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第十四話 本音

投稿遅くなり申し訳ありません。

言い訳にはなりますが、ちょっと体力的にも時間的にも小説に当てる時間が確保できなくなりましてこのようなことになりました。

ただ投稿自体は続けていくので思い出した時に見に来てくだされば、新エピ投稿しているかもしれませんので、これからもよろしくお願いします。それと、誤字や脱字等もございましたら遠慮なく指摘の方お願いします。

シセンの屋敷に来て二日目。

 カーテンの隙間から差す金色の光で目を覚まし、ぴんと愛くるしい寝癖をはねさせるアラヤ。

 

 昨夜はベッドに寝転がった途端に、気絶するように眠ったみたいだった。ベッドに横たわってからすぐの記憶がない。

 

(このふかふかなベッドが悪い。でも疲れは一気に飛んだけれど…)

 

 そんなことを考えつつ、軽く伸びをしてから身支度を始めた。

 昨日、なにもせずに寝てしまった。そのため着替えでもしておきたかった。

 

(外に出歩いてもいいのかな。許可とか、もしかして必要?)

 

 特に今日何かする予定もない。やることがないとなっても、何もせずにいるのは何か違うと考えていた。屋敷の探索でもありかと思っていたが、不躾な気がした。

 着替えも終わった頃、アラヤのいる部屋の扉を優しく三回ノックされた。

 

「おはようございます、アラヤ様。朝食のお時間でございます」

 

 カーテラの声だった。扉の奥から朝ごはんの用意ができていることを伝えに来たのだ。

 

「ありがとうございます。すぐに行きます!」

 

「一階の食堂にてお待ちしております。失礼します」

 

 そう言い残して、扉の奥から立ち去る感じがした。

 部屋にあった姿見で自分の姿を確認し、寝癖を直した後「よしっ」と一人小さく呟いて部屋の扉を開けた。

 

 その瞬間、焼けた小麦の匂いが鼻を掠める。その中にスープだろうか、コンソメの匂いも混じっているような気がした。

 お腹を空かせる匂いが嗅覚を刺激した後に、男の力強い声で「ヤーッ!」という声が鼓膜を震わせた。

 

(…びっくりした。中庭の方かな)

 

 そう思い、中庭の方を見に行くと、一人の少年がマギカーの車輪に棒を刺したものを打ち込み台にして、それに木刀を振り下ろしていた。ヴァヒルだ。

 

(時間的には大体、八時半…。いつからしていたのかは分からないけれど、精が出るね)

 

 そんなテキトーなことを考えて、最初は何となく眺めていただけだった。

 だが気づけばその姿に見入っていた。刀の振り方、筋肉の使い方など、アラヤも血液を固めて剣のように振り回すことをする以上、参考になることがあったのかもしれない。

 五分くらい見た後、自分の腹の虫が食べ物を求めていることに気が付いた。

 

「お腹空いた…」

 

 ぼそっとつぶやき、カーテラの言葉を思い出す。

 食堂は一階らしい。今いるのは二階の廊下。

 一階のどこに食堂があるのか全く分からない。分からないが、探すしかない。

 

 ――しかし、案の定この広い屋敷の中で迷ってしまった。

 自分の中では匂いを辿ってきたつもりでも、よくわからない物置のような部屋であったり、トイレだったり。

 結果的に屋敷を探索するような形になってしまっている。

 

 歩いていると、一つの扉の前で行き止まりになった。しかし、何となくそこが食堂ではないと考えたので引き返そうとしたら、突然扉が開き、一人の少年と目が合った。

 いつの間にか打ち込みを終えていたヴァヒルだった。

 

「あ、おはよう」

 

 なにを言うかほんの少しだけ迷った挙句、咄嗟に出てきたのがその言葉だった。

 

「んん? ああ」

 

 ヴァヒルは打ち込みで掻いた汗を拭きながらアラヤのあいさつに対して気の抜けた返事をしてきた。

「おはよう」と挨拶を返してくれてもよかったのではないだろうか。

 二人の間に何とも言えない沈黙が落ちる。それを払いのけるように、不思議そうな表情を浮かべたヴァヒルから話しかけられた。

 

「なんでこんなところにいるんだよ」

 

