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『彼と彼女』と『事の始まり』。

気分で書き始めたものです。


しばらくは書き続けます。


誤字脱字や誤植、拙い文に関しては許してくださいとだけ。


よろしくお願いします。



#2023/03/27


改稿しました。

久々に小説書きました。


このまましばらくは続けていきたいと思います。

 


 比嘉(ひが)虎鉄(こてつ)はどこにでもいる普通の高校生だ。

一般的でないのは生まれつきの髪の色くらいでそれは日本人にはあるまじき薄紫色の髪だった。それはよく言えば類を見ない個性とも言えるが。


 しかし周りから見て浮くのが嫌だった虎鉄は高校入学を機にその稀有な色の髪を黒く染めたのだった。

それ以外には特に目立つ特徴も無く、顔は良くもなく悪くもない。身長は同年代男子達と比べて少し低いくらい、同年代女子達と比べて少し高いくらい。

学力も平凡で得意教科がある訳ではなくどれも辛うじて平均点を上回る程度。運動もそこそこ熟すが目立つ程でもない、と言った程度。


 兎にも角にも、何かに秀でていることも無いただただ平凡な男子高校生である。

まだ高校二年生だが、何でも平均的には熟せるが故にあまり努力をしない虎鉄はこれといった目標という目標を持ち合わせていない。


 そんな彼の口癖は『何か良い事起きないかな』だった。他力本願が染み付いた少年だった。




―――――――――――――――――――――――――




 とある朝の事だった。いつものように眠たい目を擦り寝癖った頭を撫でながら登校している最中。虎鉄は背後からいきなり肩を叩かれる。

慌てて振り返ってみるとそこには“イケメン”と形容しても遜色ない程の美青年が立っていた。


「いよっす、(とら)!またシケた面してんな!」


と話しかけてきた彼を一応、紹介する。

 彼は相馬(そうま)竜矢(たつや)。好青年・美顔(イケメン)・成績優秀・運動神経抜群と正に容姿端麗で文武両道。

虎鉄とは正反対と言っていいほどに全てが揃っている高校生だった。

こんな存在が有り得ていいのだろうか。

しかも何を隠そう、虎鉄は何故かそんな彼と高校入学時から友人関係を継続している、というか出来ているのだから尚更有り得ない。


これは余談だが、出会った当初『“虎鉄(こてつ)”って少し呼びにくいし“虎”って呼ぼ!』と竜也が勝手にあだ名を付け、虎鉄自身は呼ばれる事を嫌がり反発した。半分は照れていただけだったりもするが。

 まあそれも月日が経つ内に慣れたというか、文句を言った所で聞く耳を持たれないと諦めがついたというか。今はもうそのあだ名を受け入れている。




「はあ……。朝っぱらからその絡みはちょっとばかしウザイぞ、相馬」


 寝惚けた頭に煩く響くほどの竜也のテンションを挨拶がてらに(けな)してみる。だが邪険にはしているものの実は満更でもない。


「いやさ、もうちょい覇気って物を出そうぜ虎さんや」


「ほっとけ……。こっちは毎日がタルいんだよ」


「おいおいせっかくの高校生活だぞ。ほんと俺、虎のこと心配になるわ」


「だからほっとけよ……。つうか逆に相馬は何でそんななんだよ」


「それだよそれ!昨日のアニメ見たか?あのシリーズものの最新作!」


「いや、興味無いし」


 そう、この美形好青年。実はかなりのオタクなのだった。

 虎鉄が初めて竜也の自宅に招かれたのは高一の冬だった。クリスマスの日に家に独りな虎鉄を気遣ってか竜也は虎鉄を家に呼んだ。誘われるがまま彼の家にお邪魔して、そこでまさかあんなものがあるとは夢にも思っていなかった。


