ゴミ箱
「うん。まあ、そうだね。いくら自室でそういう気持ちになったとはいえ、カーテンを開けて裸になるのはお勧めしないかな」
あの後、自室で正座をしながらヒオカさんに説教をされる事となった。
まさかヒオカさんからまともな説教を喰らう日が来るとは夢にも思わなかった。
いやまぁ、ヒオカさんはぽんこつだが、悪いと思った事には注意だったり、不快感を露わにしたりする。
最初、僕がヒオカさんの親衛隊から囲まれた時にはヒオカさんがそこそこ強い態度で親衛隊に文句を言ってた気がする。
どうしてキミ達の許可がいるんだ、とかそんな風に。
それはともかく、僕はヒオカさんに注意されている。
注意の内容自体は真っ当なのでおとなしく聞き、素直に頭を下げる。
「はい。すいませんでした」
「うん。まあ、反省しているならそれでいいさ」
ヒオカさんは意外とはやく矛を収める。
まあ、叱りはしたけど、怒ってはいなかったからね。
「それよりもさ」とヒオカさんが話を切り替え、
「昨日、サムさんが言ってた家具の件。今からボクと一緒に行かないかい?」
「え?」
思わぬ誘いの言葉。
だが、サムさんのところには今、行ってきたばかりだ。
「すいません。実は今、行ってきたばかりなんですよ」
そう言って断ると、ヒオカさんは少しばかり驚いたが、揺らぎはせずに、
「そうか。ならもう一回行こうか」
強い。
なんて強い人だ。
こっちの事情を聞いて尚、誘いを強行するその姿勢。
僕にはない強さだ。
僕と同類のカナ・ニサンにもないだろう。
強いて言うなら、家族を第一と考えるサムさんに似ているか。
血筋というのは簡単だが、それだと同じ血筋のカナ・ニサンが可哀そうになるから言わない。
ともあれヒオカさんの誘い。
ここで僕が強く断ったら、おそらくヒオカさんは素直に引き下がるだろう。
いくら誘いが強引でも、無理強いしてくるタイプではない。
だけど僕は断らなかった。
ヒオカさんの強引な性格は嫌いではない。
今のところ。
「そうですね。行きましょうか」
僕がそう言うと、
「よし。それじゃ早速行こう」と言って、ヒオカさんが手を差し出す。
僕はその手を握る。
僕の腕にしがみ付くカナ・ニサンとはどこか対称的のような気がした。
◆
という訳で、再び街に向かう。
道中、ヒオカさんは喋りっぱなしだった。
食べ物の話から趣味の話(ヒオカさんは運動全般と工作が趣味らしい)。
ヒオカさんのトークスキルはやや低く、話があっちにいったりこっちにいったりと、時々話についていくのが大変だったが、それでも退屈はしなかった。
どことなく話し方が英雄グラハムについて語るカナ・ニサンに似ている気がした。
伝える事よりも、自分が喋るという事に重点を置いてるところと、話の内容よりも一生懸命話をしている彼女達の表情を見ている方が楽しいというところは一緒だった。
色々と対称的な姉妹だが、それでも似ているところはあるみたいだ。
今回は特に迷うことなく目的地の家具屋に到着した。
ただ正直、今回は僕が道を覚えてたから迷わなかっただけで、ヒオカさんの案内に従えば、また道に迷っていたと思う。
家具屋に着くと、サムさんが「え? また?」と驚いた反応を見せた。
「あ、はい。すいません」
「ボクが無理やり連れてきたんだ」
とヒオカさんが言うと、サムさんは、ああ成程、と納得した様子を見せた。
そういえば、と僕が周りを見渡していると、
「アンナさんは?」とヒオカさんが尋ねる。
「家事してるよ。基本ボクが家具を作る時しか彼女は店番をしないからね」
「そうなんですか」
「サムさんは自分で作った家具を眺めるのが一番好きな時間だからね」とヒオカさん。
「そうだね。いやぁ、家具を家族として扱う前はよく裸になって腰を振ってたもんだよ」
「…………そうなんですか」
ほんまもんだったか。
「ゴンベー君と一緒だね」
「やめて」
部屋で全裸とほんまもんを一緒にしないで。
「それで、また何か家具を貰いに来たのかい?」
何事もなかったかのようにサムさんが尋ねる。
「いえ、今度はさすがに買いますよ。時計を貰った後ですし」
