表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のフェーヴは誰のもの?  作者: 宝月 蓮
この想いは国境を超える
7/7

2

 その日の放課後。

 ファネットは学園の図書室で調べ物をしていた。

 そして調べ物が終わった時、ファネットは見知った姿を見かける。


 アッシュブロンドの髪、タンザナイトのような紫の目。長身で凛々しい顔立ち。

 オリヴィエである。

「オリヴィエ様」

 ファネットは思わず彼に声をかけていた。

「ファネット嬢」

 オリヴィエもファネットに気付き、フッと口角を上げる。

「まさかファネット嬢がこんな時間まで学園にいるとは」

 オリヴィエは意外そうにタンザナイトの目を丸くしていた。

 冬なので日の入りが早く、窓の外は暗くなっていた。

「ええ。今日はメルクール公爵家からの迎えが少し遅くなるから、図書室で調べ物をしていたの。オリヴィエ様は、今から寮にお戻りなの?」

 ファネットは首を傾げる。


 ラ・レーヌ学園に通うナルフェック王国の貴族は基本的に王都の屋敷(タウンハウス)から馬車で通学する。

 しかしオリヴィエのような他国からの留学生は寮生活になるのだ。


「ああ、そうだ。ただ……」

 オリヴィエは頷き、少し考える素振りをする。

「今日はもう寮に戻った後、やることがないんだ」

 オリヴィエはおどけたように、やや悪戯っぽく笑う。

 するとファネットはチャンスかもしれないと感じ、アメジストの目を輝かせる。

「あら、そうなの。(わたくし)も、メルクール公爵家からの迎えはまだ少しかかりそうなの。良かったら少し話さない?」

「そうだな」

 オリヴィエはファネットの提案に頷いた。


 そこから二人は今日あったことなど、他愛のないことを話し始める。

 ファネットにとってはそれがまるで宝石のようにキラキラとした時間なのだ。

 オリヴィエと話している時のファネットのアメジストの目は、一番溌剌と輝いている。


「そうだ、実はオーヴァイエ公爵家の方から、そろそろ婚約者を決めるべきではないかと届いてる釣書が送られて来た」

 オリヴィエは困ったように苦笑し、ため息をつく。

 その話題になり、ファネットの表情が少し曇る。

「そう……。オリヴィエ様はドレンダレン王国の筆頭公爵家次期当主だから、やはり国内の貴族令嬢と……?」

 オリヴィエは黙り込む。

(この時間も……終わってしまうのかしら……)

 分かっていたことだが、ファネットは俯いて内心ため息をついた。

 しばらくすると、オリヴィエが口を開く。

「だけど俺は……結婚したい相手がいるんだ。その相手はドレンダレン王国の貴族ではない。ナルフェック王国の貴族。……ナルフェック王国の筆頭公爵家の令嬢である君だ、ファネット嬢」

「え……?」


 オリヴィエから発せられた言葉にファネットは驚き、思わず顔を上げる。

 オリヴィエのタンザナイトの目は、真っ直ぐファネットに向けられていた。


「最初は理不尽を許さないという姿勢。それから、話をするようになって……段々ファネット嬢に惹かれていったんだ」

 オリヴィエが発する言葉は一つ一つ力がこもっており、誠実だった。

 ファネットはアメジストの目を大きく見開く。

「オリヴィエ様が……(わたくし)を……!?」

 信じられない気持ちと、嬉しい気持ちで胸がいっぱいになるファネット。

「ああ」

 相変わらずタンザナイトの目を真っ直ぐファネットに向けているオリヴィエ。

「もしファネット嬢が俺を受け入れてくれるのならば、一緒にドレンダレン王国に来てもらえるだろうか? すぐには決められないことだとは思うが」

「喜んで行くわ」

 ファネットはやや前のめりになり即答した。

「ファネット嬢……本当に、良いのか? 俺を受け入れるということは、祖国を離れることも意味するんだぞ」

 オリヴィエは嬉しさと不安が入り混じったような表情だ。

「ええ。それに、オリヴィエ様は(わたくし)がよく留学生の方々と交流していたことをご存知でしょう。他国の興味は人一倍あるわ。それに、ドレンダレン語だって話せるもの」

 ファネットはアメジストの目をキラキラと輝かせる。

「そうだったな。バロリア嬢を始めとする他の国の留学生と話している君の姿をよく見かけた」

 オリヴィエは思い出したように笑う。その表情は、どこかホッとしていた。

「オリヴィエ様、そうと決まればオーヴァイエ公爵家とメルクール公爵家に連絡をしなければいけないわ。それに、ドレンダレンとナルフェック、それぞれの王家に許可を得たりするなど手続きが必要よね。忙しくなりそうだわ」

 ファネットは前のめりでそう意気込む。

「確かに。王家からの許可となると、時間はかかりそうだ。でも、俺は許可が下りると考えている。ナルフェック王国は隣国との同盟強化の為、国境に領地を持つナルフェック王国貴族の家の者と隣国の貴族の家の者を政略結婚させているだろう。それぞれの国や家の合意があっての上で。ナルフェックとドレンダレンは友好国。更なる結び付きに反対されることはないだろう」

 オリヴィエは明るい表情だ。

「ええ、そうね。オーヴァイエ公爵家もメルクール公爵家も、それぞれ王家に万が一のことがあれば王位継承権が与えられる筆頭公爵家。(わたくし)達が結婚するとなれば、二国の結び付きは強固になるわ」

 ファネットは嬉しそうにアメジストの目を輝かせている。

「ファネット嬢、これからよろしく頼む」

 オリヴィエはファネットにタンザナイトの目を真っ直ぐ向けて微笑み、手を差し出す。

「こちらこそ」

 ファネットは嬉しそうにアメジストの目を細め、オリヴィエの手を取った。

 ファネットとオリヴィエの国境を超えた想いは実ったのであった。


(これはフェーヴのおかげかしら?)

 ファネットはガレット・デ・ロワから出て来たフェーヴのことを思い出し、ふふっと笑った。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 ラ・レーヌ学園食堂の冬季限定デザートであるガレット・デ・ロワ。その中のフェーヴを引き当てた者は、恋の幸運が訪れると言われている。

 今日フェーヴを引き当てる者は誰だろうか?

読んでくださりありがとうございます!

これにて完結です!

少しでも「面白い!」「またあのキャラを見ることができて嬉しい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!

皆様の応援が励みになります!

最後までお付き合いくださりありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! 四つのお話、それぞれ個性があって、とても面白かったです(*^▽^*) 個人的には「完璧な彼女の意外な弱点」のオチに、クスリと笑ってしまいました。 それからフェーヴを引き…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