『化物の処遇』と『遠征の日々』。
あれから数日後の夜のこと。
「へえ、じゃあ『アーリア王女』はしばらくお休みにするって事ね」
「もう怜奈ったら、そんな言い方しないの……!それじゃまるで職業みたいじゃん」
「はい。なので私、皆さんと一緒にいる間は『リィリス・クレセリア』として生きます!」
自信満々に言うリィリスに二人とも小さく拍手。
李紗のナデナデ付き。
「それにしてもクレセリア……『月の妖精』とは本当にリィリスにピッタリな名前よね」
「本当だよね。名前に由来とかあるの?」
「この名前は母上がつけてくれました。アレクサンドリアは元々クレセリアという小さな国だったそうで、そこから引用して『クレセリア』とつけてくれたのです。そして『リィリス』は姉様達のように強くなりたいという気持ちを母上が汲んでくれて、二人の名から一部ずつ借りてつけてくれたものです」
リィリスが言った名前の由来。
李紗の膝の上で話していたリィリスが『姉のように』という時だけ何故か姿勢を変えてまで李紗を凝視しながら言っていたのが気になる李紗。
怜奈は『李紗に亡くなったお姉さんを重ねているのね』と納得した。
「『リリィ』+『アリス』=『リィリス』……。なるほど」
「双子がいたら『リア』ちゃんだね」
「李紗から『S』を抜けば双子になれるわね」
「私Sじゃないよ……!」
「そういう話じゃない……」
「冗談冗談。怜奈だって『E』と『N』を抜けば双子だよ」
「そうね。そして新たに『セン』か『ネス』が産まれてくるわね」
二人は名前遊びを始めていたのだが、ローマ字という概念を知らないリィリスは頭の中を『?』でいっぱいにする。
「そんなリィリス様は相も変わらず、李紗にべったりね」
皮肉を込めて言った。
李紗、怜奈、リィリスの三人は布団の上に座り、話をしていた。
当然のように、居間には布団が二枚しか敷かれていない。一枚は李紗とリィリス、もう一枚に怜奈という形で寝ている。
こうして話している間もリィリスは当然のように李紗の膝の上に座っているし、李紗も当たり前のように前抱きしている。
「だってここに李紗さんがいるから……!」
「だってここにリィリスちゃんがいるから……!」
と声を揃えて言った二人。
「二人とも、なんだかますます似てきたわね」
怜奈はそんな二人の姿を見て遠回しに「私より姉妹してない?」と不満を口にしている。
「まあ、私も流石に七歳も離れた妹の面倒なんて見てられないけど」
とリィリスの事は李紗に放任しようとする怜奈。
「怜奈、前に『姉妹を意識すると……』なんて言ってたんじゃなかった?リィリスちゃんも仲間だよ、仲間」
怜奈の揚げ足取りをする李紗。
「それは……、そうだけど……!そうだけど!」
本心を知っていてそんなことを言う姉に少しイラッとする怜奈。
「私も李紗さんをお姉さんだと思ってます!すごく尊敬してます!」
「えぇっ……」
李紗がリィリスの不意打ちに怯んだところ、チャンスとばかりに顔を輝かせた怜奈。
「リィリスは李紗お姉さんのことが大好きなんだよね〜?」
「はい!大好きです……!」
「あ、ありがとう……」
「はい、ご馳走様」
李紗に過去の自分の言葉を揚げ足取られた怜奈は腹いせに彼女をグイグイ攻めるリィリスに援護射撃を出した。そして照れる李紗。
そして姉の照れ顔を見て満足する怜奈。
珍しくリィリスの頭を撫でていた。
「……あれは意識的な話しよ」
「ふぇ……?」
「だから『姉妹として……』ってやつ。ああは言ったけど私は別に李紗と姉妹をしたくない訳じゃない。だからリィリスに少しヤキモチを妬いてる。それに竜也の事もあったし、下手に関係を崩したことを少し後悔してるの」
「……分かってるよ。少なくとも私の中では怜奈は妹のままなんだし、変に色々考える必要も無いよ。姉妹で仲間、それでいいじゃん」
「本当に、李紗変わったよね……。まるでお姉さんみたい」
「変われたのは皆のお陰だよ。あと私は正真正銘あなたのお姉さんだから」
「…………、あの私は怜奈さんの事もお姉さんだと思って……」
「はい、無理にフォローしなくてよろしい」
李紗の前向きさに、『姉』を感じた怜奈。
あと明らかに取ってつけたように『貴方も私のお姉さんだ』と伝えてこようとしたリィリスにはチョップしておく。
そんなやり取りをする三人の雰囲気はどう見ても『姉妹』のそれだった。
翌日のこと。
「リィリスちゃん、髪を解いてあげるね。ついでに結ってあげる」
「やった!ありがとうございます!」
「今日はどんな髪型にしようか」
「り、李紗さんと同じ髪型がいいです!」
「そう。分かった!」
と長い髪を低めのお団子ヘアにまとめる。
「……えへへ、李紗さんとお揃い、です……!」
と嬉しそうに言うリィリスが可愛くてついつい頭を撫でちゃう。
何故か「程々にしときなさい」と怜奈に注意されたのだけど。可愛いものを撫でたくなるのは仕方ないよね……!
