表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

エピローグ

 目がさめると、相変わらず残酷で、単純で、美しい異世界だった。


 着替えを終えて塔のに登る。ここから見る日の出が私は大好きだ。築城地点として、この場所を夫と選択し、1年後に最初に完成したのが、小高い丘の上にそびえ立つこの塔だ。拡張工事が続けられ、領地としては不相応な巨大な城郭が完成した。ここは、国境近くの城壁都市となり、交易などで繁栄していった。この塔が出来てから9年間、この城にいるときは毎朝日の出を眺めていた。色々な思いを抱えて。嬉しかったんだ、城壁都市が栄えてゆくのが。私が、景色に飽きるころに現れて、黙って私の隣に並んでいた夫も、半年ほど前にあの世に旅立った。そして、私も今日で見納めだ。


 陰謀長女は、参謀家の三男に嫁いだ。流石に参謀家の相続は実力主義だ。今はお亡くなりになった、あのしつこい腹黒参謀さまが、成人前の長男を手元に置いたのも、場合によっては孫娘と結婚させて、参謀家を相続させるつもりだったと後で打ち明けられたぐらいだ。重要な軍事拠点となった我が領の相続問題も、国にとって重要だったから、こちらを優先してくれて、結局、長男が我が領を相続することになったんだけれど。その代わりに参謀家の相続者と認められた、三男に陰謀長女を差し出したと言うわけだ。今、2番目の子を身ごもっているにも関わらず、国の諜報機関の創立に活躍しているようだ。あの子にはふさわしい立場を手に入れることができた。そして、楽しそうに暮らしている。彼女には感謝している、夫が孫を抱くことができたのだから。


 次女は二年前、商会の跡取りと婚約し昨年結婚した。他国で商会が始めた、海外貿易船に乗って海の向こうにも行ってみる!と張り切っていたが、試しに乗った船でひどい船酔いに苦しめられ、適性がない...と諦めたようだ。ただ、馬で他国にはしょっちゅう出かけているみたい。商才はある、あの子も大丈夫。


 三男は昨年成人したばかりで、指揮官候補としてまだまだ修行中。若干心許ないが、心配しても仕方ない。そして結局、彼のあと子宝には恵まれなかった。


 この領地は長男が相続し、王様の娘を娶った。ああ、王様も世代交代しているよ。新参貴族にはあり得ない処遇だが、この巨大な城には各領地から、その領地の兵士の5%が1年交代で派遣されることになっている。我が家の兵力だけでは守りきれないからね。国境に巨大な兵力を抱えていることは、紛争の抑止力にもなる。そして、彼らの指揮は我が領主が執る。そう主張したんだ、亡き参謀さまに。合理的であることは王も認めて、あっさり承認されたよ。そして、我が家の権威づけが必要で、そのために王族の血を入れるという決断が下された。だから、ありえない処遇を得られた。


 もちろん私は姫さまの性格なんて、我が家に迎えるまで知ることはできなかった。それほど、身分の差は大きかったから。うん、結構タヌキだよ。表面上は優雅で従順そうだが、見た目だけだ。油断できないやつだが気に入ったよ。と言うわけで、地政学的には重要で危険な領地だが、政治的な面からみると、それほど危険ではなくなった。隣国の王とも、友好関係を築いたからね。


 いや、国境に巨大な軍事都市が出現したんだ。向こうだって気になって仕方なくなるよ。だから、向こうの王から招待されたんだ。私一人で乗り込んだよ。そりゃ、元敵国に領主である夫を連れて行って、策謀に嵌められたら戦争が始まりかねないからね。私だと、その危険がない。身分もそれほど高くない女一人の命で、全面戦争が始まる可能性はほぼない。そして私は、あの神様のところに逃げ出せばいい。どうせもう隣国では魔女呼ばわりされているんだ、いまさら何かあっても不思議には思われないだろうさ。


 指定された日時に武装して単騎で乗り込んだよ。非常識だけど、私は隣国の王様の部下っていうわけじゃない。私が疑い警戒していることを全力でアピールしなければ身が危ない。思ったより歓迎された。まあ、どちらの国にも女性軍人、しかも上位者なんていないから、珍しいっていうのもある。話は弾んだ。その日以降、友好関係が続いているし、隣国の社交界から呼ばれることもある。隣国でも商会は急成長したんだ。その代表者の一人としての私の地位が結構効いた。お互いが売り込みたいものを巡っての駆け引き(たたかい)を繰り広げていたわけだ。商会の跡取りと婚約した時から、次女も一緒に連れて行くようにしていたから、引き継ぎも万全だ。


