最終話 貴方にずっと、愛していますと
最終話です。長いですがよろしければ最後までお付き合いください。
ジョシュアがこの世界からいなくなってから、私は感情を失い淡々と日々を過ごした。兄が凄く私を心配してくれているのが分かるが、以前の私には戻れなかった。だってジョシュアのいなくなってしまった世界で生きるのは辛い。この世界で一生を終えて天上界に戻ってももうジョシュアには会えない。
辛い、苦しい。
毎日後悔してばかりだった。
幸いだったのは、修道院に入れること。
両親は私に幸せになってほしいと渋ったが、私が修道院に入りたいと強く願ったのと兄の説得により叶った。兄には本当に感謝している。
これで私は綺麗なまま…ジョシュアだけを想ったまま死んでゆける。
私は毎日神に祈ろう。ジョシュアの幸せを。
学院を無事卒業し、いよいよ修道院に入ることとなった日。
今日で慣れ親しんだ我が家とも、愛しい家族ともお別れだ。
馬車に乗る前に最後のお別れをする。
両親に別れの言葉を告げ、抱きしめた。悲しそうな顔をしながら抱きしめ返してくれた父も母も、少し震えていた。ごめんなさい、私の我儘を聞いてくれてありがとう。そして今まで私を愛してくれてありがとう。
最後に兄と別れの挨拶をした。
「お兄様、本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
「エマが幸せになってくれるなら、僕も幸せだよ」
寂しそうに笑う兄をぎゅっと抱きしめ、兄にしか聞こえない声で囁いた。
「次は天上界で会いましょう」
「ああ、また会おう…」
「愛しています、ルイス兄さん」
「俺もサラを愛しているよ」
兄は強く私の体を抱きしめた。震えている気がして兄の顔を見ようとしたら私の頬が冷たく濡れた。伝っているのは涙?
顔を上げたら兄が泣いていたので私は驚いた。兄が泣いているのなんて初めて見たからだ。泣きそうな顔をしていたことはある、だけど実際に泣いたことなんてなかった。
もう二度と会えないみたいな顔をしているが、天上界に戻ったら会えるのに。
私は兄の涙をそっと拭って兄の頬に手を添える。
「また兄さんとは会えるじゃない。だから最後は笑顔で見送って?」
「そうだね…ずっと、会えなくなっても愛しているよ、サラ」
「大袈裟ね」
「はは、そうかな」
兄は急に真面目な顔をした。
「ずっとサラに恋をしていた。俺にとってもサラにとっても互いを傷付ける辛い恋だったけど、それでも俺はこの終わってしまった恋を忘れない。幸せな時間をありがとう、サラ」
「兄さん?」
「だけど今はもう恋じゃない。家族として、兄妹として愛しているよ。どこにいても、会えなくなってもずっと俺はサラを愛しています。…なんてな」
「もう、何よ」
「でも忘れないで。俺はずっと、サラを愛しているよ」
「私も愛しているわ、ルイス兄さん」
兄は最後にとびきりの笑顔をくれた。
だから私もジョシュアがいなくなってからずっと忘れていた笑顔を見せた。私と兄の別れは笑顔で終わった。
こうして私は修道院に入ることとなった。
修道院に入ってからは私は慎ましく静かに暮らしていた。
特に問題も起こさず熱心に神に祈りを捧げ、時間だけが過ぎ去っていった。
いつも想うのはジョシュアのこと。
この気持ちを伝えられないのならせめて彼の幸せを祈りたかった。
私を助けてくれた、貴方の為に祈り続ける。
ジョシュア、とても感謝しています。
本当にありがとう。
私を救ってくれた貴方が、どうか幸せでありますように。
そう祈り続けていつしか数十年が過ぎていた。
身体が思うように動かなくなり、今は寝たきりの状態になっている。私の命の灯はもうすぐ消えてしまうだろう。
それでも祈ることだけはやめない。胸の前で手を組みぎゅっと握る。
どうか幸せでありますように。
私はその日、この世界での長い長い一生を終えた。64歳だった。
◇ ◇ ◇
「サラ…」
頭がぼんやりとする。なんだか誰かに呼ばれているような。
「サラ、サラ」
閉じていた瞼を開く。紺色の何かが視界を狭めている。これは…髪の毛?
