五〇話 乱戦
「その身に宿す魂燃やして……オレを滾らせろ!!」
ヒロムは一瞬で接近するとバッツに殴りかかるが、バッツは煙となってその攻撃を避ける。
「コイツ……!!」
「悪いなぁ。
オレはそう簡単には……」
バッツが煙から実体に戻ったその瞬間、「修羅」の力を纏ったガイが自身も纏うその力を纏った「折神」で斬りかかる。
が、それを予知していたかのようにバッツは魔力を纏わせた拳で防ぐとガイとヒロムを蹴り飛ばす。
「この……!!」
「アイツ……オレの一撃を防ぎやがった」
ガイはバッツが自身の攻撃を防いだことに驚きを隠せないでいた。
「修羅」の力は触れたものをすべて切り刻み、そして「折神」は魔力を与えればあらゆるものを斬る。
つまり、今のガイの一撃はあらゆるものを斬り、そして切り刻むほどの力を持つ。
なのにバッツはそれを防いだ。
「そんなに驚くことか?
オレの方が……」
「グダグダうるせぇな!!」
ヒロムが手をかざすとバッツの背後にフレイが現れ、そしてフレイは大剣で斬りかかる。
無駄なことだ、とバッツは大剣をガイの時と同じように拳で防いだが、それはヒロムの狙いでもあった。
「……!!」
フレイの一撃を防いだバッツの体に痛みが走り、それと同時に吹き飛ばされる。
バッツは受け身をとるなり何が起きたのか確認しようとしたが、すぐにすべてを理解した。
自信が立っていた場所にマリアが拳を突きつけるようにして立っていた。
「誘導しやがったなぁ……」
「ここからだ!!」
ヒロムとガイは立ち上がるなり走り、同時にバッツの背後に現れたテミス、メイア、エリスがバッツに斬りかかる。
「この……!!
数で押す作戦か!!」
「作戦?
違ぇな、これがオレの戦い方の一つだ!!」
テミスたちの攻撃を避けたバッツの腹をヒロムが殴り、さらにガイが一閃を放つとともにバッツは再び吹き飛ぶ。
そして
「カルラ!!」
「……いけるよ」
ヒロムの叫びに応じたカルラの周囲には魔力で構成された龍が無数におり、その龍はバッツに狙いを定めると勢いよく襲いかかる。
「ぐあああ!!」
龍が次々に襲いかかり、戦塵が上がるとともにバッツの姿が見えなくなってしまう。
ヒロムとガイがバッツに警戒する中、フレイたちとカルラが二人のもとに駆けつける。
が、それを狙ったかのように「ハザード・チルドレン」全員がヒロムたちに狙いを定めて銃を構える。
「……ああ?」
「撃てぇ!!」
「無意味だけどな」
「ハザード・チルドレン」が引き金を引くとともに放たれる銃弾。
だがヒロムたちの前に音もなく現れたイクトの「影騎死」のマントが大きくなるとともに銃弾すべてを防いでしまう。
「な……」
「今のオレは自動で防御で……」
イクトが何かを言おうとした時、ヒロムの影からシズカが現れ、現れたシズカは「ハザード・チルドレン」に向けて無数の苦無を投げる。
だが投げられた苦無はすべて防がれ、地面に突き刺さって終わりを迎える。
「カッコつけてないで足止めしてください」
「いやいや、キミこそ何も……」
「な、なんだこれ!?」
「ハザード・チルドレン」の戸惑う声がし、それが気になったイクトは確かめるようにそれを見た。
彼らは何かに縛られたわけでもないのに、体の自由が奪われたように硬直していた。
何をしているんだ、と思っているイクトにシズカが簡単に説明した。
「地縛……私の能力「影」により彼らは動けなくなっています。
彼らの影に私の苦無が刺さっている限りは」
なるほど、と納得したイクトは彼らの足下を見た。
そこにはシズカの言うように彼らの影に苦無が刺さっていることが確認出来た。
「あとはお願いします」
任せろ、とシズカに頼まれたイクトが指を鳴らし、影の帯で彼らを拘束しようとした。
その時だった。
戦塵が立ち上がる中から無数の刃が放たれ、シズカの苦無が一瞬で破壊される。
「!!」
「危ねぇなぁ〜」
立ち上がった戦塵は風とともに消え、中から普通に動いているバッツが姿を見せる。
「さすがは「龍威」のカルラ。
その能力「龍火」の力で放つ魔力の龍による攻撃は堪えるねぇ」
「……なるほど。
そこまで知っているのか」
カルラの能力に感心するバッツに対してカルラは警戒し、ヒロムを見ると確信したように頷く。
「……ヒロムの言う通り、あの男はオレたちが面識のある人物に間違いないようだな」
「正確にはガイが気づいたことだけどな」
どうする、とガイとカルラは構え直すとヒロムに指示を求めるが、ヒロムは大きくため息をつくと面倒くさそうに答えた。
「とりあえず……本気で殺すつもりの一撃を与えなきゃ倒せなさそうだな」
「けどアイツは体を煙に……」
「冷静になれ、イクト。
能力者同士の戦いにおいては能力の強い方が勝る」
そうだね、とガイの言葉を補足するようにカルラが言うとそれに対してなのか、それとも別の何かに対してかはわからないがバッツが拍手をした。
「いいねぇ。
実にいい、策を巡らせようと必死になるその姿、素晴らしいねぇ」
「……ああ?」
「だが、これでどうだ?」
バッツが指を鳴らすと、突然「ハザード・チルドレン」たちが紫色の魔力に覆われ、苦しみ出した。
ヒロムはそれを見て、それが何なのかすぐに理解した。
「オマエ……アイツらの「ハザード」をわざと進行させたのか!!」
「Excellent!!