そしてリィリスと二人、そんな姿で怜奈の前に顔を出してみれば
「…………なんだか、姉妹みたい」
と微妙な顔をされてしまった。
どうやら自分以上に雰囲気も似て、姉妹らしいやり取りをしているリィリスに複雑な気持ちを抱いているらしい。
嬉しくなってつい、私は怜奈に飛びついた。そして頭を撫でた。
怜奈に殴られました。
竜也はそんなやり取りを笑顔で眺めていました。
怜奈曰く、『向こうの世界での姉としての意識を持ったまま今ここにいる李紗は、私の今の態度から妹として扱っていいものか分からず、その分リィリスを妹のように可愛がっているのだろう』とのこと。
そしてその後、怜奈は虎鉄の元へ行く。
「これ打ってみたから使いなさい」
「えっ、は……?」
準備の折、突然怜奈から刀を渡された。
確かに、自分専用の武器が欲しいとは思っていたし、それを貰えるなら有難いが……。
何故、刀……?
「それは名刀、《長曽祢虎徹》を模した刀よ。《虎徹》と命名したわ」
「《虎徹》……。ああ、そういうことか」
「そう、貴方にピッタリだと思ってね」
なるほど、名前が被っていたからか、と納得する。
割かし、重い。試しに抜いてみると刀身もしっかりしていて綺麗だった。黄色いラインが彫り込まれているのは雷のイメージからか?
試しに雷を纏わせる。なるほど、蒼雷の中に一筋の黄色い線が浮き上がった。綺麗だった。
「おおっ、すげえなこれ」
「それを持って現代版近藤勇になるといいわ」
「現代版って……。『今宵の虎徹は血に飢えている』か?」
「……え……」
刀を構えながら有名な台詞を口にしてみたのだが……。怜奈は引いていた。ドン引きだった。そんなに不細工だろうか。確かこの構え方であっていたと思うんだが……。
そして、台詞を思い返し『今宵の虎徹は血に……』まで考えてその理由に気づく。
「……!いやいや、俺がって事じゃなくて……」
「…………。……わ、分かってるわよ。ただ、必死に真似をしていたから、つい本気に思えちゃって……」
「その間はなんだよ……」
必死に弁明するも、尚も幻滅の表情を崩さない怜奈。終わった、とそう思った。
「虎鉄く〜ん、準備出来た〜?」
「ほら、彼女が呼んでるわよ」
「おう。刀、ありがとな」
「どういたしまして。……李紗に妙なことしたら許さないから……」
「えっ、だから……!」
「ほら、行った行った」
という怜奈が虎鉄にドン引く一幕があったり。
ちなみにこの時、竜也がそんな怜奈に「俺の武器も新調してくれ」と必死に懇願したのだが。
怜奈は却下した。
「いつも作ってあげてるんだから、今回は我慢して欲しい」
と。
とまあ、そんなこんなで準備を終えた五人だった。
虎鉄は《虎徹》を傍らに鎧に篭手と武士のような装備を纏っている。全て怜奈手製。
李紗は動きやすさ重視の軽量型装備。胸や肘や膝などにプレートアーマーを当てている。全て怜奈手製。腰には聖剣 《セイヴ・ザ・クイーン》。
竜也には西洋甲冑を装備させている。リィリスがヒーラー役を担当するようになったため、戦闘に向けた装備にする必要があったのだ。彼が持っている錫杖も槍を仕込んだ物となっている。仕込み刀ならぬ仕込み槍である。上手くその槍を扱えればいいのだが……。
リィリスは召喚士兼ヒーラーということで、見た目は青と白を基調としたゴスロリ風な衣服を装備している。
銀の髪と相まって天使を想起させるらしく男性に人気だった。もちろんその男性達は李紗にズタボロにされる。そしてリィリスはそんな李紗にどんどん惚れていく。
そして怜奈は、手ぶら且つただの私服。
怜奈はいわゆる換装魔法を取得した。異空間に武器や荷物を収納している。戦闘になると幾本かの剣を取り出し、鎧も纏う。
