↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

第15話 寝たフリはやめましょう


 「そろそろ僕達はお邪魔しようか」

 「そうですね」


 そのやり取りを聞いたミラが声を上げた。


 「もう帰っちゃうんですか…?」

 「せめて何かお礼をさせてくれ」


 マスターの言葉にノアは困ったように笑って首を振る。


 「気持ちだけで十分ですよ」


 ノアの言葉に同意するように私は頷いた。


 「…マスター、一つ頼みたい事がある」


 レオもノアの言葉に同意していると思っていたので、レオの言葉に驚いてしまった。ノアですら目を瞬かせてレオを見ている。


 「何でもいい。次、来た時にでも料理を作ってくれないか」


 マスターは意外そうにレオを見た。一瞬、間が空いたが、すぐに小さく笑った。


 「あぁ、喜んで作ろう」

 「助かる」


 案外、すんなりとマスターは承諾した。「助かる」とレオは一言だけ言い放った。


 「帰るぞ」

 「…えっ? あ、そうだね」


 レオは一足先に酒場から出ていった。ノアは、それを追いかけるようにレオに続いて出ていく。私は何故、レオがあんなお願いをマスターにしたのか訳が分からず彼等の背中を呆然と見送ってしまった。


 (何何何! 一番 「お礼とか不要だ」 とか言いそうなタイプなのに!? 料理のお願いですかい!? )


 あまりにも予想外の言葉だった。彼は「不要だ」とか一言で済ませて、さっさと帰るような人だと思っていた。


 (それなのに、何で料理…? はっ!! もしかして、一番マスターの料理楽しみにしてたとか…! ここの料理が美味しいって教えてくれた訳ですしね! うんうん。そうだ、そうだ)


 そう考えると納得出来た。私は一人で納得し、腕を組みながら頷いていた。


 「…なぁ、追いかけなくていいのか?」

 「ぎゃっ!?」


 突然、声を掛けられ私は驚いてしまい肩をビクッとさせ、変な声が出てしまった。


 「わ、悪い! そんなに驚くなんて思ってなかった」


 私に声をかけたのはルカだった。


 「い、いえ! 私が考え事してたせいなので……って! 考え事してる場合じゃなかった!」


 ルカに言われて気が付いた。私は一人で何を酒場で考え込んでいるんだ。二人に早く追いつかなきゃ迷子になってしまう。


 「これで失礼します! ジュース美味しかったです!」

 「来てくれるのを待ってますね!」

 「お、おう! 気を付けて帰れよ!」


 慌ただしく帰ろうとしている私にミラとルカが声をかけてくれた。「はい!」と一言だけ返し、私は急いで酒場から出た。

 外へと出ると少し離れた所で二人は私の事を待っていてくれた。


 「よっ、よかったぁ〜……」

 「そんなに慌てなくても、ちゃんと待ってるから大丈夫だよ」


 二人が待っていてくれたおかげで、私は迷子になる心配は消えた。それと同時に待っていてくているとは思ってもいなかった。

 

 「ありがとうございます…!」

 「お礼なんていいんだよ」

 「行くぞ」


 レオに促され私は二人の元へと駆けつけた。来た時と同様に二人の間に挟まれながら帰り道を歩き始めた。

 しばらく歩くと少し先の方に私達が乗ってきた馬車が見えてきた。戻ってくるのを待っていたように、その場に停まっていた。御者は私達が戻ってきたのに気が付くと、小さく頭を下げた。


 「待たせた」

 「いえ、お気になさらず」


 レオは馬車に近付きながら御者に声をかけると扉を開け、私を先に乗せるように手を差し出した。


 「あ、ありがとうございます」

 「頭に気を付けろ」


 彼の手を借り、馬車へと乗り込んだ。それに続いてノア、レオが乗り込む。二人の顔を見ないように私は窓へと視線を向けた。

 後は城に帰るだけだと思うと肩の力が抜けていく。酒場に向かう時は、何が待っているのか分からず緊張していたせいで、馬車の中でも落ち着かなかった。二人にバレないように息をゆっくりと吐き出す。


 (緊張してたせいで疲れた。城に帰ったら爆速でお風呂入って癒されよ…)


 馬車の走る音だけしかしないせいか、次第にそれが子守唄にでも聞こえてくる。心地よい馬車の揺れ。このまま寝てしまいそうになる。瞬きが徐々にゆっくりになっていく。


 (やばい……このまま寝たら寝顔見られるよね……)


 寝顔を見られるのだけは阻止しようと、気合いで目を開ける。瞬きを極力しないように頑張るが、逆に目が乾いてきてしまう。


 (痛てぇよ! 目が痛てぇ!)


 さすがに痛さには勝てなく瞬きをしてしまう。


 (あー……痛くなくなっていく…)


 痛みは和らいでいくが、その代わりに今度は眠気が襲ってくる。


 (意味がないね! うん! 意味ないわ、これ!)


 何とか目を開け、次は目に力を入れてみる事にした。その表情が窓に映っているのに気が付く。まるでしかめっ面をしているような顔が映っていた。


 (しっ死ぬ! なんつー顔を! )


 自分の顔に吹き出しそうになるのを堪え、窓から慌てて視線を逸らす。


 (やめやめ! 何か考えよう…考えたら眠気なんてどこかに吹っ飛ぶ!)