家の扉を開けてすぐに等身大のフィギュアがあった。

家の中はありとあらゆる作品のポスターで埋め尽くされていた。

彼の自室である部屋へと入ってみるとエロゲと言うらしい何かや漫画、小説等々が本棚にびっしりと収められていた。

そしてこれは本人から聞いた話だが、クローゼットにはコスプレイヤーの彼女さんが着る衣装セットが詰め込まれた一角があるらしい。


『イケメン野郎の癖に……』


 これはただの偏見でしかないが、虎鉄のその日の感想はそれに尽きてしまっていた。


 それを知ってからというもの、時折竜也からオタクコンテンツに関して話を振られて困っているのだが、一応は色々と話を聞いていたりする。少しでも話の内容を理解出来るようにと釣られてアニメを見ていたりもしている。



「ほんと、面白いからさ。虎も見てみろよ〜」


「いや、マジで興味無いから。異世界チートハーレム物とか」


「“興味無い”とか言いつつジャンルをきちんと把握している辺り流石は虎って感じだな」


「流石ってなんだよ……。一話だけ見たんだよ。面白くなかったけど」


「そう言いつつ虎はいつも最後まで見てちゃんと感想くれるからなあ」


「まあ……、せっかく勧めてくれてるんだし見るには見るけど」


どこまでも素直でない虎鉄であった。


 竜也から見た虎鉄の印象は『受け答え云々は兎も角として根は良い奴。何に関しても一度は必ず否定はするものの最後にはきちんと飲み込んで受け入れてくれる』といったものだった。

竜也はそんな虎鉄だからこそ気兼ねなくオタ趣味を暴露したし、こうして話したりしているのだが、当の虎鉄は話しかけられる度『こいつは何故俺に話しかけてくれるのだろうか』という疑問を持つのだ。竜也としては遺憾でしかないが、下心無く接してくれている事が分かるから安心して接していられる。


普段からチヤホヤされがちな竜也はあまり人に自分のことは話していない。話し掛けてくる彼ら彼女らにとっては見た目が全てという場合が多く、内面まで見ようとはしない人が多いからだった。そしてそんな相手に内面を晒すような真似はしていないししたくないと思っていたりする。



