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〇〇は誰だ  作者: 北崎世道
一章
27/43

ヤオ戦3

 悍ましい気配を持つ魔剣。 


 ヤオ・ワンがその剣を持ち、振りかぶる。

 先程までとは異なる大きな振りかぶり。

 木こりの斧でももう少しお淑やかに振りかぶるだろ、って言いたくなるような所作。

 隙だらけだと判断し、僕は特攻を仕掛けようとするが、先程の喪失感で膝が折れ、バランスを崩す。

 地面に手を付き、完全に転びそうなのを堪える。

 が、後先考えず、咄嗟に横へ跳ぶ。



 直後、落雷のように轟く爆発音。



 地面を転がりながら、態勢を立て直し、ヤオ・ワンの方を見る。


 一瞬前まで僕が居たところに、ヤム●ャが死んでそうなクレーターができていた。

 そして、その中心から大きな亀裂がある。

 ホールケーキからショートケーキ一切れを切り取ったかのように、地面が割れている。


「…………おいおい、剣ってそういう衝撃波を出すようなもんじゃないでしょ」 


 漫画みたいな攻撃に、思わず生唾を飲み込んでしまう。


 というか、これはなんだ。

 剣を変えたら、切れ味が良くなったとかそういうレベルのものじゃないぞ。


 それに、魔剣を抜いた時に覚えた喪失感と、後先考えずに全力で跳んだくせに、ほとんど跳べていない僕の跳躍力。


 この世界に来たばっかりの時は、雲を越える程の高さまで跳んだというのに、今回の横への跳躍は精々三メートル前後。

 下手すれば今の攻撃で起きた衝撃波に巻き込まれていた可能性だってある。


 力が落ちているというより、無くなっているという方が近い。


 どうやら、外部デバイスこと、異世界チートの力がなくなっているようだ。


 …………となると、今の攻撃をまともに受けるとどうなるか。



 おそらく、普通に死んでしまうだろう。



「……………………」


 背筋が凍る。


 素直に怖い。

 恐怖で身が竦む。

 歯がカチカチ鳴り、足も生まれたてのシマウマみたいに震えてしまう。


 理屈とかは分からない。

 だが、異世界チートの力がなくなっているのは、もはや疑いようがない。

 あんまり跳躍できなかったのもそうだし。

 今、僕の中にある喪失感が、嫌でも異世界チートの力がない事を教えてくれる。


「…………これって、普通にピンチだよな」


「そウだよ」


 僕の独り言に、ヤオ・ワンが剣で答える。


 僕は全力で横に飛び込み、地面を無様に転がる。

 擦り傷どころか、足やら腕の肉がザリザリと削れてしまうが、この際、気にしてはいられない。


 飛び込んだ瞬間に、またしても轟く爆発音。


 もはや地面を転がるのは、飛び込んだからではなく、その後で放たれる衝撃波で吹き飛ばされてるからだ。


「ケケケケケッ」


 ヤオ・ワンが奇怪な笑い声をあげる。


 振り返り見ると、ヤオ・ワンが白目を剥きかけていた。

 若干アヘ顔に近く、口元も涎を垂らした状態で笑っている。

 正気を失ってるのは明白だ。


「ケケケケケッ、じゃねぇよ。なんで正気を失ってるんだよ」


 おいおい審判、と辺りを見渡すが、ブルババの姿はどこにも見えない。

 そういえば試合が始まってから、一度も見てないような気がするが、もしかすると試合開始直後にさっさとこの場を離れたのかもしれない。

 審判する気がなかったのか。

 なんてババアだ。



『くちゅぎゅちゅにちゅくちゅ』



 魔剣から咀嚼音みたいな音が聞こえてくる。

 普通の剣じゃないのは今更だが明白だ。


「なんなんだよ、その剣!」


 言うが、答えは返ってこない。

 正気どころか意識さえ失ってるようだ。

 喀血しながら笑っている。


「ヤバいだろ……」

 血、吐いてるし。


 とりあえず僕は剣を構える…………が、ない。

 剣先がない。

 根元から完全に折れて、なくなっている。

 いつの間に。

 周りを見渡すが見つからない。

 おそらくさっきの爆発でどっかにいったのだろう。


 というか、見つかったところで、折れたものがくっつく訳でもないので意味がない。


『くちゅぎゅちゅにちゅくちゅ』 


 僕が慌ててる隙に、魔剣から口が生えてきた。