 それを聞かれると答えにくい。昨日来たばかりで、いくら広い屋敷とは言え、迷っていることを伝えるのは恥ずかしい。

 

「あー…食堂に行きたくて…その」

 

「はぁ? 食堂? ここは道場しかねぇ。食堂は反対側だ」

 

 案の定(こいつ大丈夫か)みたいな顔でこちらを見て、「待ってろ」と言い、出てきた部屋に戻っていった。

 そんな顔をされても、こちらは昨日ここに来たばかりで建物の構造を把握しているわけではないのだ。

 

(食堂とは真逆の所まで来てしまっていたんだ…)

 

 アラヤとしては匂いを辿ってきたつもりだったのだが、まさか反対方向にたどり着くことになるとは思っておらず、少しショックだった。

 

 しばらくするとヴァヒルが扉を開けて出てきた。

 どうやら着替えをして出てきたようだった。先ほどまでは半袖の肌着のような恰好だったが、今は申し訳程度の灰色の上着を羽織り、袖をまくっている。

 

「ついてこい。俺も腹が減ってたところなんだ」

 

 正直ありがたかった。このまま一人で歩き回っていたらいずれ食堂にはたどり着くだろうが、時間はかかっていただろう。

 

(それにご飯も冷めちゃうだろうし)

 

「ありがとう」 

 

 ヴァヒルの背中を追うように彼についていく。

 方向音痴とはいえ、本当に食堂から真反対のところまで来てしまっていた自分に呆れてしまった。

 

 食堂へ行く道中、特にヴァヒルとの会話はなかった。

 その気まずい空気を何とか打破しようと、ヴァヒルのことについて聞いてみたが、

 

「んなこと聞いてどうすんだよ」

 

 とか

 

「どうでもいいだろ」

 

 と、切り捨てられ話にならなかった。

 アラヤと心底会話をしたくないのか、自身のことを話したがらない性格なのか。どちらにせよ、より沈黙を深める結果になった。

 

 次はどのような話題にしようかと思案していると、ヴァヒルが歩みを止めた。

 目の前の部屋の扉は開け放たれており、そこからは、寝室の前で嗅いだあの美味しそうな匂いを濛々(もうもう)と漂よわせていた。無事に食堂へとたどり着いたのだ。

 

 中を覗くと、カーテラが食堂の奥にある別の扉から出入りしている以外に、人の姿はない。

 

(…シセンさんはいないんだ)

 

 どこかほっとした自分がいたような気がした。

 

「よっしゃあ! 飯だ飯だ!」

 

 隣にいたヴァヒルが目の前の絶品の品々を目にした途端声を張り上げて、食卓の席に着く。

 先の沈黙からいきなり叫ばれるものだから少し驚いたが、この料理を前にして興奮するのもよく理解できる。このような料理を毎日食べられるヴァヒルもシセンもうらやましい限りであった。

 アラヤもヴァヒルと対面の席について、食事に手を付け始めた。


 所作から美しいカーテラが作る料理(恐らく)なのだからその腕前は疑ってはいない。とはいえ、見た目と匂いだけ立派な料理もあると聞く。

 結果としてはそのような、考えをしてしまった自分を殴りたいほどには美味しい料理だった。

 

(朝からこんなにも美味しいんだったら、夕食はどうなってしまうんだ!)

 

 もうすでに夜の事を考えて幸せな気持ちになってしまうアラヤだった。

 食堂の内装はこれまた裕福な人間にふさわしい絢爛なものであったが、色々と反応し過ぎて慣れてきてしまっている自分自身に驚いてしまう。

 食卓はアラヤがその上で寝転んでも足一つ分余裕のありそうなくらいの長さのもので、左右に椅子が二つ、上座に一つ。

 

(今はいないけれど、あそこの席はシセンさんなのかな。食事も置かれているし)

 

 そうして朝食を黙々と堪能していると、しばらくして食堂に新たに人物が入ってきた。

 

 その人物にいち早く反応したのはヴァヒルだった。ヴァヒルの位置からは扉とは対面の位置にあるのでそれですぐにわかったのだろう。

 

「お! 師匠! 仕事じゃなかったのかよ!」

 

 アラヤもヴァヒルの声に反応して後ろを向き、その正体を確かめる。

 まあ、ヴァヒルの言葉で確信はしていたのだが、シセンだった。

 

「いいや、今日から二日休みなんだ。朝は休みに入る前に終わらしておきたかった仕事を取りに行っていただけだ」

 

 シセンはそう言いながら、ただ一つ空いていた上座の席に腰を下ろした。

 

「休みか。そういえば師匠、ずっと仕事に行ってたからな!」

 

「まあ、基本的に有事の時以外は週休一日だが、私は一八六連勤だったからな。休みを頂いたよ」

 

(一八六連勤?!)