必要なら鍛冶道具一式を取り出して剣の精錬・鍛錬も熟す。
さて、そんな五人は今ギルドに来ていた。
師匠方のお墨付きから上級への昇格を申請するのだった。
魔法系の虎鉄が白魔法以外ならある程度は熟せるようになっていたり、同じく魔法系だった李紗が騎士になっていたりしているので、どうなるのかという相談も兼ねてだ。
過去、クジャが言っていたように『職業に縛られる必要は実はあまりない』を良く実感している。
個室に案内され、レオナルドと五人は向き合う形で話を始めた。
リィリスが四人の身体について説明。そして「おそらく皆さんはそれぞれの召喚獣に影響される形で技術を磨いています」と説明する。
実際虎鉄は《ケツァクウァトル》に影響され、雷を扱うことに長けている。怜奈は《ギルガメッシュ》に影響されて様々な装備を自在に扱える。竜也は《エデン》に影響され聖属性魔法を多用する。
李紗だけは未だなんの影響も受けていないが。
「なるほど、な」
レオナルドは信じ難いだろう話を飲み込んだ。
「ギルドマスターとしての意見だが、お主らはこの世界における職業の枠には収めることの出来ない特殊体質だ。だからここには置いておけん、と結論はそうなってしまう。言ってしまえばお主らは『化け物の力を宿した化け物』じゃからな。もし、それが知れ渡ればお主らは誰からも距離を置かれよう。無論、このギルドの者達がそんな事を思う訳ないとわ儂も思いたい。けれど、おそらくそうはならん。必ず誰かは遠巻きにし、そしてそれを感じ取った誰かがまた……、となるだろう」
レオナルドの言うこと、一つ一つが心に刺さる。
そう、自分達は異世界人であると共に人外となってしまったのだ、と。そして、それを知れば誰もが自分達を恐れ、怖がるだろう、と。
「特例としてお主らには望んだ職業を選択させよう。そしてランクも《Ⅳ》へと引き上げておく」
「え……!?」
「自由選択!?」
「ランク《Ⅳ》!?」
「どうして……」
「そのランク《Ⅳ》以上の者しか行くことが出来ぬ遠征依頼がある。それに行って欲しい」
「どういうことよ……」
「…………。儂に、儂らに時間をくれ。其方らの処遇について考える時間を」
それだけ言われて、部屋を追い出されてしまった。
「皆さん……」
「「「「…………」」」」
何も、言えなかった。
自分達が遠征に行っている間に扱い方を考えておくから遠征に行けと放り出された。
気遣わしげにリィリスが声を掛けてくれるも皆、何も言えない。李紗が静かにその頭を撫でた。いつもの優しさを含むものではなく、寂しさを孕んだものだった。
そして受付に呼ばれた四人はそれぞれ職業の選択をする。ついでにリィリスのギルド登録も行った。
虎鉄は陰陽師。
李紗は聖騎士。
竜也は祓魔師。
怜奈は剣闘士。
そして、リィリスは召喚士。
手続きだけ終えると、虎鉄達は無言でホームを去った。
静かな旅の幕開けだった。
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「つまらんな」
魔王は一人ごちった。
ネス君の尽力というか精力のお陰で魔神族達は完全に目覚めていた。男共は半魔獣化し、女共は生きていた時そのままの肉体に少し魔族的な特徴を加えたような形に。けれど、彼らは彼女らはきちんと人間としての意識を持っている。城に人員が増え始めた。
そのため、それぞれに元々魔族達の住んでいた土地を分配したり、新たに作っていったりと忙しなく動いていた頃から半年、マルスという国は活気を取り戻していた。
人の営みがきちんと築かれ、街として機能していた。
「何かいい事、楽しい事は無いものか」と。
魔王は退屈を覚えていた。
「「私達、あの国を滅ぼしてやりたいです」」