 いよいよもってヤバい。


 僕は即座に背を向け、全力で逃げる態勢に入る。

 こんなもの、もはやどうしようもない。

 戦うとかそういう問題ではなくなってしまっている。


 僕が思いっきり駆け出すと、ヤオ・ワンも同時に走り出す。


「キャキャキャキャキャキャキャ────ッ!」


 と甲高い叫び声を上げながら、首を上半身ごと九十度左右に振って、追いかけてくる。


 怖い。

 っていうか完全にホラーだ。

 ホラーといっても、幽霊とかではなく、人喰いクリーチャーの類である。

 吐血が人喰いのように見えて、マジ恐怖。


 全速力で逃げるのはいいけど、逃げ道がない。

 魔闘場の出入り口が封鎖されている。

 周りを見ても、全部フェンスで囲まれ、そのフェンスも球場ではなくドームレベルの高さだ。

 今の僕の跳躍力ではホームランボールも届きそうにない。


 走って、すぐにフェンスまで来たので、フェンス沿いに逃げ続ける。

 だが、あまり持ちそうにない。

 このままではすぐに捕まる。

 平均速度はこちらの方が若干上だが、トップスピードは明らかに向こうの方が上だ。

 何の障害物もないこの空間では、圧倒的に向こうが有利である。


 …………待てよ。


 障害物がないなら、障害物を作ればいいのではないか?


 視界の端にカナ・ニサンが見えた事で、僕の脳裏にある発想が浮かび上がる。


 創るは魔法で作った土の柱。


 あれを森の木みたいにたくさん生やせば、小刻みに曲がる事が苦手なバーサーカー状態のヤオ・ワン相手でも逃げられるのではないか。

 場合によっては戦略が拡がり、戦う事も選択肢に入れる事ができるかもしれない。


 僕は一昨日以前にアホ程聞いた筈の呪文を思い出し、走りながらそれを詠唱する。


 何十回も聞いたので、思い出す事はほとんど苦労しない。

 空で暗唱できる。息が切れそうになるが、なんとか頑張って詠唱し、魔法を発動させ…………させ…………させ……………………させられない!


 呪文を詠唱し続けても、全然魔力が溜まる気配がない。

 底に穴の開いたビニール袋で水を貯めようとしているような感覚だ。


 やはり異世界チートなしに魔法を発動させるのは無謀だったのか。


 しかし、ふと、僕はある事を思い出した。

 魔法の呪文にはいくつか種類があって、最初に唱える部分、キー呪文は人によって違うから、それは唱えちゃダメな事。

 他人のキー呪文を唱えるくらいなら、唱えない方がマシだとかカナ・ニサンが言ってたような、言ってないようなそんな記憶。


 試しにキー呪文なしで、唱えてみる。

 すると…………さっきよりはだいぶマシになった。

 やはりキー呪文はなしで言うしかない。

 僕のキー呪文はまだ分からないから。


 僕は走りながら再度呪文詠唱を行う。

 ヤオ・ワンに追いつかれそうになると、その場で急転換して、逃げ続ける。

 動きとしてはワンパターンだが、今の知性のないヤオ・ワンならこれでなんとか凌げる。


 ただ、このままではいずれ体力が尽きるだけなので、とりあえずは土の柱を創って、それから戦略を練ろう。


 いよいよ魔力が溜まったので、魔法を発動させる。



 土魔法『クエイクル』



 僕が溜めた魔力が地面を通り、狙った位置に柱を出現させる。



 出現したのは、小指サイズの柱だった。



 カナ・ニサンが最初に出した時と同じぐらいの大きさのやつだ。


「……………………」


 当然、そんなものでは何の意味もないし、それどころかヤオ・ワンはその柱に気付きもしなかった。

 発動させた僕だから、その柱、っていうか突起に気付いたくらいだ。

 観客席にいるあの四人もきっと僕が出現させたクエイクルの突起には気付いていないだろう。


 正直、絶望したかった。

 だが、カナ・ニサンが最初に出したやつと同じくらいだったからこそ、僕にはある希望の可能性が残っている事に気付いた。


 自分にとってやりやすいカタチ。

 例えばカナ・ニサンなら本だった。そ

 ういうイメージしやすいカタチで魔法を発動させればいいのだ。


 幸いにも、小指サイズの魔法を発動させた瞬間に、僕にとってのやりやすいカタチが頭の中に思い浮かんだ。むしろこのイメージを発想させる為に、今の失敗はあったと思わせるくらいだ。


