『自分らしさ』と『職業探し』。
唯一記憶の残っていた【李紗】は【竜矢】と【怜奈】に『貴方はこんな人間でした』をそれぞれに伝える。途中、【竜矢】に怜奈の情報を伝えていたり、逆に【怜奈】に竜矢の事を話していたりと、二人が正常なままだったら大変なことになっていたであろう事態も起きていた。
そして残念ながらまだ知り合ったばかりだという事もあり、【虎鉄】には何も伝えることは出来なかった。まず名前を教え、睨めっこの要領で『これが貴方の顔ですよ』と教えておいた。
早く元の体に戻りたい……。
何で私だけ無事なんだろう。
どうしてこんな場所にいるのだろう。
溜め息を吐きつつ取り敢えずこれからの指針を決めることにする。流石は好青年の【竜矢】。『まずは何処へ向かうかだよね。次に〜 ……』とさり気無く話を円滑に進めるため流れを考えてくれる。【怜奈】は『自分の出来ることをやろう』と秘書に立候補。即採用だ。そして【比嘉君】は時に支離滅裂になりそうになる話を上手くまとめて上げてくれた。少し意外だった。
私はそんな皆に負けないように、と時々口を挟みつつ邪魔をしてしまっていたのだった。ごめんなさい。
大人しくお茶汲み係になった私はお茶を汲みに給湯室へ向かう。そこで伸びをする。が、しかしやはり上手く体を動かすことが出来ない。未だ違和感を捨てきれないのだ、
いつもより少し軽いような、けれど重くも感じる。何を思ったか、一度辺りを見渡して誰も見てないことを確認すると腕で力いっぱいこの身体を抱き締めてみた。
思ったよりも硬かった。いや、語弊、語弊だ。
実はあの日、知り合った後から比嘉君を少し気にして見ていた。せっかくクラスメイトだし。竜矢の友達というか親友(?)らしいし、ほんっとに他意はないから。
授業中は寝てる事が多いし、身体的にも他の男子生徒と比べれば貧相に見える。多分、身近に竜矢という男性が居た私だからこそ、より一層そう見えてしまうのかもしれない。
彼の第一印象は『頼りなさそう』の一言だった。
けれどこんな状況に陥って、しかも私のせいで自分のことを何も知れていない彼は自身を見失うでも、挫けるでもましてやへこたれる訳でも無く、私達のこれからを考えてくれる。
強いな、と思った。
私なんてどうしたらいいか分からなくて愛想笑いしか出来ないのにな。
だからかも知れない。私は無性に何かに頼りたくて、でも頼れなくて。こうして彼の体に頼って、蹲っていたいのかもしれない。
本当に情けないなあ。
少し悔し涙も出てきちゃった。
皆も心配するし、そろそろ、戻らなきゃ、いけないんだけどなあ。
おかしいなあ。体が動かないや。
ああ、涙止まらなくなっちゃった。
--------------------
私は幼い頃から気が弱かった。
臆病で泣き虫で怖がり。その分怜奈が逞しくなってくれた。
怜奈はいじめっ子から私を守ってくれる。怖いものは退けてくれる。私がわがままを言えば引き受けてくれた。
そうして、幼い私は怜奈に甘えることを覚えてしまった。
私が九歳の正月のこと。珍しく親戚一同が我が家にやって来た。祖母、叔母、従姉妹達。
彼女らは私のことを『怜奈ちゃん』と呼んだ。
そして怜奈のことを『李紗ちゃん』と呼んだ。
とても怖くなった。自分が『李紗』なのか『怜奈』なのか戸惑いを感じてしまった。自分が誰なのか分からなくなった。
怜奈は必死で『私が怜奈です!』と弁明してくれたけれど、妹にそれを言わせていることこそが誤解の原因なのだと。当時の私は気づきもしなかった。
それからも度々同じようなことがあった。
その度に私は自身を喪失してしまいそうになり、また怜奈に慰められていたのだ。
母は私に『あんたが姉なんだからもう少ししっかりして欲しい』と告げた。『あんたがしっかりしないと怜奈が可哀想だ』と。
私はヤケクソ気味にその言葉を聞き、何に対しても我慢をしようと決めた。