とはリリィとアリス。
「故郷なのにか?」
「だからこそです。聖騎士を名乗っていた私達など黒い歴史でしかありません。歴史ごと消し去ってやりたいのです」
「はい、私達はここで生まれたのです。偽りの故郷などあってはならない」
「私達は今やリク様の娘であり配下です。それ以外は全ては虚」
堂々と言ってのける二人。
「……まあ、『娘だ』というのはあながち間違ってはいないんだがな」
二人の宣言を聞き、魔王はポツリと零す。二人には聞こえないような声で。
今日も魔王は女を侍らせながら眠る。
そして、過去の事を思い出していた。
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「くっそ!」
「虎鉄くん、落ち着いて……!」
「あーもう!なんなのよ!」
「怜奈、お前もだぞ〜!少し落ち着け……!」
「今の魔獣って……ベヒーモスですよね……。結構強かったはずですが……。い、一撃です。……って、ああ李紗さんが結ってくれた髪が……。お揃いの髪型をよくもー!」
ギルドを追い出される形で遠征に向かう五人。内二人は何処にぶつけるべきか分からない虚しい気持ちを魔獣にぶつけていた。
一人は他の理由で魔獣に怒っていたが。
遠征依頼の内容はリンドブルムという国の周辺に突如出現した魔獣の掃討だった。それも結構強力な魔獣ばかりで、上級且つランク《Ⅳ》を超えたものでないと相手に出来ないというレベルもの。
ダリからトリノ。そしてトリノからリンドブルムへ、そして魔獣の巣へと向かう訳だが。
まあ、うじゃうじゃいる。
そしてそれらを相手取るのは虎鉄と怜奈の八つ当たり、もとい鬱憤ばらしにはピッタリだった。
リィリスが言うように平気で中ボスクラスの敵を片付けてしまっている二人はリンドブルムに辿り着くまで止まらず戦い続けていた。
そして二週間ほどで魔獣を狩り尽くし、リンドブルムに辿り着いた一行。
即酒場に行き、皆で飲んでいた。
「言いたいことは分かるのよ。『化け物』である私達が皆を怖がらせてしまうってのは。けどさ、処遇がどうとかって。それじゃまるで私達が既に何かしたみたいじゃない……」
「確かにな。けど俺達を慮っての事だとは思うぞ?」
「それは分かってんのよ。ただ、何か納得いかない部分があるだけで……」
「私が居るからかな……。ほら私、耳とか黒くなってて尖ってるし、角とか生えちゃってるし……。なんてね、ごめん……」
「無くはないと思うけど、変に思い詰めるなよ。仕方がないことなんだから」
「そうですよ!李紗さんのせいじゃありませんよ!」
「そうよ、李紗が気にする必要ないわよ。あと次にそれ言ったら滅多刺しの刑だから」
「おおお、落ち着いてください、怜奈さん……」
「リィリス、お前も落ち着け」
「怜奈、だいぶ酔ってる……」
「ああ、ちくしょう。折角の上級昇格が全然嬉しくねえよ!本当だったらもっと皆喜べたはずなのによ!」
「うわ、虎も爆発した」
「虎鉄くん……」
「そうよ、これじゃあまるで厄介祓いのために取り敢えず上級冒険者に仕立てあげただけじゃない……」
「いや、『まるで』じゃなくてその通りなんだ。俺達は厄介祓いを受けた。その口実に昇格を得ただけだ。ほんと、嬉しくねえ」
なんやかんや言いつつ酒を飲んで心に溜まった鬱憤晴らしをする二人とちょこちょこ口を挟む。そしてようやく李紗も酒を口にする。
リィリスがいて、且ついつもパーティを支える役目を担っている二人が暴走気味だったため我慢していたが、少し空気が緩んだと感じた途端気づけば酒を手にしていた。
もはや流石だった。
そして
