けて手を振りながら現れるが、一度会ったことのあるガイとイクトはヒロムを守るように魔力を纏う。


さらにイクトは自身の影から大鎌とガイの「折神」を取り出し、二人は武器を構えた。


「おお、怖い怖い。

そんな警戒するなよ?」


「オマエがバッツか?」


初対面となるヒロムは確認するように名を呼び、呼ばれたバッツもただ首を縦に振った。


「ご名答、初めましてだな「覇王」」


「本当に初めてなら初めましてだな。

それに珍しいな……あの「八神」の人間がオレをそっちの名で呼ぶとは」


「敬意を表してんだぜ?

気に入らなかったか?」


「……そうだな。

オレはオマエの存在が気に入らねぇ」


ヒロムは構え、そしてガイも抜刀すると身に纏う魔力を蒼い魔力へ変える。つまりは「修羅」の力を発動したのだ。


「悪いが、最初から本気で斬る」


「安心しろ……ここで倒して中身見れるなら手っ取り早いから助かる」


「……だよな」


影騎死、とイクトが眼を金色へと輝かせながら呟くと、全身が影に覆われ、そして「影騎死」が発動した姿へと変化した。


「この間は観客だったアイツを倒せるチャンスだしな!!」


「やる気になるねぇ、「死神」。

でも、コイツらがいるのを忘れんなよ!!」


バッツが指を鳴らすとともに紫色の煙が現れ、そして煙の中から人が現れる。


イクトはそれが何なのかすぐにわかった。

いや、その正体を知っているからこそすぐにわかった。


「お二人さん……あれが「ハザード・チルドレン」だぜ」


バッツの呼び出した「ハザード・チルドレン」の数はイクトが昨日相手にした人数より少ない。


つまり、


「また負け確定の戦いに来たのかよ……」


「さて、どうかな?

とりあえず、オマエたちだけでオレは倒せないぜ」


「野郎……」


だったら、とヒロムたちの横に並ぶようにある人物が歩いてくる。


それはヒロムにとって意外な人物だった。


「オマエ……」


「というわけで、オレも参戦しますよ〜」



先程帰ったはずのカルラ。

そのカルラが横に立っている。


なぜだ?




「何しに……」


何しに来た、と確認しようとしたヒロムの耳元でカルラはヒロムにのみ聞こえるように呟く。


「紙の内容は見たよ。

その真意を確かめたくて戻ってきたのは正解だった」


「まさか……」


「アレがバッツなんだね。

だとすれば……キミの推測が正しいのかを確かめなくてはならない」


だから、とカルラは全身に魔力を纏った。


「オレは今から「天獄」の一員として力になる」


「……そうかよ」


カルラの言葉を聞いたヒロムは呆れたかのような反応を見せるが、同時にどこか嬉しそうにも見えた。


「……オレとガイ、カルラであの騎士をやる。

イクトは「ハザード・チルドレン」の足止めを頼む」


「ま、大将の頼みなら引き受けるよ」


「三人で畳み掛けるんだな?」


「ああ。

カルラがいるならその方が効率がいい」


ヒロムたち四人は作戦を確認するとバッツと「ハザード・チルドレン」の方を見て、そして構えるなり走り出した。


「「いくぞ!!」」

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