怖くても我慢。痛くても我慢。虐められても我慢。わがままも我慢。したいことも我慢。
言われた事は反抗せずに何でも聞き、頼まれたことは何でもする。嫌な事があっても辛い事があっても笑って乗り切る。冤罪を吹っかけられても罪を被り、犯人探しが行われると自ら名乗っていく。
ヤケクソ気味で始めたそれは、確かに怜奈を楽にはしたかも知れない。
けれど李紗の中の何かを破壊していた。
中学生になった李紗は昔の弱さは何処へやらと言った風に何にでも取り組む、傍から見たら真面目な女子中学生だった。
授業は真面目に取り組むし、生徒会活動にも率先して参加。部活動も掛け持ち。所属部以外でも頼まれれば断らず練習に参加し、おまけに夜寝ずに予習復習を行うとそのまま朝には新聞配達のバイトもしていた。
明らかなオーバワークだった。
学校生活では当然、嫌がらせにもいじめにも遭った。痛くても辛くてもそれでも笑顔で乗り切る一方、そんな態度が彼ら彼女らを煽ってしまいエスカレートしていた。
結局それは一年生の二学期から三年生の一学期まで続いた。
中三の冬。今まで学年一位をキープし続けてきた彼女は国立の高校を目指していた。
模試では余裕でA判定を手に入れ、後は受験日を待つだけだった。
明日の受験に備えて、っと寝ずに復習を繰り返していた時のことだ。意識が朦朧とし始め、何も考えられなくなって、そのまま倒れた。その時に頭を打ったらしく、中々意識は戻らなかった。
目を覚ましたのは一週間後。国立高校の入試は受けられず。しかも脳への負荷から体を動かすことが難しくなった。
過労、貧血、脳出血。過労に関しては診療医から『こんな生活を何年もしてきて今まで生きてきたのが不思議なくらいだ』と言われた。
『あ、でも時折、気絶するように寝ている事はあったので全く寝てない訳ではなかったんですよ』と、そう伝えた所怒鳴るような声で叱られてしまった。
気絶する所まで意識を保つ事は脳に大きな負荷が懸かるのだ。
怒られて当然だった。
病院のベッドの上で横になっていると、母がお見舞いにやって来た。
そして何度も何度も謝るのだ。
『ごめんね、李紗。私があんな事を言ってしまったから貴方がこんな風に育ったのね』、『私が怜奈ばかりでなく、もっと李紗の事も見てあげなきゃいけなかった』、『いじめられていた事にすら気づいてあげられなくて本当にごめんなさい』と何度も何度も。
手術中に身体に残る傷跡を見たらしい母はそこで初めていじめのことを知ったらしい。
私は必死で謝罪を止めた。
『なんでお母さんが謝るの』、『私は私の為にしていただけだからお母さんは悪くないよ』、『虐められていたのは私に原因があるんだから』と。
お互いに自分に非があるのだと口論して行くうち、喧嘩に発展した。それも自分の身を擲つ形の。
母はヤケになり『首を切って自殺してやる!』と言い出すし、私も『頭を壁に打ち付けて死んでやる!』と互いを脅迫し合ってそれを互いが実行しようとした直前。
「二人ともばっかじゃないの!!!そんなに死にたいなら死んじゃえ!!!ばーかばーか!!!」
怜奈だった。
看護師から「お母さんとお姉さんが……」と連絡を受けたらしく慌てて駆け付けてみればお互いに『死んでやる!』と叫びながら口論していたのだ。
「「怜奈……」」
「私はそんなお母さんを見たくてお姉ちゃん離れしたんじゃない!そんなお姉ちゃんを見たくて色んなことを我慢してきたんじゃない!」
病室の扉の前に立ち尽くしたまま、叫ぶ叫ぶ。
「私はお母さんがお姉ちゃんの為だって言うから何もしなかった。お姉ちゃんが無理してるって分かってても、虐められてることに気がついても何もしなかった。それがお姉ちゃんのためだって言葉を信じたから。なのに何!?『もっと李紗の事を見てあげなきゃいけなかった』って、『虐められていた事にすら気づいてあげられなくて』って!そんな、守ってあげられない悔しさを我慢して我慢して過ごしてきた私の苦労はなんだったのよ……」