「……皆、明日の事を考えようよ。私達がレオナルドさんやギルドの皆にどう思われるかなんて、今考えても仕方がないよ。とにかく、無事に遠征を終わらせる。そして『終わりました!』ってギルドに帰る。話はそれからだよ。悩むんだったらその時に思いっきり悩めばいいんだよ」
酔った勢いからそんなことを言い始める李紗。酔って顔は真っ赤なのに言っていることは真剣。ギャップが酷かった。
「李紗さん……」
そしてそんな彼女を見てリィリスは目をキラキラさせていた。
「それにほら。これから行く魔獣の巣、その近くに召喚獣が眠るって言われてる遺跡があったでしょ?そこに行って、召喚石をゲットしたら虎鉄くんもリィリスちゃんも新しい召喚獣使えるようになるじゃん。召喚獣の眠る場所には手に入りにくい鉱石とかたくさんあるって言うし!竜矢だって、新しい魔法たくさん試して強くならなきゃだし、槍の使い方も覚えなきゃでしょ?」
それぞれにとっての利点を並べることで『前向き』にという考えを促そうと試みる李紗。
「だからね……?」
「そうだな。李紗の言う通りだ。今は遠征に集中しようぜ」
「流石李紗さんです……!」
竜矢は李紗の話に同意。リィリスはキラキラと眩しい顔で李紗を見つめる。
そして残り二人は……。
「「……はあ」」
重たい溜め息を吐いたあと、顔を上げた。
「確かに、その通りね。…………冷静になれていなかった自分が恥ずかしい」
「だな。そして再確認した。やっぱ俺、李紗のこと大好きだわ」
「……えっ!?と、突然そんな恥ずかしいよ……」
「いや、思った事を伝えたくて……」
「……私も大好きです」
「……おう。挫けている俺達を立ち直らせてくれてありがとな」
「……うん。皆の役に立てて良かった」
唐突な虎鉄の告白から二人の世界に入っていく虎鉄と李紗。
「挫けている自分を励まし立たせてくれた、そんな虎鉄に惚れた李紗が、今や逆に虎鉄の事を励まして彼の口から『大好きだ』なんて言わせるようになっているなんて」
「見た目的には『李紗が虎鉄に……』なのはあの時と一緒だからあまり違和感ないけどな」
「……羨ましいです」
そして二人に呆れ目をしながらそれぞれに勝手な事を呟く三人だった。
「……なんでそんな光景覚えていないのよ……」
とは翌朝目覚めた後、竜矢からその時の出来事を聞いた怜奈の一言だった。
そんなこんなでリンドブルムから発った五人は魔獣の巣を目指す。
そして五日程……。
「うげ、モルボルか……」
「……キモい」
相対したのは数え切れないほどの触手をうねうねと揺らす目無しの魔獣、モルボルだった。
その見た目に竜矢と怜奈が嫌悪感を示す。そしてそんな二人を後目に虎鉄は分析をして対策を立てる。
「毒耐性ないメンツ多いから注意して攻撃を……」
「やあああ!」
虎鉄の忠告を遮って李紗が剣を振るった。
ダメージを与えはするものの流石に殺すとまではいかなかった李紗。
「李紗さんカッコいい!」
「あっちゃー、殺せなかったや……」
「…………。やってくれやがったな。このポンコツ騎士……」
流石の彼氏も頭に青い筋を走らせました。
攻撃を受けて体力を削られたモルボルはもくもくと黒い何かを吐き出し始めます。
「ほら、追い込まれて焦ったのか口から何か吐き出してんじゃねえか」
「うーん、あれは毒霧かな?」
「『毒霧かな?』じゃねえよ……!こうなると思ったから注意を促してたんだ……」
「ほら、言い合いしてないで。早く何とかしないとでしょ!あと、李紗は後でお説教」
「そんなー!って、うっ……何か気持ち悪くなってきた……」
「……この状況で、しかも一番に毒を貰うとか。李紗……」
「あわわ、李紗さんしっかりしてください!《ポイゾナ》!」
「「自業自得」」
「うぅ…………ぐすっ」
「李紗、ドンマイだ」