 戦略家、指揮官、陰謀家、資産家、そして王家と隣国貴族とのコネクション。みんなバラバラになったけど、強力なネットワークを築き上げた。だから、彼らがその場所でこれから生き延びていくのも、それほど難しいことじゃないだろう。というわけで私は妻として、そして、親としての役割は全て果たした。そして、すべての手はずは整ったんだ。そりゃ私も寂しいさ。だけど我が子の死だけはもう見たくない。これは譲れない。だから、いつかはこの身を引かなきゃいけないんだ、私の死という形ではなく。まあ、一年程度は子供達をバックアップできるようにするが、そのあと何が起こるかは、もう知るつもりはない。この国での私は死んだと考える。まあ、余命一年のおばさんだ。期限が決まっている方が何かとやりやすいんだよ。


 だから、私は出家して夫の霊を慰めるという名目で、今日この城をでる。家族からは反対されたけど押し切った。いつでも会えるでしょうと言って。領地のはずれにある、鄙びた教会で1年ほど大人しくすごし、その後で巡礼の旅にでる、とでも言って行方をくらますつもりだ。子供も手が離れたし、義務と考えていた義父と夫の最後は看取ったのだから、もういい頃合いだと決断したんだ。


 私がここで得た権益も大丈夫だよ。商会との最初の契約時から、商会が存続している限り符合する割符を持つものが現れたら、それは私と同じ者として扱う、という条項を入れているから問題ない。この条項を入れることを強く主張する私を不思議そうな目で見てたけど。そして今まで2回転生して、それがちゃんと機能していることは確かめてある。だから、これからどんな容姿をとろうが、商会の財産と庇護は私とともにある。



 そういえば昨夜は久しぶりに鮮明な夢を見たんだ。前世の、未熟者だった私の。いや、最後まで未熟者だったかな?まあ、しかたない。


 私は、親族の死で泣いたことはない。いや一度だけあるか。可愛がってくれていた祖父が亡くなった時に。遺体になったことに泣いたわけではない。焼却炉から出た時、スカスカになった骨をみて、びっくりして泣いたんだ。幼かった私は。


 たまたま見舞いに行くと祖母が泣きついてきた、「殺される、助けて、助けて...」って。私は彼女の孫だった者だ。そう、彼女は認知症だった。看護師が慌ただしく手術の準備をしている中で、自分に話しかけて来た見知らぬ人が、自分に何かしようとしているわけではないことを感じて、彼女は助けを求めたに過ぎなかった。私はただ混乱した。その後騒ぎになった。大人がどう議論したかは知らない。ただ、手術は行われ、そして1年もしないうちに彼女は亡くなった。彼女の葬式では誰も泣かなかった。彼女がこれ以上、苦痛を感じなくて良くなったことを皆が喜んでいた。私はどうしても、大人たちの反応が理解できなかった。なぜ、手術を受けさせたんだ?


 そして、望んだわけではないが、流れ流れて死を数字として扱うようなことを、仕事とした。どれほどの死を扱ったかはわからない。一度に数万の死を扱うこともあった。さすがに、生まれたばかりの新生児が、大人の100分の1以下の用量の薬で治療され、最後に強心剤を打ち込まれ、そして一切の治療がなくなる...要するに死ぬのを見るのは辛かった。ただ、何百、何千という新生児の死もみてきた。


 休日に電話がかかってきた、父親の死を伝える。彼はその10年以上前から進行性の疾患にかかっていた。寿命にも知能にも影響しない病気だが、徐々に運動機能が失われ、動けなくなるどころか喋ることも、瞬き(まばたき)することもできなくなる。それでも心臓と呼吸は止まることがないという病気に。予想はしていた、彼がそれを自分で行えなくなる前に、彼が自分で自分の死を定めるだろうと。いや、正直に言おう。ホッとしたんだ、彼の死に。私が、その当時恐れていたのは、近い将来動けなくなった彼が、私に「殺してくれ」と泣きながら訴えてくることだった。彼の願いを拒否できる自信はなかった。だから、その方法や判例なんかも調べていたぐらいだ。そんな中、もう這うようにしか動けなかった彼が、下着が汚れていた程度で、安らかな顔で眠るように死んだんだ。武術家でもあった彼がとった方法に、感動すら覚えたぐらいだ。