 ややあって結局アニメトークで盛り上がりつつ登校した二人。と、そこで。


「たっく〜〜〜〜〜ん!おっはよ〜〜〜〜〜!」


と二人は校門からでも聞こえるレベルの大声で校舎から挨拶をしてくる女子を発見する。

言わずもがな、『たっくん』とは竜也のことである。


「お〜〜〜〜〜、怜奈〜〜〜〜〜!おはよ〜〜〜〜〜!」


 (くだん)の竜也の彼女さんだ。

丹下(たんげ)怜奈(れいな)。一つ歳下の高校一年生だ。

幼馴染みの二人は中学時代から交際している。彼女は成績こそ平凡であっても、容姿はそれなりで普通に可愛い部類に入る活発系美少女だった。

この彼氏にしてこの彼女あり。という感じで二人はウチの学校内で美男美女カップルとして有名にもなっていたりする。


 このバカップルが大声で挨拶し合っているせいで自分まで登校中の生徒達に見られている気がして虎鉄は気まずさを覚えてしまった。


「……じゃあ先行っとくぞ」


虎鉄は竜也にそう一言だけ残し周りの目を気にしつつコソコソと校舎に入った。竜也はそんな彼の背中に少し申し訳なさそうに謝罪のポーズを取っていた。


 緊張しながら下駄箱へ辿り着いた虎鉄は気づく。隠れるように外を眺めながら『あの馬鹿妹……』と呟くクラスメイトである女子生徒の姿に。

普段なら何もせずそのまま教室に向かうはずなのだが、先の恥ずかしさからか少し頭に血が昇ってしまっていた虎鉄は彼女の傍へと近づき声を掛けた。


「なあ、おい。聞きたい事があるんだけど」


「は、はい。なんでしょう」


「あのバカみたいに大声で叫んでた相馬の彼女ってお前の妹なのか?」


「そ、そうですけど……?」


 虎鉄のやらかし一。

つい喧嘩腰で話しかけてしまったこと。そしてだからだろうか。クラスメイトなのに敬語で返されてしまっていた。

だが虎鉄の暴挙はまだ止まらない。


「お前の妹のせいで、酷い目にあっただろうが!もうちょっとで恥ずか死ぬところだったぞ……!」


「“恥ずか死ぬ”って……?」


「死ぬほど恥ずかしかったって事だよ!」


「す、すみません、すみません……!」


「あー、本当に今日は厄日だ……」


「あの、えーっと。もしかして今日竜也と一緒に登校されていた方ですか?」


「……そうだよ!」


 虎鉄のやらかし二。

つい怒鳴ってしまったこと。そして気まずさから辺りを見渡して気づいた。虎鉄自身も下駄箱で結構な注目を浴びていたらしいことに。


「……すみません。幼馴染みと妹がほんと……」


 そしてやらかし三。

ある意味無関係な人に頭を下げさせてしまったこと。

喧嘩腰で怒鳴りつけ、挙げ句の果てに相手に頭を下げさせているなんて、それは傍から見れば恫喝でもしたかのような光景で。

虎鉄はそれを自覚した途端、自然と頭が冴え冷静になってしまった。


「あー、っていうかあれだな。姉のあんたに怒鳴っても仕方ないことだった。悪かった、ほんとにすまん!」


「いえ、こちらが……。というか妹が貴方にいらぬ迷惑を掛けてしまったのは事実ですので!」



虎鉄が頭を下げ謝るも彼女は頭を上げる様子は無く、更に深々と頭を下げ謝罪を告げた。


そこには“下駄箱のど真ん中でお互いに頭を下げ合っている男女”というなんとも異質な姿があった。互いに『相手が頭を上げるの待ってから上げよう』という思惑で中々頭が上がらない二人。

そんな光景を横目に下駄箱を通る生徒達は不思議そうに、或いは小馬鹿にしたような表情で通っていた。


 結局予鈴がなるまでそうしていた二人は予鈴が鳴った途端、同時に顔を上げた。二人で互いの顔を見合い、何がおかしいのか分からぬまま思わずと言った様子で笑い合った。

 いつから居たのか、竜也と上の階から降りてきた怜奈は笑い合う二人を微笑ましい表情で眺めていた。


 虎鉄と件の彼女・丹下(たんげ)李紗(りさ)は何を話すでもなく小走りで同じ目的地へ向かう。何故かって、それは当然クラスメイトだから。

李紗は虎鉄がクラスメイトだったことを知らなかったらしく、いつまで経っても「じゃあ!」と手を振る機会が来ないことに違和感を覚えていたらしい。

自分の後ろから同じ教室に入ってきた虎鉄に驚いていた。


 さて、珍しく朝からイベント続きだった今日も学校での過程が始まってしまえばいつもと変わらない日常となった。

そして学校が終われば一人で帰宅し、夕飯を食べ、風呂に入り、寝ながら勧められたアニメを見て……。それで一日を終える。そしてそんな日々を繰り返す。


 そこから月日が巡り、ある日の午後のことだった。


昼食後の眠気を我慢しつつ授業を受けていた虎鉄は限界を迎えて途中で眠ってしまった。世界史の授業が退屈だったのだ。

しかし数分後、突如違和感に襲われた虎鉄はすぐに目を覚ました。突然の事過ぎてまだ寝惚けているのか、ともそう思ってしまった。

勢い良く椅子から立ち上がり、辺りを見渡す。

まるで教室内の全てが止まってしまったように動かなくなっていた。授業をしているはずの教師もそれを受けていたはずの生徒も、黒板の上に掛かっている時刻を刻むはずの時計も。


 明らかにおかしい。異常事態だ。

そんな事は辺りの光景を見ればすぐに分かるのに頭が、脳が処理し切れないその現実を受け入れまいと拒み続けていた。

もう何も考えたくない、考えられない。これはきっと夢なんだと現実逃避をしながら再び眠りに着こうとした虎鉄だったが、刹那何者かに頬を殴られ、椅子をなぎ倒しながら勢いよく転倒した。

