表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春アスハラク  作者: 城鐘 狐月
水無月編
9/39

海老原御門 004


 僕にトラウマを挙げろというのならば、それは大体三つくらいが上がるだろう。

 まず一つめは先述の通り、海老原(えびはら)先輩絡みの件である。が、まあ、この件というのは海老原御門という大きなひとくくりのトラウマなので、細かには語らない事にしよう。数え始めたらキリが無いし、数え切れないだろうし、そもそも数えたくないし、そんな昔の記憶、とっくにあやふやになっている。


 改造されて、改変されて。改編、改訂、改定されて。あるいは、改竄されて。原型を留めない程度には、ぐちゃぐちゃになっている。


 そして二つめというのは、春休みの一件__僕が一日に三辺死に、三辺生き返り、そして傷を失って絶望し、地獄の底に叩き落とされてから僕の傷を巡って大戦争をおっぱじめたあの春休みの事である。あれはもうびっくりだった。これまでの常識というものが一切合切消え失せた。しかしそれというのもつい二ヶ月程前の話なのに、数十年前の出来事のような気がするのは、僕が完全に『傷』を取り戻せていないからだろう。それもまあ、どの道語らなくてはいけないだろうが、どうにも長くなりそうだし、その話はいずれ語るという事で妥協点だ。


 そして三つめ。


 僕が、僕の姉妹を__僕が僕の妹と姉を殺した事。

 それというのは、まあ、春休みの一件に起因する事なのだが。特段これは最高級に刺激的で、最高級に頭のネジが外れていて、最高級にゾッとして、最高級に狂ったものだった。

 とてもとてもお子様に見せられる内容じゃない。


 だからこそこれは別格(べっかく)であり、別核(べっかく)であり、別郭(べっかく)の事柄。

 正直、『傷』の有る無しに関わらず、この一件だけで春休み十回分のトラウマレベルである。冗談抜きで。ただの外連味(けれんみ)や言葉遊びで言うのではなく、僕は本気でそう思っている。


 弟が姉を殺すなどあってはならない。

 兄が妹を殺すなどあってはならない。


 ましてや、僕は、唯一無二の姉を、妹を、散々惨殺(ざんさつ)しておいて、何も感じなかった(・・・・・・・・)のである。本当に、あの日はぶっ飛んだ日だったと思う。


 まあ、その、僕のかわいい妹も、僕の自慢の姉も、今では家で元気にしている。それも全部、とはいかないが、八割、いや、七割五分くらいは何を隠そう白魚(はくさか)、あの如何(いかが)わしい探偵のおかげなので、僕は結構あいつに感謝している。


 __もし白魚がいなかったら、僕はもうとっくに自殺している。

 死ねないのだが。

 それでも、自殺し続けていただろう。

 何度も何度も何度も何度も、自分の首を吊り、崖から身を投げ、首に刃物を突き立て、油を被って火を点けて、線路に飛び込んで、チェーンソーで内臓を()き出して、何度も何度も何度も何度も死んでいたに違いない。


 それほどまでの出来事がつい二ヶ月前。

 改造も、

 改変も、

 改編も、改訂も改定もする暇なんてない。


 ましてや、改竄なんてできたならば、どんなに楽な事か。


 そして、その__殺し合いの大喧嘩、というか、『惨殺ショー』に『きょうだいげんか』というルビが振られそうなほど、壮絶で葬絶な惨殺ショー(きょうだいげんか)の舞台となったのが、バトルフィールドになったのが、この僕の、僕たちの目の前にある洋館である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