母が私にしてくれていたことは同じように姉にもしてくれているものだと思った。そうでないと知っていたなら自分から姉に分けることだってした。
母は姉がいじめを受けていることを知った上で私に『姉のため』と言い聞かせてきたのだと思っていたのだ。そうでないと知っていたならばどんな思いをしようと姉を庇っただろう。私が次の標的になってしまうとしても、だ。
「お姉ちゃんもだよ。私本当は知ってるんだから。欲しい物があって、でもお母さんに頼ることも出来なくて。我慢出来なくなってお店の物に手を出しちゃった事あるんでしょ?何でそこまで我慢するの?どうして私にでも一言『代わりに買ってくれないかな』って言ってくれないの?私、お姉ちゃんの為なら幾らでも出すのに……!」
バイトをしている事を知っていたから、もし我慢の限界が来ても、お金には困らないだろうな。そう思っていたのに。姉はバイトで稼いだお金を全てこっそり母の口座に振り込んでいたのだ。結果、自分の我慢の限界が来た時にお金が無いからと手を出してしまった。きちんと私が立て替えました。
こっそり母の口座に振り込んでいた事を知っていたらっていたらお姉ちゃんが我慢出来なくなる前に色々出来た。欲しいんならお金だって分けた。
私にだって二人の仲を取り持つことは出来たはずなのに二人とも私を頼ってくれたことなんて一度もなかった。
挙句、自殺だなんだと騒ぎ立てる二人。
「ねえ、二人にとって私ってなんなのかな。私ってそんなに、頼りないかな」
零れた怜奈の本音だった。
ずっと頼って欲しかった。
幼い頃から自分を頼りにしてくれていた姉は何でも自分でやろうとするし、母は母で幼い頃の私達姉妹を省みて私に手出しをさせてくれなかった。姉の教育は私がやると言わんばかりに私と姉を引き離した。
私は寂しかった。
けれど、もしかしたら私も、母を頼らない子だったのかもしれない。
姉の我慢のこと、いじめのこと。万引きのこと。過労のこと。
私から母に相談していれば少しは変わっていたかもしれないのに。
そう思うと自然と涙が出てきた。
「ごめんなさい……。お母さん、お姉ちゃん」
気がついた時には母がそばに居て、母に手を引かれて共にベッドまで行く。
姉も一緒になって三人で抱き合ってわんわん泣いた。
それはもう数時間、十数時間。
途中で疲れて川の字で寝ていた母娘。
看護師さんも何か思うところがあったのか、その日は見逃してくれた。
そして翌日、母娘三人で土下座で謝りました。
状態も回復し、退院後、何とか私立高校の受験を受けることが出来、楽々合格した李紗。
記念に、と三人で写真を撮りました。
皆とてもいい笑顔でした。
私立高校に合格して以降、李紗は家で勉強をしなくなりました。
適度な息抜きでさえ忘れてしまう過労癖へのリハビリです。
以前の幼い頃のように自分を偽らない自分に戻ろう。母にも妹にも沢山甘えよう。もちろん、甘えてばかりも駄目だし、まず泣き虫は卒業しなきゃだけどね。
もう泣かなくても良いくらいに強くなりたいな。
そして私達、お互いにお互いを助け合える母娘、家族になれたらいいな----。
--------------------
数日前、中々目を覚まさない皆を見て大泣きして。一番に目を覚ました怜奈に心配掛けて、慰められちゃって。
どうしても昔を思い出してしまうんだ。もう泣かないって、強くなろうって決めたんだけどなあ。
涙が止まらない。けれどこんな姿を皆に見られたくなくて、隠れてひっくひっく泣いている弱くて情けない私。
そんな私を誰かが背後から抱きしめてくれた。
その誰かは丹下李紗の容姿をしていた。
それはつまり私の本当の身体で、つまり、それを行っているのは【比嘉君】のはずだ。
けれど彼が私に対してそうしてくれる理由が分からない。
自分の身体だから?汚して欲しくないとか?じゃないとしたら何が……?