頬の痛みを耐えつつ「痛たたた……なんだよ急に……」と悪態をつきながら身体を持ち上げる。

そこには泣きそうな顔をした……、というか涙で頬を濡らした李紗が居た。

虎鉄は不安に泣き続ける李紗を慰めながら立ち上がると今一度教室を見渡した。

このクラス内で動くことが出来ている人間は虎鉄と李紗の二人だけだった。


「二人も無事だったか!」


廊下を走ってきたらしい竜也と怜奈が来た。この状態になっていの一番に恋人と合流する二人は流石恋人という感じなのだろうが、今はそんな事を言ってる場合ではなかった。

どうなっているのだろう。この状態は一体なんなのだろうか。


『お願いします。成功してください』


唐突に頭の中に声が響いた。ふと隣を見つめるとこの事態に戸惑っていたはずの三人も何かに耳を傾けるように固まっていた。

もしかすると三人にも同じ声が聞こえているのかもしれない。


(わたくし)の全てを犠牲にしてでも守らなければならぬ物があるのです。だからどうかお願いします。――“来れ、異世界の者達よ”』


頭の中に響く謎の声に反応するかのように教室内が捻じ曲がった。否、虎鉄の視界が歪んでいた。


「えっ、なにこれ。嫌……怖い……」


全く同じ現象が起きていた李紗が恐怖に身体を震わせながら膝を着いた。


「大丈夫だからね。私がついてるからね」


怜奈が半狂乱の姉に寄り添い慰め、そんな二人を心配そうに竜也が傍で見詰めていた。


離れた所から支え合う三人を見ていた虎鉄はこんな状況にも関わらず溜め息を吐いて窓の外を眺めた。


「幼馴染みズと俺。俺だけハブみたいだよなあ……」


虎鉄は場違いにもそんな風に思い、一言を溢した。


まるでその一言を皮切りとするかのように目の前が真っ白になった。




―――――――――――――――――――――――――




 意識を失っていたのか。覚醒した時にまず目に入ったのは青く雲一つない空だった。

そしてそこには空を舞う鳥らしき何かが見えた気がした。


(あー、ファンタジー世界の竜とか、正にあんな感じだって相馬が言ってたなあ……)


呆然とそんなことを考える。

相馬が勧めてくれたアニメの中でああいう飛行生物が結構登場していた気がする。


(さて、そろそろ現実に向き合うとするか。一体ここはどこなんだ)


 確かついさっきまで俺は学校の教室で授業を受けていたはず。それで途中で眠ってしまって起きたら訳の分かんない事態になってたんだっけ……?

なのに俺、肌を寄せ合うあの三人を見て場違いな感傷に浸ってた気がする。

我ながら神経図太いな。


肌に触る感触や視界の端に映っている揺れる緑の色からなんとなくここは草原なのではないかと考える。いつの間にか無意識のうちに近くの河原か河川敷にでも来てしまったのだろうか。


せめて辺りを見渡せたらいいんだけど全身の感覚が失せてしまっているような感覚で、身体のどこを動かそうとしても重くて動かせない。せめて横を向ければと首だけでも動かそうとしたけどそれもダメみたいだ。


 教室の出来事といい、現在の状況といい訳が分からなすぎ

る。


一度気持ちを落ち着けるため目を閉じる。

が、しかし何も考えがまとまらないまま再び目を開いた。


分かったことは瞼だけは自由に動くことくらいだった。


(まあ、いいか……。何かを考えようにも脳を使う事すら既に面倒くさく感じるし。どうせ身体は動かないんだし)


挙げ句の果てにはそんな言い訳じみたことをつらつら並べて思考放棄をした。

そしてせっかくだからと日向ぼっこに徹する。


“天気が良い日に日向ぼっこをしないのは勿体ない”とは誰が言っていたんだったか。確か相馬に教えてもらったアニメのキャラの台詞だったはず。


そうして暫くの間日向ぼっこに興じていた俺だったが、瞼を閉じていても眩いくらいに差し込んできていた陽光を何かが遮ったことに気がつきゆっくりと瞼を開いた。


眼前には西洋風の甲冑を身につけた男が立っていた。


「そこの少女。何をしている」


(えっ、今この人俺の事“少女”って呼んだ……?)


「もしかして動けないのか?」


そう言って男は俺の腕を引っ張りながら上手く身体を動かしてくれた。

これ介護士だった義母がやっていた老人を起こすための起こし方と同じだ。

ふと、そんなことを思った。


そして身体を起こしてもらったことで初めて幾つかの違和感を覚えた。


一つは視界を覆うほどの前髪だった。


(あれ、俺の髪ってこんなに長かったっけ)


少なくとも目覚める前は毛先がほんの少し視界に入るくらいの長さしか無かったはずだ。視界を覆う長さってことは眼の下程まで長さがあるってことで……。

えっ、なんで?