「じゃあ、やっちゃいましょうか」
そう言った怜奈は換装する。
李紗の装備と似たような軽装になった怜奈。手には聖剣 《エクスカリバー》。
そして高々に剣を掲げ魔力を込めて数秒。そのままモルボル向けて振り下ろした。
毒を吐いていたモルボルはその光をモロに受け、消滅した。
「お、流石は元コスプレイヤーだな」
「本当、まるで本当にアルト○アがいるかのようだったよ。彼の王が所持していた伝説の聖剣は素晴らしいね」
怜奈の武器の大半は竜矢の趣味の影響を受けている。よってこの《エクスカリバー》も某戦争モノの騎士王が所持している聖剣の模造武器だった。その上、コスプレイヤーだった彼女はキャラのポージングから動作まで全て身につけていた。流石に聖剣の名前を叫びながらというのはないが、技を放つ際の動作は全て模倣したものである、とだけ。
他の模造武器もあるが、それらはただの武器なので空間を切断したり、火を纏わせて黄金劇場に誘ったり、旗を奮ってパーティを援護したり、などは出来ない。
エクスカリバーのみ想像通りに扱えるのは怜奈に宿る召喚獣 《ギルガメッシュ》の力に起因する。
ドヤ顔の怜奈とそんな彼女を褒める二人。
昨晩酔っ払った勢いとはいえ、カッコいい事を言っていた李紗はリィリスに解毒されていた涙を流していた。
「闇雲に突っ込んじゃダメ。きちんと虎鉄の指示を聞いて動きなさい」
「……はい」
「いい?ああいう攻め方は一撃で殺れそうな相手に限定すること。そして、それ以外の場合でやるならきちんと相手の特徴を見極めてからにしなさい」
「……はい」
妹に説教をされる姉の姿がそこにあった。
リィリスに解毒され、しばらく眠っていた李紗。その間三人が魔獣を片付けていた。
そして虎鉄が李紗を背負い、四人と一人は近くの安全地帯で野宿をすることにした。
そして、目を覚ました途端にこれが始まったのだった。
「あ、あの……、や」
「『役に立てなくてごめんね……』でしょ。二年くらい前の李紗もね、そればっかり言ってたわ」
「……失敗ばっかりで?」
「そう、失敗ばかりで。本当に今の李紗はあの時と同じ。まあ、仕方はないんだけどね」
「そうはならないようにって、頑張ったんだけどな……」
「知ってる。でもね、やっぱり実際にやってみないと分からないことってあるから。アレクサンドリアでは人相手の訓練しかしてなかったんだし、いきなり魔獣の相手はそりゃあ難しいわよ」
「確かに。少し怯えちゃったもん」
「そうよね。気持ち悪かったし……。今にして思えば最初の雑魚敵ばかりの時にもっと慣れておけばよかったのかもしれない。そう出来なかったのは私と虎鉄のせいだわ。ごめんなさい……」
気が晴れず、その鬱憤消化のためリンドブルムにたどり着くまではほとんどを虎鉄と怜奈が倒してしまっているのだ。
そこで李紗が戦うということに慣れていれば今みたいなことにはならなかったかもしれない、と反省を口にする。
李紗は気持ちを汲んで何も言わない。
「モルボル相手に李紗の一撃は結構効いていた。トドメを刺したのは私の一撃だけど、あれはもう結構瀕死に近かったのよ。そしてだからこそあの毒霧を吐いたのかもしれないし」
「じゃあもう少し、何かがあれば倒せていたってこと?」
「そうね。まあでもこういう話が出来ている分、李紗の一撃で倒せなくて良かったのかもしれないと私は思うけどね」
「……はい、すみません」
『一撃で倒せていたかもしれない』と言われ少し有頂天になろうとした李紗。『調子に乗るな』と言わんばかりに怜奈に話を戻される。
「確認だから変に思い詰めて欲しくはないんだけど、魔法は使えないのよね」
「うん。リーさん、虎鉄くんとも何度も試したけどダメだった」