 何か考える事はないかと頭をフル回転させる。


 (んーーーー。考え事考え事……そういえば…)


 不審者が言っていた事を思い出した。


 (私の物語が始まるって言ってたけど、結局アレなんだったの? ご飯食べれなかったし…クソみたいな男達が酒場に来たし……そんくらいだけだよね)


 改めて酒場で起きた出来事を思い返してみる。


 (何にも始まる様子なんて無かったんですが……)


 出来事を出来るだけ一つ一つ鮮明に思い返してみるが、特にこれといって思い当たる事なんて無い。


 (不審者に嘘つかれた…? 嘘つかれたとしても、嘘つくメリットって何? んーーーー……分からん、分からんすぎる!)


 考えても分からない。考えれば考えるほど、余計に分からなくなっていく。


 (エレナに相談しよう。そうしよう! 考えるの一旦やめやめ!)


 一人で考えても分からないなら、エレナに相談すればいい。そう決めるとフル回転させていた頭を休ませる。


 (よし! 考える事無くなった! 終わった!)


 こんな時にスマホが使えれば眠気の覚まし方を調べられたり、ゲームをして眠気覚ましにも出来たりするのに。


 (しょうがない……。ここはやはり気合いで乗り切るしかない! )


 窓に映った自分を見ないように二人に見られないように、顔を下げて目に力をいれた。


 (よし、いける。私ならいける! 眠気なんて吹っ飛ばす!)


 気合いをいれて目の力を緩めないように必死に耐える。


 (眠くない眠くない眠くない!)


 何度も自分に言い聞かせる。それが吉と出たのか先程まで感じていた眠気が少し覚めた気がする。


 (自己暗示ナイス!)


 この調子なら城に着くまで眠らずに済みそうだ。内心ガッツポーズをきめていると、不意に正面から声が聞こえた。


 「ヨミちゃん、眠っちゃったかな」

 「さぁな」


 「起きてます」と顔を上げながら言おうとした時だ。


 「何でレオは、料理作ってだなんてお願いしたの」

 「別にいいだろ」

 「レオが自分からお願いするなんて意外だったから」

 

 私が寝ていると思っているのか、二人はそのまま話を続けた。


 (おっと…おっと〜!? 私、寝たと思われてんね! 完璧に声かけるタイミングないですね!)


 今更、「起きてます」なんて言える雰囲気ではない。


 (寝たフリきめるか…? いや、盗み聞きするみたいになるし……)


 どうするべきか迷っている間にも二人の会話は続いていく。


 「一度は、あそこの料理を食べてみたいってだけだ」

 「へぇ〜…。本当にそれだけ?」

 「それだけだ」

 「嘘だ」

 「……何故、そう思うんだ」

 「ははっ。小さい頃から一緒に居るんだから、レオの嘘くらい僕にはバレバレだよ」

 「…………」


 レオは何も言わずに黙り込んだ。


 (ちょっと待って下さい……。二人は幼馴染なんですか!? 小さい頃から一緒って! そんな設定かよ! 同じ騎士で幼馴染かよ! 最高じゃねーの!)


 二人の関係性に興味津々になってしまい、この際寝たフリを続ける事を決意した。寝たフリをし盗み聞きをする罪悪感より興味が勝ってしまった。


 「まぁ、大体見当はついてるけどね」

 「……本人には何も言うなよ。今朝、教えたみたいにな」

 「うーん……。それは無理なお願いかも」

 「何でだ」

 「今、本人聞いちゃってるしね。ねっ、ヨミちゃん」

 「…………」


 ノアの一言で自分が青ざめていくのが分かる。


 (バレてた!?)


 休めていたはずの頭をフル回転させ、この状況をどうするべきか必死に考える。


 (いや、待て待て。いつから!? )


 手に汗が滲んでいく。悪事がバレた時みたいに心臓がバクバクと脈打つ。潔く謝ってしまおうかと思った時。


 「まぁ……嘘なんだけどね!」


 (…………は?)


 咄嗟に声が出そうになったのを必死に堪えた。


 「…嘘をつくな」

 「ははっ! ごめんごめん。本当はヨミちゃんが起きてたって知ったらレオはどんな反応するのかなって」

 「……くだらない」

 「僕にとっては、くだらなくないんだよ」


 ノアの嘘で私の寿命は一瞬にして縮んだ。


 (勘弁してくださいよ……)


 寝たフリをして盗み聞きをしている自分が100%悪いが、それでもあんな嘘をつかれたら心臓に悪い。

 私がこんな思いをしているとは知らずに二人の会話は続いていく。


 「お前は昔からそうだ」

 「あれ? それ自分にも言ってない?」

 「俺は……昔とは違う」

 「え〜? そんな事ないよ。レオは全く変わってないよ。心配してるくせに素直じゃない所とか…ね」

 「……うるさいぞ」

 

 「ごめんごめん」とノアは笑いながら謝っている。二人の会話が一段落したところで、馬車のスピードが徐々に落ちていく。


 「そろそろヨミちゃんを起こさないとね」


 ノアの一言で城にもう着くんだと分かり、これで私は寝たフリをもうしなくてもいいんだと安心する。


 (もう寝たフリなんかしません……絶対に!)


 心に固く誓った所で馬車がゆっくりと止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。