ゆっくりと手で髪を触る。絹みたいにとても滑らかで気持ちがいい。私の髪ってプラチナブロンドじゃなかったかしら。手で髪を弄んでいるとまた声がする。
「サラ、目が覚めたの?」
よく知る、懐かしい声。どこかで聞いたことがあるような気がする。
髪を耳にかけてゆっくりと起き上がる。その部屋は一面白で、ドアも窓も見当たらない。ここは”神の間”だろうか。
私は白いワンピースを着ていた。いつかの夢で見た、あの服。
私はハッと思い出す。
そうか、エマの人生を終えて神様に戻ったのだ。だから髪の色が変わっていたのか。ということはさっきから私を呼ぶのは兄さんの声。私より先に戻っていたようだ。
私は声のする方を見た。
そこには濡れ烏の髪の、鮮やかな紫紺の目をした青年が優しく微笑んで立っていた。
これは夢?
だって、彼はここにいるはずがない。別の管轄に移ったはずだ。こんなところにいる訳がない。
驚いて口を開いたまま彼を見つめていると彼は口を開いた。
「数十年も会わない間に僕の顔、忘れちゃった?」
悪戯に成功した子供みたいな顔をして私を見て笑う彼。
忘れる訳がない。
ずっと恋しくてやまなかった、見たかった顔。
「私は夢をみているのかしら…。だってジョシュアがここにいるはずないもの」
そう言うと彼は悲しそうな顔をして言った。
「ルイスがさ、こっちに戻ってきてから最高神に言ったんだ。ルイスと僕の管轄を交換してほしいって。それが俺にできる償いだからって。最高神はそれを聞き届けてルイスは僕が移動した先の管轄に行き、僕はここに戻ってきた。だから…夢じゃないよ」
「ルイス兄さん…」
エマの時に涙はもう枯れたと思っていたのに、まだ残っていたようだ。涙はどんどん頬を伝い落ちていき、また喉が締め付けられるように痛くなる。嗚咽が漏れるたびに身体がびくりと震える。
ジョシュアが近づいてきて私の背を優しくさする。
その手は兄の手を思い出させる。
兄が何故、あのとき泣いていたのか。
なんで別れ際にあんなことを言ったのか。
兄はもう私と会えなくなると分かっていて、私の為に自分とジョシュアの交換を最高神に頼んだのだ。
「兄さん…兄さん…」
「いつか、また3人でこの管轄で暮らせるよう最高神に頼もう。僕も頼んでみたけれど今は全然聞き入れてはくれなかった。だけどいつかきっと…何百年、何千年かかるかは分からないけどきっと聞き入れてくれるよ」
「はい、絶対また3人で…暮らしたい」
「ルイスは本当に、君を愛しているね」
とても深い、深い愛。
優しい兄さんの顔を思い出す。最後に笑って見送ってくれた、あの笑顔。
「本当にね。兄さんはシスコンだから…自慢の兄だから」
「うん、素敵なお兄さんだよね。僕にとっても、自慢の友人だよ」
「大好きな兄さんよ…愛しているの」
ありがとう兄さん。愛しています。
またいつか、一緒に暮らせるようになったら改めて伝えよう。愛していると。
色々あって歪んでしまっていた関係だったけれど、やっぱり兄さんは優しい自慢の兄だ。
涙を流したままジョシュアを見る。
ずっと見たかった顔、聞きたかった声、感じたかった体温。
また出会えたのは兄が繋いでくれたから。
「ジョシュア…なのよね?」
「うん、そうだよ。突然姿を消してごめんね。でもそれがあの世界に干渉する限界だったから」
「いいの…触れてもいい?」
「いいよ」
ジョシュアの頬に手を伸ばす。滑らかな肌は陶器みたいで、だけど彼の体温を感じる。
目が合うと目を細めて嬉しそうにする。
「ジョシュア…」
「サラ…ずっと会いたかった。君が突然いなくなって、ルイスもいなくなって僕はここに一人になった。最高神に君たちが戻るまで何人か臨時で送ろうかと言われたけれど、僕はそれを拒んだんだ。元々管理するっていっても見守るくらいしかすることないしね。天上界に干渉しようとする世界は少ないから」
ジョシュアが私の頬を撫でる。
失くしていたものを取り戻すように。
「僕にとっては二人と過ごす時間はとても楽しくて愛おしくて大切だった。それがいきなり失われてしまった。僕は他の神様にこの大切な場所に来てほしくなかったから拒んだんだ。ここにいていいのは君とルイスだけだから。僕凄く悲しかったんだよ?」
「ごめんなさい…」
「でも最高神から詳しい事情を聞いた時に納得したよ。君は昔から臆病で、嫌なことからは徹底的に逃げるタイプだったからね。ルイスは君のことが大好きだったし…それに妹としてじゃなく女性として愛しているのは知っていたから」
私は驚いた。
ジョシュアは兄の私への気持ちを知っていたの?