 僕がイメージしたのはもろちんアレだ。


 カナ・ニサンにとっての本よりもずっと身近で、付き合いも圧倒的に長い友達以上の存在。

 今の身体になってからは、大きさもかなり変わったが、それでもやはり根本的なところは変わらない。

 元の世界でも親友以上の存在だったし、この世界に来て新しくなったとしても、それとの関係性はまるで変わらない。

 息子のような存在だ。


 僕が呪文を唱えると、ほとんど追加補助呪文なしに魔法は発動された。


 高さ五メートルほどの土の柱で、やや剃り立った形をしており、上部には傘のようなモノが付いていた。長いキノコというのが一般的だろうが、もっと判りやすく、直截的な言い方があるのは分かっていた。

 第三者が見れば、おそらくはそうとしか見えないだろう事も。

 ただ、ある程度良識を備えていれば、それをそのまま言うのは憚れる。

 これをそのまま言うのは、それこそ頭のねじが一二本余裕で外れたような人じゃないと無理だろう。


 ま、そんな人、僕の身近にいるとは思わないけど。



 ◆



「ち●こだ!」


 一方その頃、観客席にて、ヒオカ・ニサンが一切の躊躇なく叫んでいた。


「大声でナニ言ってるの、ヒオカパイセンっ?」


 クリネ・ヨヨが慌ててヒオカ・ニサンの暴走を止めようとするが、言葉だけで止まるポンコツ姉ではない。


「すごい! 本人のにそっくりだ!」


「…………は?」


「え? ちょっと待って。ヒオカパイセン。さっき言ってたギリギリまでいった相手ってもしかして…………?」


 …………ここから、カナ・ニサンの記憶はあまりはっきりしていない。



 ◆



 魔法は無事発動された。

 カタチに関して言うと、要はビッグマグナムだ。

 僕が魔法で作り上げた土の柱は、僕の股間にぶら下がっているビッグマグナムが臨戦態勢に入った時の形状で、完成度たけーなオイ、と言いたくなるような代物だった。


 ヤオ・ワンは躊躇なく、そのビッグマグナムを剣で斬った。

 一刀両断だ。人の心を地獄に落としたとしか思えない凶行に、僕は思わず股間を手で押さえた。

 実物が斬られた訳でもないのに、痛みが走る走る僕達。

 流れる脂汗もそのままに。


 斬られた柱は、斬ったところから上の部分が倒れ落ちて、ヤオ・ワンの頭に直撃した。

 天罰である。

 工事現場の鉄骨が落ちてきたような光景だったが、ヤオ・ワンは膝を付くだけで堪えていた。

 なんという化け物。


 とはいえ隙は隙。

 僕はその隙に逃げ出した。

 逃げながら、先程と同じ魔法を発動させた。

 いや、連発させた。


 本来のクエイクルは魔力を多く喰う魔法だが、ビッグマグナムの形状にした場合は、その限りではない。

 おそらく相性がいいのだろう。

 本来の消費魔力の十分の一以下に抑えられ、詠唱時間に至っては魔法名を唱えるだけで発動させられる。

 実質無詠唱である。

 故に連発は問題なく行われた。

 一気に十本のビッグマグナムが、タケノコもビックリの速度で土から生えてきた。

 ただ、その大きさにはややランダム性があって、ぱっと見、二種類の大きさに別けられそうだった。

 五メートルのやつと七〇センチ程のやつ。

 おそらく、今の僕のサイズと元の世界時の僕のサイズを元にしているだろう。

 泣きそうだ。


 ヤオ・ワンは反射的な動きでそれらのビッグマグナムを斬った。

 縦横無尽にヤオ・ワンの剣が走り乱れる。

 そして一瞬で、辺りにはビッグマグナムの残骸だらけとなった。


 だが、僕は構わずに魔法を唱え続けた。

 恐ろしい速度で伐採されても、森はそれ以上の速度で拡がっていき、辺りは一面、ビッグマグナムだらけとなった。

 地獄と呼ぶのも生温い絶望的な光景である。


 がんがんビッグマグナムを伐採してきたヤオ・ワンだったが、あまりの高密度チ●ポに僕の姿を見失い、手を止めてキョロキョロと辺りを見回していた。

 ターゲットである僕はというと、ヤオ・ワンの視界から外れた時を狙って、ショートマグナムを始め青筋を足場に三角跳びで柱を登り、柱の上部、傘のところに身を隠して、ヤオ・ワンの様子を伺っていた。