それにそもそも彼氏は記憶が無いはずで。私の事を気に掛ける理由なんて何も無いはず……。
どうしてだろう。
泣きながら必死で考えるも、自問自答を繰り返すばかりだった。
「大丈夫。君の妹さんはまだ向こうで相馬って奴と話してる。あいつら、自分達が恋人だったって聞かされて凄く驚いてたみたいでさ。さっきからずっとその話で盛り上がってるよ。俺が離れた事にも気づいてない風だったしね」
「……ん。ありがとう」
とても助かる。そう思った。
記憶が有ろうが無かろうが、こんな姿は見せたくなかったから。
「俺、意識が戻るまでの間、ずっと夢を見てたんだ。長い長い夢で、それは俺が知らないはずの少女の夢だった。長い間耐えて耐えて頑張り続けて。なのに報われないことばかりで希望も持てず、壁にぶち当たっては心を黒く染めるんだ。何度も何度も。少女はそれでも暗い表情一つ見せず、我慢してきた。今だってずっとずっとな。一度は救われる事があったかも知れない。けれどそれで今まで染めてきたものが真っ白になる訳はないし、立ち直れるはずがない」
彼が独り言のように語り始めたそれはまるで、というか過去の私だった。多分それのことに気づいたから。そして『私』を知った上で声を掛けてくれているんだ。
励ましてくれているんだ。
「誰だってそうだ。嫌いな物は嫌いで良い。怖い物から逃げてもいい。寂しくなったら誰かに甘えればいい。妹も言ってたんだ。『もっと頼って』って。そうだろ?だからさ、もう強い自分を繕わなくたっていい。ありのままで居ればいいんだ」
妹が忘れているだろう言葉を、私が今一番聞きたかった言葉を彼がくれた。
何も知らなかった、昨日まで赤の他人だった彼が。
「自分だけ全部憶えてて、一番まともだから。だから自分が何とかしないといけない。そんな風に思わなくていいんだよ。思う必要は無いんだ。確かに記憶は無いし、頭はこんがらがっているし、身体はこんなで違和感しかないしって状況だ。でも考えてみてくれ。記憶の有無以前に知らない土地に連れてこられたのは皆一緒なんだ。当然君も。だからさ……」
歯切れの悪い最後から一拍置き、私に手を差し伸べながら。
「訳の分からない状況に巻き込まれたのは皆同じ。つまりは皆仲間なんだ。皆で助け合っていこう」
彼はそう告げた。
私は彼の手を取った。そのまま腕を引っ張られよろめきながらも立つ事が出来た。
彼に優しく手を引かれながらゆっくりと歩く。
涙はまだ止まない。
支えてもらえないと立つことも歩くことも出来ない。
やっぱり情けないなあ、と思う。
けれど『助け合おう』と言ってくれたから。『もう無理して繕わなくていい』って言ってくれたから。
『ありのままで居ればいい』って言ってくれたから。
素の自分で向き合っていこう。
私のありのままで。
【虎鉄】に手を引かれながら弱々しい姿で戻ってきた【李紗】。
それまでわーわーと騒いでいた【怜奈】と【竜矢】の二人は途端、申し訳なさそうな顔で駆け寄ってきた。
【虎鉄】が言ってた『背負わなくてもいい』というのは二人も思っていたことなのかもしれない。
気遣わしげな顔で私の顔を覗く【怜奈】。
私は嬉しかった。【怜奈】が記憶を失ってさえも私を気に掛けてくれることが。こんな状況でも優しい『妹』でいてくれることが。
自然と笑顔になり、私を見詰める彼女に「大丈夫だから」と声を掛ける。
そして、「ふぅ……、すぅ……」と思いっきり吸い込み。
「なんでこんな所に連れてこられたの!私達普通に学校生活送ってただけだよね!?」
「なんで私だけ全部憶えてるの!皆と同じように連れてこられたはずなのに!?」
「なんで私の事忘れてんの!比嘉君は兎も角だよ、妹にも忘れられてるなんて凄くショックだよ!立ち直れないよ!龍也だって幼い頃からずっと知っている仲なのになんでなのよ!」