「そう。なら虎鉄に魔力を属性付与してもらうのは?」
「私の身体が拒否してるみたいで……」
「剣に施すのは?」
「剣に宿っている《アレクサンダー》が拒否してるみたい」
「そう、八方塞がりね。何かないかしら」
「ね。……どんな敵でも一撃で倒しちゃうようなそんな力があればいいのにね」
「召喚獣 《オーディン》。彼の持つ斬鉄剣の力ならそれは可能でしょうね」
「けど、私は召喚獣を扱えないから」
「そうね。もしそれが手に入ってもそれはリィリスか虎鉄の物だもの」
「「……はあ」」
李紗が思案して怜奈がそれに近い《オーディン》の名を出す。けれどそれが扱えないことは二人とも十分に理解している。
つい二人揃って溜息をつく。
李紗が『仕方がない』とばかりに諦め顔をする。
「……私、地道に頑張るよ。戦い方ももっと工夫する」
「うん。李紗がそう出来るように私もきちんとフォローするわ」
そう結論付いてお説教は終わった。
そして翌日。
怜奈に言われた『一撃で倒せそうな敵だけ』を守って比較的弱そうな魔獣ばかり相手取っていた李紗。
そして『相手の特徴を見極め』ながら戦う。
『この子の急所はここ……!』、『この子はこう……!』、『あの子は斬撃が効かなそうだから私がやると危険だね』、『この子は触れると麻痺しそう』
等々、戦えながら考えるようになっていた。
「……順応が早いわね」
とはフォローしようとそんな李紗の様子を見守っていた怜奈の一言だった。
そうしていよいよ。
巣に辿り着ました。
そこで待っていたのはなんと、銀色の体をした巨大な竜。
「やっとらしいやつが出てきた」
とは虎鉄の調子に乗った一言である。そして戦闘モードに移行する皆だったが……。
「うわっ……。なんで私の方に寄ってくるの!ちょっとちょっ……あっはははは……くすぐったいよ」
「……ちょっと、どうしたの。すごい懐かれてるじゃない」
彼らは魔獣ではなく今や伝説とされるこの世界特有のモンスター、神獣だった。
銀色をした竜は襲ってくるでもなく、李紗の元に寄っていく。それも最初の一体だけでなく他所からどんどん集まるのだ。そしてそのどれもが李紗に顔をすり寄せる。李紗の顔だったり身体だったりに。
「はい、よしよし」
何とか竜達を宥めて大人しくさせた李紗。大人しく……というか手なずけていた。
「この子、リィリスちゃんそっくり」
その中で最も幼く、李紗の腕の中に入ってきた竜を撫でながら呟いた李紗。
「わ、私はそんな、李紗さんの身体を弄ったりしません!……けど私も撫でて欲しいです……」
「リィリス、李紗が言ったのはそういうことじゃないと思うぞ」
「虎鉄だけじゃなくて神獣にまで嫉妬するのね」
「おい、あの竜を殺していいか。李紗の身体にあんな……。俺もしたことないのに……」
「虎、落ち着け」
「あんたまで嫉妬してどうすんのよ……っていうか生々しいからやめなさい」
銀竜に嫉妬(?)する二名とツッコミ役に回った二人。
そしてそんなやり取りに気づかず銀竜と戯れる李紗。
そして銀竜二体と虎鉄+リィリスは李紗を取り合って戦っていた。もはや人と獣の殺し合いではなく喧嘩に近かった。
銀竜の態度から、鳴き声からその意味を理解出来るらしい李紗は逐一翻訳した。
「これって《バハムート》と同化している李紗を同族だと誤認して寄ってきたってことよね」
「だろうな。李紗の方も当たり前のように竜達と意思疎通をして、翻訳まで担っているようになってるし」
「そうみたいね」
「あんまり哀しまないんだな」
「李紗は李紗だからね。例え見た目が竜になってしまったとしてもあの子は私の姉だもの。そしてそれはあの子も分かってくれてるはず」
まるで娘の不遇を見守る親子だった。
それから約四日間をそこで過ごす。