 ヤオ・ワンは僕の事を見失ったと悟ると、辺りを見回すのをやめ、凄い勢いでダッシュし始めた。

 森を抜け、僕を見つけられなかったと気付くと、すぐに踵を返してまたも凄いダッシュで森を走り抜ける。

 それを何度も続けた。

 しかしまだ二次元的な状況を見ておらず、天辺側に意識はいってないようだ。


 ダッシュの勢いといい、お間抜けな視界の狭さといい、バーサーカー状態のヤオ・ワンは若干犬っぽいと思う。

 首輪を付けても躾けられないタイプの狂犬だ。


 僕はビッグマグナムの天辺で息を整え、体力回復に集中する。


 ある程度回復したら、僕はとある魔法を発動させようとした。

 だが、うまくできなかった。

 なので、もう一つ切り札に取っておこうとした方の魔法を発動させ、石を取り出した。

 異世界系に限らず、RPG主人公ならデフォルトで持っている時空系便利魔法。

 アイテム収納の魔法だ。

 異世界チートの力がないので、収納できる量は激変したが、それでもそこらに転がってる石くらいは収納できた。

 厳密にいえば、僕が魔法で創り出したゴールデンボールだが。


 金玉石の一つを手で掴み、ヤオ・ワン目掛けて投擲した。

 だが、あまり投げ慣れてない重さである事と、動き続けるヤオ・ワンの機動力のせいで、残念ながら命中とはならなかった。

 しかも金玉石を投げたせいで、ヤオ・ワンはこちらに気付き、凄い勢いで登り始めた。


 僕は臆せず、もう一つの金玉石を投げた。

 金玉というのは二つあるものだ。

 今度は方向もばっちりで、完全に命中したかと思ったが、ヤオ・ワンの目の前で金玉が割れた。

 目にも止まらぬ速度で一刀両断したのだ。

 しかしこの展開は読めていた。

 僕は金玉を投げた直後に駆け出して、ヤオ・ワンが金玉石を斬ったと同時に、彼女の懐に潜り込んだ。

 そしてヤオ・ワンが反撃する暇を与えずに彼女の腕を掴み、そのまま柱の上から落ちた。


 駆け出して、落ちたのだから、駆け落ちだ。

 なんて言ってる暇もなく、地面に激突した。

 異世界チートの力がないせいで、五メートルの高さからの落下は中々に響いた。

 だが、僕よりも僕の下に押し潰されたヤオ・ワンの方がダメージが大きいのは明白だ。

 なにせ、自重プラス僕という重りが乗っかってきたのだ。

 しかも僕に腕を掴まれていたので、受け身も取れてない。

 いくら異世界といえど、この衝撃は大きい筈。

 実際、ヤオ・ワンは落下ダメージにもがき苦しんでいた。

 僕も受け身なしに落下したので、結構苦しい。

 だが、比較的ダメージの少ない僕の方が先に立つことができた。

 今のうちに、彼女の手にあるヤベェ剣を引き剥がそうと試みた。


 だが、いざその手を見てみると、彼女は剣を握っているのではなく、剣が彼女の手を縛っていた事が判る。

 そのヤベェ剣から、木の枝みたいな触手がにょきにょき生えていて、彼女の手、いや腕に絡みついていた。

 剣に操られていると思っていたけど、それ以上だ。

 これはもうヤオ・ワンが暴走しているのではなく、剣の方が暴走している。

 ヤオ・ワンに取り付き、彼女を暴れさせている。



 だからダメージでヤオ・ワンが動けてない今がチャンスだ。



 僕は急いでその剣から生えてる木の枝みたいな触手を引き千切ろうとした。

 だが、思ったよりも硬くて、なかなか引き千切れない。

 更にはその触手は蠢きながら、また新たな枝を生えさせ、腕への絡みつきを強化していく。

 これはマズい。


 僕は少し考え、さっき失敗した方の魔法を発動させてみた。

 異世界チートの力がなくても、出せる事は出せる火の魔法。

 ファイヤー。

 力がなさ過ぎて、ライターを少し強化したくらいにしかならないけど、このまま力尽くで引き千切るよりも少しだけ効率的だ。

 剣の抵抗も収まり、このまま順調にいけば、引き剥がす事もできるだろう。



 だが、そこそこ枝を減らして、ようやく引き剥がせるかと思った矢先、突如剣が動いて、僕の腹部を貫いた。


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