「おい、何とか言ったらどうだ。おい、聞こえているのか?」


そしてもう一つ。胸元が重たい気がする。身体が重いのとは全く別種の重さ。まるでそこだけ重石が付いているような、そんな感覚。

どうにも気になって限界まで顎を引いてみて何とか視界を自分の胸元まで持っていく。


(えっ、なんだこれ……って。え……?

これってあれじゃないか。女性特有の“お”から始まるあれじゃないか……?)


「おーい、そろそろ応えてくれないか。おじさん悲しいぞ」


これあれか。もし身体が動かせていたら王道展開として自分の胸元を揉みしだくパターンだったやつでは……?


身体が起こされた事で自分のいる場所を視る事が出来た。


そこには何処までも続く草原が広がっていた。

建物一つ無く、木の一本も生えていない。

想像したような河原でも河川敷でもなく、ただただそこは草原のみ広がる緑の大地だった。


そして受け入れたくない単語が頭に浮かんできた。


相馬に勧められて見ていたアニメの中でも特に最近よく聞くようになり、創作のネタとして謎に話題沸騰中なジャンル。


(異世界転生……。もしくは異世界転移)


その単語を連想した途端、折角起こしてもらった身体が再び重さ耐えきれず倒れてしまった。


(どうしてこんな事になってしまったんだか……)




 つまり、結論として。


一つ。空を飛ぶ謎の飛行生物がいた。


二つ。明らかに知らない景色と広大な草原に倒れていた自分。


三つ。そして西洋甲冑を着た騎士っぽい男の存在。


この三つから自分の本来居た世界とは違う場所に居るだろう事。


そして最後に、自分の物とは色も長さも異なる髪と無駄に膨らんでいる胸部からおそらくは女性の誰かと入れ替わってしまっているだろうこと。


瞬間的に受け入れるには重すぎる事態についていけず頭がパンクしそうだった。


否、パンクした。






 現状から状況を推察した俺はその場で再び意識を失った。


――――――――――――――――――――――――




 衛兵の男は突然倒れた目の前の少女に声を掛け続けていた。


「おい、どうした、大丈夫か。一体なんなのだ。いきなり起きたと思えば私の問いかけに応えずにまた倒れるなど……」


「衛兵、何があった?」


「兵士長殿!この少女、数分前に目を覚ましたのは良いものの明らかに様子がおかしかったので何度か声を掛けて身体を起こしてあげたのですが、返答をせぬままにまた倒れてしまいまして……」


「応答されずに再び倒れられたことがそんなに悲しいか?衛兵よ」


「い、いえ!断じてそのような……」


「いいんだぞ。気持ちは汲んでやれるつもりだ」


「兵士長殿、それを笑いながら言われても……」


「まあ良いではないか。この少女だが取り敢えず街へ連れて行こうぞ。先程、同じような者が数人見つかったとの報告も受けているしな」


そうして少女は兵士長と衛兵の男二人によって街運ばれた。


同じ日に同じようにして街に運び込まれた四人は一週間もの間再び目を覚ますことは無かった。


一人目が目を覚ましたのがちょうど二日目の事だった。


後は九日目に二人目。十一日目に三人目。十三日目に四人目が目覚める。




 一番先に目を覚ました李紗は自分の見ている景色に違和感を覚えていた。何もかもが自分が知っている物とは違うからだ。ベッドも布団も枕も、それらが設置されている部屋の内装すらも。

辺りを見渡すついでに何故か目の前で眠り続ける自分の姿が視界に入った。慌ててベッドの傍に据え置かれた鏡を見てみると、そこには最近よく目が行くようになったクラスメイトの顔が映っていた。


「……待って。何で私比嘉君になっているの」


そして中々目覚めない三人を心配して、悶々と日を過ごしていた。

四人を気に掛けていた衛兵もそんな虎鉄(李紗)の様子をただただ見守る事しか出来なかった。

 




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