「別にあれは貰い物だったからなぁ……」とサムさん。
やはり家族扱いじゃないモノにはそんなに執着しないタイプだったか。カナ・ニサンの予想は正しかった。
「だとしても今回はちゃんと支払いますよ。これはこちらの気持ちの問題です」
「そう? それならそうしてもらおうかな」
サムさんがほっとしたような顔で小さくため息を吐く。
僕が何度も商品をねだりに来るがめつい奴だと思われてたらしい。
ちょっとショック。
ともあれ僕はまた何かしら家具を買うという事だが、実を言うと今回は買うモノの目星をつけている。
ヒオカさんから誘われる前から、ないとそこそこ不便だよなぁと思いつつも、今まで忘れていたモノだ。
それは、特に溜める必要もないので言うけど、ゴミ箱だ。
この世界にはティッシュがそれほど普及されてないみたいだから、そこまで必要とせず放置していた。
でもこのタイミングでゴミ箱みたいな安いやつだけ買うってのもなんかせこい感じで嫌だなぁ。
と、思ったが、他に欲しいやつが思いつかなかったので、結局はそれだけにしておいた。
ゴミ箱を購入し、家具屋を後にする。
流石のサムさんもゴミ箱に対してはそこまで愛情を注いでないようで、購入時にあれこれ語ったりはしなかった。
小憎たらしい問題児みたいな扱いなのだろうか、なんて思ったりして。
「ヒオカさんも何か買ってたみたいですけど、何を買ったんですか?」
僕が尋ねると、ヒオカさんは少し困ったような顔をして、
「そ、それよりも家具って、男の子と女の子じゃ扱いは違うみたいだね」と言う。
…………今、何か誤魔化された?
僕は少し不安な気持ちになったが、他人に買った事を知られたくないモノだってあるとすぐに気付き、しかもそれは好感度にあんまり関係ない事に思い至ったので(例えばエロ本)、特に気にせず流して、ヒオカさんの話の乗る事にした。
えっと、家具って男の子と女の子じゃ扱いが違うって言ってたっけ。
「…………男女っ?」
家具に男女とかあるの?
しかし、よく考えたら、僕も最初たくさん購入した時は名前だけじゃなくて性別も決めたりしてた事を思い出した。
家族扱いというか擬人化というか。
それ系をする時はやはり名前だけじゃなくて性別も無意識に決めるようだ。あと年齢も。
日本人だから仕方ないよね。
って事はサムさんは日本人……?
まさかのサムさん日本人説について色々考察を重ねようと思ったが、ヒオカさんに……というかこの世界の人にそういう話が通じる筈もないので思考を放棄し、ヒオカさんと適当に雑談をしながら帰宅した。
◆
特に何事もなく学園まで戻り、寮の前まで来たところで再びヤオ・ワンと遭遇した。
「げっ」
「げっ、とは何よ。げっ、とは」
僕の反応にヤオ・ワンが眉をひそめる。
「あんたがボディガードを辞めるって決まってからはそんなに酷い扱いをはしてないわよ」
「確かにその通りだけど、そう言うって事はその前はやっぱり酷い扱いをしてたって自覚があるんだね」
「…………」
何か言えよ。
「それよりもなんでヒオカ先輩と一緒にいるの? 先輩に近付くなって警告した覚えあるんだけど」
「別にいいじゃないか」と僕ではなくヒオカさんが言う。
「友達とゴミ箱を買いに行くのくらい個人の自由だろう」
「……その言い方だと、ゴミ箱を買う為に出かけたみたいなんですけど」と僕がツッコミを入れる。
だがヒオカさんは不思議そうに首を傾げ、
「ん? ゴミ箱を買ったじゃないか?」
「いやまぁ、そうですけど……」
ゴミ箱を買うのが目的だった訳じゃなくて、ヒオカさんと一緒に家具屋に行くのが目的だった訳で…………まぁいいか。
始めからゴミ箱を買うつもりだったし、ある意味では間違いではない。
「どうしてカナと行った時に買わなかったの?」
ヤオ・ワンが不愉快そうな顔で尋ねる。
「あの時は忘れてたから」
「…………」
僕は素直に答えたが、ヤオ・ワンの眉間の皺は取れない。
これまでとは違って、静かな怒りを感じる。
赤い炎じゃなくて青い炎みたいな印象。
たしかメタノールだかエタノールだかの肉眼じゃ見えにくい青い炎の方が温度が高いんだっけか。
…………この場合は違うよね?
