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第十六話 ちょっとした希望

おそくなりましたね…。

申し訳ないです。

 アラヤはシセンとの話し合いを終え、長い廊下を歩いていた。


 己の本心へと向き合い、旅の目的を再び定義できたとは言え、気持ちが晴れ晴れとすることはなかった。

 

 心の奥底には黒く濁った重いものが今も眠り続けている。

 そんな感覚があった。

 

 しかし、その重く残る黒い感情に悩み、何もしないでいたら、それこそシセンとの話し合いの意味がなくなる。

 これまでの自分みたいに自身を騙すわけにはいかず、今自分のするべきことに目を向けようと、奮い立たせた。

 

 そうして、シセンが話してくれた「準備」についてのことを思い返す。

 遠征までに残された準備期間は一ヵ月。準備にしてはかなり余裕がある。寧ろありすぎるとも思う。

 腰に携えた巾着から金属の擦れあう音が聞こえ、巾着に手を置いた。

 

 シセンから支度金としてもらった七百五十アースが入っている。アラヤがこれまでに一度に手にしてきたどんなお金よりも大金だった。

 巾着には、花の紋様が入った金貨、鏡のように反射する銀貨に、見慣れた銅貨がごちゃごちゃと重なって入っていた。

 このお金だけで一か月半は働かなくても生きていけるだろう。

 

 この大金を見ると、気分が高揚し浮き立つ反面、少々緊張してしまう。

 大金と言えども、この物価の高いことが容易に予想できるアルケーではすぐに使い果たしてしまいそうな気がする。

 ここまでの大金を持っていると、失うことを恐れて使うことに躊躇してしまいそうだった。

 

 巾着の中身を見ながら、これからどのように使っていくかを考えていると、廊下の角に差し掛かろうとしたその時、声を掛けられた。

 

「おい、ぶつかんぞ」

 

 その言葉に驚き、顔を上げると、そこに立っていたのはヴァヒルだった。

 よそ見をしていたこちらの不注意とはいえ、あまりの接近に動揺して、思わず「うわっ」と声を漏らして、後ずさりをした。

 

 ヴァヒルは肩からタオルをぶら下げ、手には栄養剤のようなものを握りしめて、訓練帰りですと主張しているかのような姿をしていた。

 訓練帰りの肉体は汗を纏い、湿った筋肉が光を帯びて、その肉体の逞しさをより際立たせている。

 どれだけ努力してきたのだろうか。その肉体を見るだけで考えさせられた。

 

「おい、どうした」

 

 その一言で、自分がヴァヒルの肉体に魅せられていたことに気づいた。

 恥ずかしい。

 

「いや、何でもない!」

 

「…? そうか」

 

 と、こちらの動揺など意にも介さずに、一言だけ残し、ヴァヒルはその場を後にした。

 

 これまでの生き方ゆえにあまり異性との関わりが多くなかったので、つい見過ぎてしまった。

 自重せねばならない、と反省。

 

 ふと、気になったことがあった。

 恐らくだが、ヴァヒルもアラヤと旅をする以上、シセンから同様に支度金をもらっているだろう。

 そこで、ヴァヒルは一体何にその資金を費やすのだろうか。

 

 こちらは旅が便利になる魔道具。例えば水と少量の魔力さえあればお湯を沸かせる魔道具や、あればケイオス除けの小道具などあればいいなと考えていた。

 

 現状、ヴァヒルへの印象は「何も考えておらず、デリカシーのない横暴で傲慢な男」であるため、その使い道が想像できなかった。

 単純に護身具とかだろうか。

 

 うん、考えても無駄。

 

 などと考えているうちに自身の部屋にたどり着いていた。

 些事に思いを巡らせながらも部屋にたどり着いた自身の成長ぶりに我ながら感心する。

 

 部屋に戻って今日、シセンと話したことを反芻し、これからのことについて考えたかった。

 

 お腹の奥に黒く潜む感情にうなされるだけではつまらないと思いつつも、今日は精神的にも体力的にもしんどかった。

 何かするとしたら明日だろうな。

 

 まずはアルケーの町を見て回りたい。そこから何を買うか具体的に決めていこう。

 エストリアでいろんなことがあって、服も何着か捨ててしまったから新しい服も買っておきたい。

 あ、新しい魔導書も見ておきたいな。

 

 ベッドに寝そべりながら明日することを思い付きのように考えていた。

 どんどんと買いたいもの、しておきたいこと、行ってみたいところが頭の中に咲いては新しい思い付きに覆われる。

 

 久しぶりな気がした。

 旅をし始めたころもすべてが新鮮で、今のようにしたいことで溢れていた。

 

 少し、何かするにしては重い身になってしまったが、それでもある程度の自由は約束された。

 

 明日が楽しみだと、ちょっとした希望を抱き、目を閉じ、このまどろみに体を任せることにした。

 

 眠るにしては窓から差し込む日差しは強く、首都アルケーもその賑わいを最高潮にする時間だった。

第十六話を読んでいただきありがとうございます!

今回の話は見ての通り、何も動きはなかったかもしれませんが流れを変えるためには必要かなと思いまして、アラヤの心の動きをメインに描写しました。


前回から結構期間が空いてしまい申し訳ありません!

やりたいことが沢山ありすぎて、こちらが疎かになったり、また別に書いてみたい物語を思いついたりと忙しい日々を送っております。


しかし、中途半端にはしたくはないので続けては行きます。

隙間時間にでも「お、こいつ更新してるやん」くらいの感覚で読んでいただければ幸いです。

次回もよろしくお願いします!

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