「ルイスが君に向ける視線はとても熱くて…兄弟のそれではなかったからね。隣の管轄の男神様にも会わせないようにしたりしてたし、君に恋してるのはすぐに分かったよ。だから僕も大変だった。この関係が壊れないようにしながら君たちと過ごすのが」
「壊れないように…?どういうこと?」
ジョシュアはにっこり笑う。だけどその笑みはいつもの優しいものではなくて、艶やかな笑み。今まで見たことがないような笑みで私は動揺して涙がとまった。
こんな、こんな笑みをどうして私に向けるの。
「僕は…君がずっと好きだったんだ」
目を見開いた。なかなかジョシュアの言うことが理解できない。
彼は今なんて?
言葉の意味は理解できないが、胸に何か込み上げてくる。
「だけどルイスにそんなことがバレたらルイスとは友人でいられなくなるかもしれない。ルイスは僕の大切な友人だ。僕はこの関係を壊したくなかったんだ。だからずっと、君への想いを隠してきた。いつも通り、君に接するときは兄妹みたいに親密になり過ぎないように。だけど君が人間に堕ちてしまったとき、僕は後悔したんだ。君にこの想いを伝えておけばよかったって」
込み上げてくるのは喜び、戸惑い。
これは…本当のことなの?
ジョシュアも、私と同じ気持ちでいたの?
「君は堕ちてからも全然こちらに戻ってきそうになかった。それどころか魂がどんどん傷ついて擦り減っていく。ルイスも同じだ。このままじゃ君たちがいなくなってしまうんじゃないかって気が気じゃなかった。後悔は時間が経つにつれて増していくばかりだった」
ジョシュアは辛そうに顔を歪める。
とまっていた涙は再び溢れる。
「そして僕は最高神にお願いしたんだ。君のいる世界に干渉したいって。本来はこちらから干渉することは禁止されているから駄目なんだけど、どうしても君とルイスを失いたくなかった。そして最高神に干渉することを許された…条件付きでね。僕がこの管轄から移動すればいいよ、但し君にもルイスにも会えなくなる…それでも干渉するのかいって言われた。だから僕はそれを受け入れたんだ」
ジョシュアの私に触れる手が震えている。そっと、その手を私の手で包んだ。
「そして僕は転入生っていう形で君のいた『フラジール』の世界に干渉した。そして君が課題と向き合うように誘導したんだ。君に会えるのは最後だと思っていたから、僕は君を目に焼き付けて触れたんだ。ずっと君を抱きしめたかった。僕はとても嬉しかった…だから悔いはないと思った。最後にルイスにも会っていったよ。彼も課題を終えて記憶を取り戻していたからか、すまないって謝られたけど僕がやりたくてやったことだったからね。簡単に事情を説明して、いつか…きっといつかまた会おうって言って別れたんだ」
ジョシュアは紫紺の瞳から涙をこぼした。私と一緒で涙はなかなかとまらない。
「その時ルイスはとても悩ましい顔をしてて、なんだろうって思ってたんだけど…天上界にルイスが戻って来た時にその理由を知ったよ。最高神から僕とルイスの管轄を交換するって言われたからね。僕は断ったけど、ルイスにどうか俺の願いを叶えて欲しいって言われて僕はそれを受け入れたんだ…そして今、僕はここにいる」
ジョシュアの声は震えていた。
そっと、ジョシュアが私を包み込んだ。私も震える彼の身体を抱きしめる。
「ルイスには悪いと思っている…ルイスは君をとても愛しているから凄く辛い決断だったと思うんだ。だけど僕はルイスの願いを受け入れてしまった…僕はどうしても君に会いたかったんだ」
嗚咽を漏らしながら懸命に話すジョシュアからは強い後悔が感じられる。きっと、私と兄を引き離してしまったことを後悔しているんだろう。