そう願いつつ、
「…………まぁ、偶々ね?」
と我ながら意味不明な言葉でお茶を濁す。
「そ」
と、ヤオ・ワンが無表情で頷き、
「それじゃ」と言って、この場を後にする。
なんだか背筋がゾクゾクする。
「ふうむ?」
僕の隣で、ヒオカさんが不思議そうにヤオ・ワンの背中を見送っていた。
◆
自室にゴミ箱を置いた後、僕はヒオカさんと一緒に学内をまわった。
特に理由も目的地もない、ある意味デートみたいな行為だ。
歩きながらヒオカさんが突然、
「面白い話をしよう」と言い出した。
「ほう」
まさか自分からすべらない話を切り出すとはなんて勇気だ、と感心するのもつかの間。
「さ、どうぞ」
と、ヒオカさんはこちらに話を振ってきた。
「嘘でしょ?」
いくらなんでも話の振り方がひど過ぎる。
これで他の人がいる状態だったらヒオカさんは間違いなく悪魔だ。
「いや、いきなりは無理ですって」
「そっか」ヒオカさんが肩を落とす。
「そういえば前に皆でいる時、こうやってカナに話を振ってみたけど、その時も無理だって断られたっけ」
「悪魔ですか! ひど過ぎます!」
そりゃ妹から嫌われるわ。
「そうだったのか……」
ヒオカさんが己の悪行を自覚し、更に肩を落とす。
いつもよりなで肩だ。
「ボクとしては、カナが皆からの人気者になれるよう取り計らったつもりだったが……」
「僕がカナさんだったら、二度と口をきかないですね」
「そうだったか……」
ヒオカさんはもう泣きそうだった。
肩もモディリアーニみたいになってる。
地獄への道は善意で舗装されているを地でいった感じだ。
「これからは気を付けるよ」
そう言って話が終わりそうなところで、
「「「でめぇ、こらぁああっ!」」」
思わぬ闖入者が現れ、僕の顔面に拳を入れた。
十二発。
一人一発で十二発。
つまり十二人いるって事だ。
…………増えてる。
分かってはいるけど、念の為、確認してみる。
ちなみに異世界チートでノーダメージ。
「えっと、取り巻きの人達ですか?」
「違う! ストーカーよ!」
そんな堂々とした犯罪者宣言ある?
