第1話 少年、冒険者資格を得る
ここは王国第二の都市、ニグレア――
アニエルは田舎から単身、この街へやってきた。目的は冒険者登録試験を受けるため。
筆記試験と体力測定は難なく終えた。あとは模擬戦に合格すれば、晴れて冒険者証を手に入れられる。
模擬戦といっても必ず勝つ必要はない。それも当然で、相手はA級冒険者の試験官。受験者と実際に戦い、その動きから冒険者としてやっていけるかを見定めるのだ。
しかし――
「おい聞いたか? 今日の模擬戦、試験官はあのブルウタスらしいぞ」
「マジかよ。ツイてないなぁ。今日はあきらめるか――」
「そうだな。下手に粘って、肉体的にも精神的にもダメージを食らったら損だ。さっさとマイッタして、次の試験に備えよう」
「ああ、まったくだ」
そんな受験者の囁き声が聞こえた。
つまり、今日は飛び抜けて合格率の低い試験官が相手だったのである。
自分の順番が来るまで、他の受験者の模擬戦を見ていたアニエル。そこで違和感を覚えた。
(おかしい。なぜ、こんなに動きが遅いんだ?)
その時、彼は「はっ!」と声をあげる。
(違う! 動きが遅いと見せかけて、剣が交錯する直前、目にも留まらぬ速さで変化しているんだ! そうに違いない!)
彼は父親の言葉を思い出す。
『いいか、どんなときにも油断はするな! 相手は油断を誘って、その隙を狙ってくる。相手が弱そうに見える時こそ、全力で戦え!』
ようやく、その意味がわかった――気がする。
(まさか……受験者のレベルがそんなに高かったなんて――)
やっと火竜を素手で殴り倒せるようになったくらいの自分じゃ実力不足だ……と落胆してしまう。
(……でも、せっかくココまで来たんだ。今できる最高の動きで試験官に挑もう)
アニエルはそう決意する。
「ふん。今日もろくな受験者はいないな。まだ、ひとりも合格者が出ていないぞ」
長身のスキンヘッド。鍛え上げられた肉体を誇示するように、小さな胸当てしか装着していない。試験官ブルウタスは、笑みを浮かべながらそう声にする。
格下の相手をいたぶって楽しんでいるかのように――
次の受験者は、小柄な黒髪の少年だった。
「なんだぁ? 防具も持っていないのか? 身体も細いし、そんなんでよく冒険者になろうと思ったな? まあいい。一応、規則だ。受験番号と名前を言ってから木刀を構えろ」
「はい! 二十六番、アニエル・ウィルキンソンです!」
ちなみにこの少年、父親から「防具に頼るヤツは上達しない」と言われ、普段から防具なしで訓練してきたのだった。
「それじゃ、最初から全力でかかってこい。そうすれば、すぐに結果が出る」
ブルウタスは、(ヘタにちょこまか逃げられたら、時間がかかって仕方ない――)そういう意味で言ったのだが、アニエルは言葉通りに受け止める。
「もちろん、そのつもりです!」
元気よく返事をすると、アニエルは木刀を構えた。
見学者からも――
「おいおい。あのチビ、防具なしだぜ。貧乏人かよ」
「こりゃ、ブルウタスにボコられるな。かわいそうに」
言葉とは裏腹に、面白がっているようだ。
だが次の瞬間、場の雰囲気が一変する。
アニエルが気合を入れると――
「はあぁぁぁぁっ!」
鬼神のような表情に変化するアニエル。全身からオーラが湧き立つ。
凄まじい気迫! ブルウタスだけでなく周囲で観ている受験者も圧倒される。気持ちの弱い者なら、失神してしまうほどに――
「いきます!」
アニエルはそう声を張り上げると、ブルウタスに向かって飛び込む!
その速度が速すぎて、目で追えない!
「待っったぁぁぁぁっ!」
ブルウタスが両手を前に突き出し、そう叫んだ。
木刀が試験官の脳天に直撃する数ミリ手前で、ピタッと止まる。
「キ、キミ、合格――」
「――えっ?」
アニエルの一撃を受け止められない――そうブルウタスは瞬時に悟った。冒険者として長年死闘を経験してきた彼だからこそ、そう感じ取れた。もし、一瞬でも判断が遅ければ、木刀だったとしても彼の頭蓋骨は粉々に破壊されていただろう。
実のところ、少しチビった……
こうして、アニエル少年は、冒険者の資格を手に入れたのである。
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ごあいさつ
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このノリで、『アニエル少年がどこまでも無自覚にやらかしていく』お話です
少しずつですが、毎日更新していきます(初日は5話連続で公開)
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