「なんで男女で身体が入れ替わってるの!どうせなら同性同士で入れ替わりなさいよ!違和感とか凄くて、これトイレに行きたくなたらどうするのよ……!」
不満を爆発させ、心に抱えているものを全て吐露する。
そして。
「ってやばい本当に行きたくなっちゃった」
口にしてしまったが最後、と言うやつだ。
突然生じた尿意に焦る【李紗】。けれど女性としてのプライドがこの身体でトイレに行き、用を足すことを拒否している。
「おい、【相馬】っ!目隠しになる様なものを持って来い。後は俺がなんとかするから」
「なんなら俺も手伝……」
「いい!一人で充分だ」
そう。【虎鉄】だって自分の体を他人に見られるのはごめんだったのだ。
【李紗】の放尿を【虎鉄】が必死で介助するというシュールな光景だった。
傍から見れば小便している男子のアレを女子が弄っているというアダルトな光景に見えなくもない。
だからこそ、【虎鉄】が指先でアレに触れた時、【李紗】が静かな喘ぎを漏らしていたことは二人だけの内緒だった。
【虎鉄】と【李紗】はぐったりだった。
ただトイレしただけのはずなのに。
こんな事が日に数回はあるのだと考えるとそれだけで気は滅入るというもの。
「はあ……。ほんと、なんで異性間での入れ替わりなのよ……」
もう流石に不満を吐露する気力も残っていないので、最後だと言わんばかりに弱々しく呟くのだった。
【李紗】が少しは落ち着きを取り戻し、一時間ぶりにこれからの事を相談し合う。
『まずはこの世界の事を知るところから始めよう』とは【竜矢】の意見だ。
『生きていくために必要なものを揃えたい。街で買い物しよう』とは【怜奈】の意見。
【比嘉君】は『生きる術を磨くべき』との意見。
全て必要な事だと思った私は『じゃあ全部やろうよ』と提案する。
異議はなかった。
私達はまずこの街の仕組みを知るところから始めた。
どのような人が住んでいるのか。どんな職業があるのか。ここで暮らしている人達はどんな生活をしているのか。
などなど。
ここはダリという小さな村らしい。
周囲を四つの高原に囲まれているこの村。私達はそれぞれの高原に一人ずつ倒れていたそうだ。
衛兵さん達が見つけて宿まで運んでくれたらしい。
『まず生きる為には金銭は必須』という話でまとまり、取り敢えず各々に合う仕事を探してみることとなった。
のだが。
一人は『素直になれない・愛想が無い等の理由からどこにも採って貰えず』
一人は『精神的な脆さが原因でどこに行っても続かず』
一人は『他の従業員達にオタクテンションを受け入れられず』
一人は『女性店員との浮気疑惑から冤罪を掛けられて一度兵士にお縄にされて以降どこにも雇ってもらえず』
そしてそれ以外の理由としては皆共通して『見た目男なのに言動が……』や『見た目女なのに仕草が……』といったものもあった。
「「「「はあ………………」」」」
重いため息でハモる四人。
お金は無い。雇ってくれる場所も無い。お金が無いからご飯は食べられない。買い物も当然出来ないため着替えも出来ない。
『健康で文化的な最低限度の生活』とはなんなのだろうか。
あ、ここ日本じゃないんでした。
というか異世界なのでした。
異世界で他世界のしかも小さな島国の法が適用されている訳もなく。
「「「「はあ〜~~~~…………」」」」
もはや何かを考える度にため息しか出てこない四人。
火を囲んで互いの曇った顔を見詰め合う。
十分はそうしていただろうかという時だった。
「なんじゃ、若いもんが集まって暗い顔しおって」
黒髭を生やした知らないお爺さんに声を掛けられた。
虚ろな目で迎える四人。
お爺さん、ちょっと引いていた。
私達は、お爺さんに相談した。金が必要な事。しかしその為の職探しが上手くいかぬこと。行き場も無い事など。