「違った! 親衛隊よ!」
「今更、言い直しても無理じゃない?」
「大丈夫! ヒオカ様は知能が低いから、どうとでも言いくるめられるわ!」
「仮にも親衛隊なら、もうちょっと言い方考えたら?」
「いやぁ」
「ヒオカさんも照れてないで」
「ほらっ」
「いや、ほらっ、じゃなくて」
なんだかさっきからテンションがおかしい。
ここに居る人達ののテンションではなく、世界のテンションだ。
なんというか、ギャグ時空に入ってしまった気がする。
だとすると、十二回も殴られてノーダメージなのは、異世界チートの力ではなく、ギャグ時空に入り込んでしまったからかもしれない。
今なら地面を叩けば、地球も割れそうだ。
いや、異世界だから地球じゃないか。
「そんな事より、てめぇヒオカ様を悲しませるとは何事じゃあ! ぶっ殺してやんぞぉ!」
取り巻きの内の一人、昭和のヤンキーにしか許されないガンギマリな表情の女の子が前に出て、血管をビキビキに浮かせながら怒鳴る。
「なんか最初に会った時よりもガラが悪くなってない?」
たぶん幻覚だけど、頭上に『!?』が見える。
「愛が暴走すればそういう時もあるわ」
「自由だなぁ」
ふと横を見ると、ヒオカさんの眉間に皺が寄り、今まで見た事のない微妙な感じになってる。
流石のヒオカさんもこのテンションには付いてこれないか。
「我々はヒオカ様をお慕いしている! 人によっては崇拝、信仰と言ってもいい! ヒオカ様は神だ! ヒオカ様の為なら我々は命だって惜しくない!」
「…………そっすか」
「ここで、愛ゆえにひとつ言わせてもらおう! 貴様はヒオカ様には相応しくない!」
「あ」
「だから貴様はここで────、」
「────ボク、キミの事が嫌いだな」
ヒオカさんの痛烈な一言に、ヤンキー隊長がひび割れた。
「二度とボク達の前に現れないでほしい」
ヤンキー隊長が砕け散った。
「理想を抱くのは勝手だけど、それをこちらに押し付けないでくれ。ボクだけならともかく、ボクの友達にまで迷惑を掛けるとなると流石に見過ごせない」
「ヒオカさん、文句のつけようのない正論ですけど、相手にはもう聞こえてません」
僕は更なる攻撃を行おうとするヒオカさんを止める。
彼女達のライフポイントはもう完全に〇だ。
HPじゃなくてLPの方。
ヒオカさんはため息を吐き、
「後ろにいるキミ達も、もうボク達には構わないでくれ」
そう言って僕の手を引き、この場を離れる。
僕も引っ張られて、取り巻きの人達から離れるが、彼女達は全員今にも死にそうな顔をしていた。
暫く歩き、取り巻きの連中からこちらの声が絶対聞こえないだろうと思える距離を取ったところで、僕はヒオカさんに尋ねる。
「…………良かったんですか?」
「別にいいさ。実際、迷惑だったからね」
「それはそうでしょうけど、でも少し意外ですね。ヒオカさんはそういう事には寛容そうに見えたんで」
「自分でもそこそこ寛容だと思っていたさ。だけど、キミの悪口を言われたら我慢ができなくなって、ついね」
「…………あぁ、そういう事ですか」
やはりというか、ヒオカさんは自分が悪く言われたり迷惑を掛けられたりするのには寛容なタイプだ。
悪口を悪口と捉えないくらいに神経が太い。
だけど、自分の仲間とか友達とか、身近な人が迷惑を掛けられたらその限りではないらしい。
だいぶヒオカさんらしくない気の短さだった。
「すいませ…………いや、ここは謝罪じゃなくてお礼を言うところですかね。ありがとうございます」
「別に礼を言うところでもないと思うけどね。元々はボクの方に原因があるんだし」
「だとしても非は一切ないですから。とりあえずこっちは嬉しい気持ちになったんで、礼くらいは言わせてください。ありがとうございます」
「それなら素直に受け取っておこうかな」
そう言ってヒオカさんは満面の笑みで、僕の両頬を手で覆う。
…………キスされそうな態勢だ。若干、顎クイに近い。
こちらが幼稚園児なら頬をもみくちゃにされるだろうけど、同年代だとキスされるイメージしか湧かない。
ヒオカさんがイケメンだから猶更だ。
僕は男だけど、今だけは乙女になった気分である。
ヒオカさんが動いた。両手を無造作に動かし、
「うみゃみゃみゃみゃみゃっ」
幼稚園児の方だった。
両頬をもみくちゃにされ、僕はブサ顔を晒す。
でも、そんなに悪い気分ではない。
痛くもないので気持ちいいくらいだ。
童心に帰った気分だ。