ジョシュアを更にぎゅっと抱きしめた。
「兄さんはきっと、この願いを受け入れてくれて感謝していると思う。兄さんは記憶が戻ってからずっと、私に償いたいって言っていたから。ジョシュアが兄さんの願いを叶えてくれたことで兄さんは救われていると思う。だからそんなに悔やまないで」
「本当に…そうなのかな」
「だったら次に会った時に聞けばいいじゃない。また3人で暮らすんでしょう?」
にっこり笑ってジョシュアを見る。相変わらず涙は止まらないから泣き笑いになってしまっているけれど、今出来る最上級の笑顔。
「…そうだね。また会おうって言ったんだ…次に会った時に聞いてみるよ」
ジョシュアも困ったように笑った。
「ジョシュアは…本当に私のことが好き?」
「うん、好きだよ。ずっと隠してきたけど、やっぱり嘘はつけなかった。ずっと君に触れたかった。ずっと君を抱きしめたかった。愛してる」
ずっと叶わないと思っていた。
もうこの気持ちは伝えることが出来ないのだと思っていた。
やっと、伝えられる。
そう思ったらまた嗚咽が漏れた。泣くことをやめられない。
エマの時のように涙が溢れてとまらない。何度泣いたことだろう。
けれどこれはいつも流していた涙とは違う、幸せな涙。
「ジョシュア…私も好きよ、大好きよ」
喉が痛くてなかなか言葉にならない。だからゆっくり言葉を紡ぐ。
今まで伝えられなかった分の想いを乗せて、貴方に届くように。
「貴方にずっと、愛していますと」
伝えたかった。
だけどその先が言葉になることはなかった。
言葉になる前に私の唇がジョシュアの唇に塞がれたから。
ジョシュアの唇がそっと離れる。
初めてしたジョシュアとのキスは、二人の涙の味がした。
私を見る彼の目は燃えるように熱い。きっと、私も今同じ目をしているだろう。
「サラ、愛してる」
「私も愛しています…ジョシュア」
もう一度、ジョシュアとキスをした。
今度は深く熱いキス。だけどそれは苦しくはなく、とても幸せなものだった。
その日、私はジョシュアと肌を重ねた。
一度汚らわしくておぞましく思った私の身体。ジョシュアは「綺麗だよ」って言ってくれた。
兄がつけた痕を思い出す。それは綺麗になくなっていたけれど、やっぱり忘れることは出来ない。
そこを触っているとジョシュアは不思議そうな顔をした。
「そこが気になるの?」
「兄さんが…ここに痕を残したの。兄妹ではなくなってしまった、呪いの証」
ジョシュアは察したようで、少し悲しそうな顔をした。
私の触っていたところをジョシュアも触る。そしてそこにキスをして、痕を残した。
「もう君たちは兄妹だ、呪いは解けたよ。それでも忘れられないなら、僕が毎回ここに痕を残そう。君がここを触るたび、呪いではなく僕の愛を思い出してくれるように」
そう言ってジョシュアは私の唇を食む。
「大丈夫、忘れられるよ。呪いじゃなくて僕を思い出せばいい」
「ジョシュア…ありがとう」
「どういたしまして。それに君と一緒になるときに僕以外の男を思い出してほしくないからね」
「ジョシュア!」
「ふふ、元気になったようでよかったよ」
ジョシュアの胸をぽかぽかと叩く。
恥ずかしくて顔が燃えるようだった。
「サラ…愛しているよ」
ぎゅっと抱きしめられる。直に触れる彼の体温が熱い。
心臓の音が伝わってくる。きっと私の音も伝わっているのだろう。
速くなる鼓動はどちらも同じくらい響いていた。
「私も愛しています、ジョシュア」
私たちは、ひとつになった。
◇ ◇ ◇
あれから何十年、いや何百年が経ったのだろう。もう数え切れないほどの時が過ぎていった。