「君達、『冒険者』になってみらんか?」
お爺さん、レオナルド・ルーはそう言って勧誘してくれた。
レオナルドが提案してくれた『冒険者』とは、所謂ギルドに所属し、街や国、はたまた世界の為に戦う人達らしい。
約二名は不思議な既視感を覚えていた。
最初にそれぞれの職業を選択する。
『剣士・魔法使い・治療士・忍術士』の中から一つを選択出来る。ただし、最初に選んだ職業からの変更は出来ないのが難点。
剣士の中級職には『戦士・騎士』があり、そこから派生する戦士系上級職には『狂戦士・剣闘士』、騎士系上級職には『聖騎士・暗黒騎士』がある。
魔法使いの中級職には『魔術士・魔導士』があり、そこから派生する魔術士系上級職には『陰陽師・祓魔師』、魔導士系上級職には『召喚士・精霊術士』がある。
治療士の中級職には『治癒師・聖女』があり、そこから派生する治癒師系上級職は『医術師・診療師』、聖女系上級職は『神聖女・神使徒』がある。
※男性でも所属可。
忍術士の中級職には『狩人士・盗賊士』があり、そこから派生する狩人士系上級職は『狙撃手』、盗賊士系上級職は『暗殺者』だ。
将来を視野に入れて職業選択しなければならず、皆悩みに悩んだ。
「俺は聖騎士を目指す。だから剣士からスタートだな」
と言った【竜矢】以外。
何故か『イケメン=騎士』のイメージが強かった【虎鉄】はとても納得した様子だった。
そして俺も決まった……とそう手を挙げようとして考えたこと一つ。
もし、旅の途中でそれぞれが元の体に戻った場合。今自分達が決めた職業で生きて行けなくなる可能性が高い。
というかそうなるだろう。
【竜矢】が聖騎士を目指していたとしても旅途中で元の身体に戻ればそれは【怜奈】が選んだ別の職業適正しか着いてこないだろう。
聖騎士の怜奈か……。
と少し想像してみる【虎鉄】と【李紗】だった。
旅の途中で元に戻る前提で話を進めるならば、互いに相手が求めている職業を選択しておけば問題はないはずだ。
ただ、今のところ元に戻る保証などどこにも無く、その手を取るのは確実ではない。
うーん、どうするべきか。
そう悩んでいる時。
「私は【比嘉君】の望むようにするよ。私は元の体に戻ることを諦めてはいないから」
そんな【李紗】の言葉が三人の目を覚ました。
そうだ。戻れない可能性に頭を悩ませるなんて阿呆らしい。
何としてでも戻るんだ。
元の身体に。
「よし、じゃあ何も気にせずなりたい物を決めていこうか。【李紗】は何になりたい?」
「私は召喚士になりたいから、魔法使いかな。【比嘉君】は?」
「俺は祓魔師になりたいから同じく魔法使いだな」
「じゃあ中級職までは一緒だね」
【虎鉄】、【李紗】ペアは上手く話がまとまった。
もう一方は……。
「俺は聖騎士希望だから剣士からだが、それでもいいか?」
「嫌。剣なんて振るいたくない!」
「なっ!そんなさっきは……」
「じゃあ【竜矢君】、私神聖女になりたいんだけど、大丈夫?」
「えっ、絶対に駄目だ!俺は聖女なんて……」
「私だって剣を扱うなんて嫌だもん。おあいこだよ~」
最終的には妥協し合って、了承しあった。
それでも嫌なのか四つん這いになり、落ち込む【竜矢】。
「レオナルドさん、長くお待たせしました。ようやく決まりました。これをお願いします」
「ほい、確かに受け取った。来週から宜しくの」
「「「はい、宜しくお願いします!」」」
【虎鉄】と【李紗】は魔法使い。
【竜矢】は治療士。
【怜奈】は剣士。
旅が始まる。
続きです。
誤字脱字、誤植や文書力の無さは多めに見てくれると有難いです。
職業については今後変更するかもしれません。
剣士系職業と魔法使い系職業についてはこのままですが、治療士系と忍術士系職業は一考します。