とはいえこれ以上されるがままなのも癪なので、僕もヒオカさんの両頬を掴み、もみくちゃにし返す。
「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃっ」
ヒオカさんもブサ顔を晒すが、元々がイケメンなのでそこまでブサ顔とは言えない。
「やったなぁあうみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃっ」
「このやろぉおおみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃっ」
◆
ひとしきりじゃれついた後は、再びデートを続けた。
目的地もなく誰かと適当に歩き回るのは、元の世界での僕ならとても考えられない事だ。
二人きりの時は勿論、一人の時でさえ周りの人達の視線などが怖くて歩き回れなかった。
皆、こちらを責めるような視線を送ってくるんだもの。
そんな僕が、こんなにも美人な人と二人きりで歩き回るのは、とても凄いと思う。
これまでの地獄みたいな人生がチャラになったとさえ思う。
ともあれヒオカさんと二人きり。
さっきはIQの欠片もないじゃれ合いを行ったせいか、今もそれほど会話が怖くない。
「あ、草だね」
「犬のウ●コが落ちてるよ」
「尻がかゆいな」
「お腹減ったけど、飯食う気分じゃないな」
みたいな酷い話でも平気でする事ができる。
ちなみに今のは全部ヒオカさんの台詞である。
もしかしたら彼女は頭の中に脳みそをある事を忘れているのかもしれない。
僕も偶に、脳みそが下半身に移動している時があるからお相子だ。
「とりあえずあそこに入ってみません?」
デートによさそうな建物を指さし、提案してみる。
「あれは…………建物だね。何の建物だろう」
「博物館です」
「ほう。博物館か。博物館とはつまり、物が展示してある場所。つまり博物館だな」
「そうですね」
こう見えてヒオカさんは他人の心の機微を読むのが得意らしいです。
妹を除く。
「成程。つまりゴンベー君は、ボクと一緒に博物館を見に行こうと言ってるんだね」
「そうですね」
「という事は……」
「あの、もしかしてですけど、勉学に関係ありそうなところだと、頭が悪くなるタイプですか?」
「…………何故バレた」
どうやら正解らしい。
僕も、人の多いところだと精神的にいっぱいいっぱいになって、脳みその処理能力が落ち、ただでさえ底辺気味なコミュ力が限界突破を起こしてしまうから、気持ちは解らなくもない。
人は、苦手なところでは、ポンコツになってしまうという事。
「苦手ならやめておきましょうか?」
「いや、行こう。苦手は苦手でも、嫌いではないからね」
苦手 = 嫌い とはならない精神性は素直に感心する。
「それなら行きましょうか」
僕は少し緊張しながらもヒオカさんの手を引き、博物館へと向かう。
◆
学内にある博物館はそれほど規模が大きくなく、回ろうと思えば五分足らずで回る事ができそうだった。
「展示しているものは…………なんか見覚え有るな」
一度、博物館に来た事があるが、その時とまだ展示品が変わっていなさそうだ。
確かあれは、カナ・ニサンを探した時だったけか。
「えぇっと……そういえば、一つだけ気になる物があったんだよな。中二病心をくすぐる怪しいやつ。なんだっけな」
場所はなんとなく覚えている。記憶をたどり向かうと、そこには展示品のない空のケースだけがあった。
「おや? ないな」
ケース内には、剣を支える為の台しか残っておらず、肝心の剣そのものがなかった。
まさか、盗まれたのだろうか。
ぽつねんと置かれたプレートを確認すると、小さな文字で、提供ルースキン氏と書かれてある。
どうもブルースキンという人がこの剣を提供したという事らしい。
空になってるけど。それは大丈夫なのか。
もし盗まれたのなら、それは知られされてるのだろうか。
「おや? 空だね」とヒオカさんが僕の見ている空のケースを見て、言う。
「ここにはどんな剣が入ってたんだろうね」
「さあ? どんなのでしょうね?」
ふと、脳裏を過ぎるモノがあったが、その画は陽炎のように儚く消えてしまった。
「…………今のは?」
もう少しで思い出せそうだが、思い出せない。
仕方ないので諦める事にした。
それから僕とヒオカさんは短時間ながらも、博物館を見て回り、そしてデートは無事に終わった。
◆
そして、部屋に戻るとまた事件が起きていた。