兄さんはまだ戻ってこない。最高神がなかなか兄さんを戻すことを許してくれないのだ。兄さんを戻してほしいと言いに行くたびににやにやと笑って却下する。あれは確実に面白がってやっている。本当に最高神は性格が悪い。
その間に私とジョシュアには3人の子供が生まれた。
ジョシュアによく似た娘と私によく似た息子が2人。子供たちはすくすく育ち、今はもう私たちのところにはいない。大きくなって世界の管理を任される歳になり、今は別の管轄でそれぞれ暮らしている。
だから今私のいる管轄には私とジョシュアの2人だけだ。
沢山の世界を見守りながら今日も1日を過ごす。
兄は元気にしているだろうか。
「サラ、遅くなってごめん」
「大丈夫よ。でもどうしたの?何かあった?」
ジョシュアは今日も最高神に会いに行っていた。兄を戻してもらうために。
ジョシュアはにやにやしている。
「ちょっと待って…よし、いいかな」
パチンっと指を鳴らす。
そして現れたのは自分の顔によく似た顔。申し訳なさそうに困ったように笑っているその顔は、私が修道院に行くときに見たのが最後だったか。
懐かしい、ずっと会いたかった人。
「兄さん!」
兄をぎゅっと抱きしめる。ずっとずっと、会いたかった。
「何よ!何で言わなかったのよ!馬鹿!阿呆!」
「会っていきなりそれか…。まったく我が愛しの妹君は酷いなあ」
ああ、懐かしいこの軽口。
ずっと聞いていなかった。
「兄さんが悪いんじゃない!」
「はいはい、悪かったよ。…ごめんな、サラ。俺はサラに許してもらえるほど償えただろうか」
「もうとっくに許してるわよ!…会いたかったよルイス兄さん…」
「サラ…」
泣くのを堪えようとしてみたが、堪えられなかった。私は本当に泣き虫だ。
「サラ、本当にごめん。至らない兄で、サラを随分苦しめた」
「もう謝罪はよして、聞き飽きたわ。耳にたこができそう」
「…変わらないなあ。ありがとう、サラ」
「これでも色々変わったのよ。…どういたしまして」
兄が優しく頭を撫でる。
優しくて懐かしい大好きな手。
「ルイス兄さん、愛してる」
「俺も…愛してるよ」
もうきっと、呪いは思い出されないだろう。
私たちはもう兄妹だ。歪んでしまった関係は跡形もなくなくなっている。
私を撫でる優しい手がそれを実感させた。
「僕も2人を愛しているよ」
「俺はお前は愛してない」
「なんだよルイスつれないなー」
「男に愛を囁く趣味はない」
「ルイスのいけずー」
「兄さんジョシュアが可哀想だから愛してるって言ってあげたら?」
「断る!」
「酷いよルイス…僕はルイスも愛しているのに…ルイスは僕を愛していないのかい?だったらせめて、愛してるって言ってくれなくていいから抱きしめて?」
「やめろ!ほんとにやめろ!」
ああ、懐かしい。昔もよくこんな風に馬鹿な会話をしていた。
ずっと忘れることはなかった楽しかった日々。
また3人でここで暮らせるのだ。もう懐かしんで思い出すだけではない。新しく塗り重ねていくことが出来る。
これからの毎日は、きっと今まで以上に色鮮やかになるだろう。
私たちは笑い合った。何百年ぶりだろうか。
幸せって、こういうことを言うのだろう。
かつてはどうしてこんな風に生まれたのかと嘆いていた。
兄の想いに怒りと悲しみにくれた。ジョシュアに伝えられなかったことをずっと悔いていた。逃げ出してしまった自分に嫌悪していた。
だけど今はこんな風に生まれたのも悪くないと思う。
だって私たちはこんな風に笑い合えているのだから。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。