コイツらはオマエを倒すための「兵器」だ。
当然強制的に進行させる装置も脳に仕込んである」
「痛い……」
「苦しい……」
魔力に覆われながら苦しむ「ハザード・チルドレン」を見たバッツはため息をつくと少しガッカリし、吐き捨てるように告げる。
「オマエらは「兵器」だ。
痛みも苦しみも感じるようなヤツらは不要だ」
「ふざけたことを……!!」
バッツの言葉に怒りを露わにするカルラは纏う魔力を大きくし、ガイとイクトも構えると走り出した。
が、それを邪魔しようと「ハザード・チルドレン」が二人に襲いかかる。
「この……!!」
「ああああ!!」
叫び声とともに迫り来る「ハザード・チルドレン」にガイは一閃を放ち、鎮めようと試みるが、バッツが現れるなりガイを殴り飛ばす。
「!!」
「くだらないことはするなよ?
コイツらを殺さなきゃ止まらねぇぞ?」
「くそ!!」
「こうなったら……!!」
だから、とイクトの腹を殴り、さらに蹴りを入れたバッツはイクトを吹き飛ばし、さらにカルラの前に現れるとカルラを殴る。
「本気で殺そうとしないと殺されるぞ?」
「くっ……!!
龍天砲!!」
カルラが両手をかざすと龍が現れ、バッツを吹き飛ばすが、「ハザード・チルドレン」は止まることなくカルラの前に現れ、カルラへ次々に殴りかかる。
「くっ……この!!」
「邪魔だ!!」
ガイは勢いよく「ハザード・チルドレン」に接近すると斬撃を放つが、その斬撃を受けた彼らは倒れる気配はなく、まだ動いている。
「な……」
「……倒す……!!」
「彼ら……自我を失って……」
目の前の彼らの現状を理解したガイとカルラは驚愕するとともに攻撃の手が緩み、さらにイクトも影で押さえ込もうとするが、彼らは抵抗してそれを振り払う。
「止めようがない!!」
「ハハハハ!!
これこそ「兵器」、理性に従い、自我を捨ててこそ戦うに相応しい!!」
「……黙れ」
「……んん?」
「……ガイ、イクト、カルラ。
悪いが彼らを止めておいてくれ」
ヒロムは三人に告げるとバッツに向けて歩き始めた。
「テミスたちはガイたちを援護してくれ。
オレは……コイツを倒す!!」
「オマエだけでやれるのかぁ?」
やってやるよ、とヒロムは構えると走り出し、接近すると同時に殴りかかるが、バッツはそれを防ぎ、ヒロムを弾き返す。
「ちっ……!!」
「ワンパターンだなぁ……今までの攻撃でオマエたちのデータは取れた。
これで他の「ハザード・チルドレン」は強くなれる」
「……舐めやがって」
バッツの言葉に苛立ち、舌打ちをするヒロム。
するとそのスキを狙うかのように「ハザード・チルドレン」がどこからか取り出したであろう重火器を構え、次々に弾丸を放つ。
「……たく。
うるせぇなぁ!!」
ヒロムは逃れるために避けるのではなく、次々に来る銃弾の方へと向かって走り、銃弾の隙間を通るようにして避けていく。
人間業ではない。
次々に放たれる銃弾に終わりは見えない。
そんな中をヒロムはただ迫り来る銃弾をすべて目で見た上でどう避けるべきか判断しながら走り、そしてそのすべてをダメージとして受けることなく避けているのだ。
「マジか……」
銃弾を避けたヒロムは一瞬で「ハザード・チルドレン」に接近するとまず重火器の銃身を殴り、破壊して機能を停止させるとそれを持つ彼らを目にも止まらぬ速度で殴り、そしてさらに行動出来ぬようにと気絶させるために顔を蹴り、そのまま遠くへと飛ばす。
が、それでも吹き飛ばされた彼らは立ち上がり戦おうとしている。
その人とは思えぬような光景にヒロムは呆れながら怒りを感じ、そしてバッツは嬉しそうに語る。
「……ふざけてるな」
「最高だろ?
こうして相手を苦しませているのだから「兵器」として完成しつつある」
「アイツらも命ある人間だ……」
「だが「ハザード」を治したいと思った彼らはそのために「兵器」として生きる道を選んだ。
だからこそ彼らはもう人ではない!!」
「……人を人として見ることの出来ないようなヤツらの血がオレの中にも流れていると思うと吐き気が止まらねぇ!!」
ヒロムはただならぬ殺気を放ち、そしてその怒りをぶつけるかのようにバッツを睨みつける。
「オマエだけでも倒さねぇと気が済まねぇ!!」
ヒロムの殺気を感じ取ったのか、バッツは一瞬恐怖を感じ、そして一歩だが後退してしまう。
「何が……」
「未完成だから使いたくなかった。
どうせなら「ハザード」に発症してまだ苦しんでると思わせて油断させておきたかったが……怒りで魂が滾りすぎて止められねぇ!!」
ヒロムが拳を強く握ると、ヒロムの全身に白銀の稲妻が走る。
それが何かわからないバッツと、そしてガイたちは驚くが、フレイやテミスたちは違う。
「ついにやるのですね、マスター……」
「ああ……コイツを倒すには今のままじゃダメだ」
「何をする気だ……」
心配そうにヒロムを見るガイとイクト。しかしその視線に気づいたヒロムは二人の方を見ると、優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。
今のオレはあんなヤツに負けねぇから」
ヒロムの一言。
これまでのように強気なセリフでもあるが、どこか今までとは違い、それを聞いたガイとイクトもそう感じながらも安心していた。
そしてヒロムは大きく息を吐くと構え、そしてバッツに対して告げる。
「見せてやるよ腐れ外道……
これがオレの新しい力……いや、新しい姿、「ソウル・ハック」だ!!」