気づけば銀竜達と虎鉄達もすっかり仲良くなっていた。
「はい皆、ご飯だよ〜っ」
と雑魚魔獣から得た肉を皿に分けて銀竜達に配る李紗。その様子は母親、もしくは飼い主だった。
そして、
「私にもください!」
もう一人、娘もしくはペットみたいなのがいた。
召喚士ということもあってから、謎にリィリスも銀竜達と波長が合っていた。
リィリスが仲良くなり、自ら『ルナ』と名付けた仔銀竜。
李紗が皿に乗せてくれたご飯を食べつつルナに食べさせてあげている。そして夜になると共に眠ることだってしていた。
そんな一人と一体を見て『なるほど、李紗が言っていたのはこういう事だったのか』と納得してみせた三人。
確かにリィリスに似ていて、リィリスとルナは姉妹のように見える。
そして李紗もおそらくこの中でも母竜という感じの竜に『輝夜』と名付けて仲良くなっていた。李紗は彼女の羽に包まれて眠っていた。
「どうしてそう『月』を連想させる名前ばかりなの」
とは怜奈の漏らした疑問だった。
李紗が銀色から月を連想するのは分かる。けれど、月を知らないはずのリィリスが仔竜に『ルナ』と名付けたのは偶然だろうか。
『きっとルナアークさんの名前から取ったのね』と結論付けたのだった。
最初、李紗に群がっていた竜達と仲良くなっていく三人。
それぞれに一体ずつの愛竜を見つけ可愛がっていた。
虎鉄は白銀の鱗を見て『雪華』と名付け、竜矢は羽根の温もりを感じた際に『羽』と名づける。
皆が名前をつけ終わってから慌てて考え始めた怜奈。愛竜へ咄嗟に付けた名前は『琥珀』だった。
気づけば更に二週間が経っていた。
「つい寛いでしまっていたけど、いつまでここに居るの」
ついつい住みやすくなってしまった巣。
怜奈と竜矢で協力して作った家具が置かれている。食用テーブルや椅子。そして簡易風呂まで……。
もはやそこは家だった。
目が覚めて『私達は何をしているんだ』とハッとした怜奈が四人に尋ねたのだった。
「……あ」
「確かに……」
「私はまだしばらく居てもいいかなって……ああもう輝夜ったら……寝起き早々くすぐったいよ」
「ルナ、起きてくださいよ。朝ですよ」
内男子二人は絶句。内女子二人は未だに竜とじゃれている。
「……なら二人だけここに残る?」
「えー、それは酷いよ」
「置いていくなんて、そんなこと言わないでください……」
「……ああ言えばこう言う。じゃあどうしたいか言ってみなさいよ」
二人の態度に少しキレみの怜奈。
リィリスは『ひっ……』と怯えてルナの後ろに隠れた。
「『どうする』って、巣を何とかしたあとは遺跡に行くってって話になったじゃん?実際ここは竜達の楽園な訳だし、ラスボス討伐もなし。なら次は遺跡に……」
「そんな事は分かっているわ。私は『いつまでここにいる気か』を聞いているのよ」
「……もう少しだけ。今この子達外に出れないからこそこうしてここで私達と一緒に居るの。だから少し外の気候が落ち着くまではここに居てあげたい」
「…………分かったわ。李紗が言うならそうなんでしょう。竜の肌に合わない気候の下にあなたを出すわけにはいかないしね」
「私は平気なんだけど……。まあ、ありがとう」
「じゃあ、せめて詳しい日取りを決めましょう。そして遺跡への行き方も」
「あ。日取りはあれだけど、行き方に関しては輝夜達にその祠まで連れて行ってもらえばいいと思う。この子も協力するって言ってくれてる」
「琥珀もそう言ってる?」
「うん。『お嬢の頼みなら何処へでも』って」
「そう。通訳ありがとう」
そうして外の気候が安定するのを待ち、巣を出発出来るようになったのは一ヶ月後だった。
時系列を整えるためと今後の展開の進め方を考えて改稿しました。