 異国の地、周りから聞こえる異国の言葉。そして、私の前には偉大なる老人が座っていた。私は彼に謝った。彼の話す言葉が苦手で、話すスピードも遅く、語彙も乏しく、文法も正しくないため、彼の貴重な時間を浪費することを。偉大なる老人は軽く笑って、君の国の言葉は私には全くわからないから、君が私の国の言葉で話してくれるだけでありがたいと、そして私に十分な時間を与えることは全く問題ないと、ゆっくりと言ってくれた。そして、二人だけのゆっくりとした会話が始まった。若者は、偉大なる老人にできるだけ正確に、自分の考えを伝えようと。そして、偉大なる老人は、注意深く若者の考えを正しく捉えるよう、そして、簡潔な言葉で自分の考えを伝えようと、過去の大いなる業績の修正を主張する若者に対して。しばらくして、偉大なる老人はこう答えた。君の言っていることは、おそらく正しい。私は一部の他人ひとの寿命を短くしたかもしれないねと。

 私は、偉大な老人に自分の考えが認められたことの喜びより、恐怖を感じていた。そう、その時初めて認識した。全てに対する正解は絶対にないのだと。多くには福音になろうとも、必ず呪いを受けるものが出てくるのだ。そして、私が年老いた時、私がかけた呪いを暴く者が現れることを。「君は君の国にいてはだめだ。私の国に来なさい、仕事は紹介しよう。」と告げられても、逃げることしか考えられなかった。


 臆病になった私は、その後あまりシビアなことには関わらないようにしていた。情報を発信しなかったことが多かったと思う。そして年をとったある日、私が情報を発信しなかったことで、他人ひとの命を縮めたという事実を突きつけられた。もちろん私を責める者はいなかった、そりゃ誰も私が彼らを見捨てたことを知らないのだから。でも、自責の念は私を苦しめ続けることになった。私はどうすればよかったのだろう?


 ある定年直前の医師と仲良くなった。二人きりの会話が終わろうとした時、彼は言った。「もし、時間があるなら私の悩みを聞いてほしい」と。私の倍は生きている人だ、そんな人が私に相談?怪訝な顔になるのは当たり前だ。「いや、君は医師とは違う命に対する価値観を持っているよね?いや、なんとなく話していてわかるんだ。」そして、彼は語り始めた。

 「医師になってから、ずっと自分より年上の命を救うことに必死だった。ただ、目の前の患者の呼吸が、心臓が止まらないように、止まった場合にはなんとか再び動かそうと懸命に努力を続けてきた。ただね、彼らと同じぐらいの年齢としになって、初めて気づいたんだ。その時には止まらなくても、また入院してくる。そして、それが何度か繰り返されて結局は死ぬ。どうも私はおかしなことをやってたんじゃないかって、この年齢としになって疑問に思うようになった。君の価値観では、私たちの行為はどう見えるのか知りたい。」と。

 正直に打ち明けるかどうか、少し悩んだが彼の真剣な表情に、私も誤魔化さずに答えることにした。命は救えない、延命しているだけだと。そして延命には若年者には大きな意味がいくつかある。そのうち最大のものは次世代が生まれる可能性があることだ。そして、高齢者には延命の意味はほとんどない。

 彼は大きな声で笑った。「あー、私の悩みは君にとって当たり前のことだったのか。」と言って。そして、少し寂しそうな笑顔で、「正直に答えてくれてありがとう。」とつぶやくように言った。ただし、私が誤魔化していたことがある。彼は命を救っていたのではなくて、苦しみを長引かせていたかもしれないということを。彼がそれに気づいたのかどうかはわからない。


 綺麗事は、豊かで余裕がある世界では通用する。ただ、多くの世界で綺麗事は意味がないし、豊かで余裕がある世界でも綺麗事が通用しないようなことになるかもしれない。感情を捨てて、考えておくことは必要だ。そして、何が真実かなんて人間には絶対わからないからね。



 ああ、いろいろなことがあったな...

 そして現実いせかいに引き戻された。

 「それでも私はこれからも生きていくよ。この残酷で、単純で、美しい異世界で。」そう大声で叫んだ。亡き夫と作り上げた景色を目に刻みながら。

 そして、ゆっくりと塔から降りて行く。おそらく、この城での最後となる朝食を、家族とともに摂るために。

 わずかですが、ここまでお付き合いいただいた方もいたようです。本当にありがとうございました。

 前半部分がひどいのは、申し訳ございません。私も分かっています。読んでいただく、分かっていただくというより、これは私の懺悔の書です。ただ、書き始めた時は、あのような形でしか、書き出し書き進めることができなかったのです。本稿で一旦筆を置きますが、時期を見て前半部分は改定いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