 

 当たり前かのようにシセンは話していたが、あまりの異次元な勤務日数につい食事の手が止まってしまった。

 一方ヴァヒルは「へぇ~」と軽く受け流している。

 しかも、そのうえたったの二日の休み。いくら逞しい軍人とはいえ、一八六連勤の疲れをたった二日の休みで取れるとは考えられなかった。

 

 アラヤは自分の父が一五連勤だった時のことを思い出して、一八六連勤が如何にしんどいのか、思考を巡らせていた。

 その間、シセンとヴァヒルが会話をしていた気がするが、よく覚えていない。

 

 途端にシセンに話しかけられた。

 

「アラヤ君、大丈夫か?」

 

「あ、はい!」

 

 突然の問いかけに現実に引き戻される。

 

「食事が終わった後に昨日の続きで話しておきたいことがある。この後、私の部屋に来てもらいたい。いいかね」

 

「分かりました…」

 

(昨日の続きというのは、ヴァヒルとの遠征についてのことか。でも何を話すんだろう)

 

 シセンからアラヤに対して言ったことはそれだけだった。

 その後も食事は続き、特にこれと言ったこともなく、食事を楽しんだ。

 

 ――最後のパンを口に含み、有意義な朝食を惜しみながら味わい、水を飲んで朝食を終えた。

 コンソメとスパイスの効いたスープ、新鮮なトマトと卵焼き、ジャガイモを潰して固めて揚げた〈芋揚げ〉。これだけではなかったが言い並べるとキリがなくなる。

 

 余韻に浸っていると、アラヤ以外食堂からいなくなっていることに気が付いた。

 アラヤが食事に夢中になって味わっているうちに皆は食べ終えて、さっさと自室に戻ったのかもしれない。

 二人がご飯を食べ終えた食器類は食卓に残されたままであり、「この家ではそういうものなのか」と考え、アラヤも食器はそのままにしておいた。

 

 それよりもアラヤにとって一つ重要な問題が残っていた。

 果たしてシセンの部屋はどこなのか、ということだ。

 

(一階で迷っていた時は、それっぽい部屋はなかったような気がするから、二階かな?)

 

 しばらくどのようにするべきか悩んでいると、いつの間にか食堂にいたカーテラが話しかけてきた。

 

「いかがいたしましたか、アラヤ様」

 

「あ、ああ…えーと、シセンさんのお部屋に呼ばれているんですが、その部屋が分からなくて…」

 

 そこまで聞いて、カーテラは全てを理解したかのように言った。

 

「かしこまりました。ご案内致します」

 

 そう言われカーテラについていく。

 この光景は昨日、屋敷に来た時にも見た覚えがある。カーテラに案内され、廊下から中庭を見下ろす。

 

 しばらく歩いた後、一つの扉の前にたどり着いた。扉の前には鏡のように光を反射するプレートに『シセン』と刻まれたものが飾られている。

 

「こちらがシセン様のお部屋になります。それでは失礼致します」

 

 そう言って、一礼を済ませ足音も立てずにその場から去った。

 

「さて…」

 

 目の前には一つの扉。

 

(こうして扉の前に立っていると、今から説教される気分みたいになる)

 

 少し緊張しながら扉を三回たたき、「アラヤです」と扉の向こうの主に声を掛ける。

 すると扉の向こうから「入りなさい」とシセンの声が聞こえ、それを合図に扉のノブを回した。

 

 シセンの部屋は執務室のような形をしていた。部屋は部屋でも仕事部屋だった。

 内装もお金持ちの執務室を思い浮かべれば出てくるようなそんな典型的なものだった。

 

 シセンは机の上で書類作業をしていたのか、紙の束を整理して引き出しにしまっているところだった。

 

「まぁ、座りたまえ。紅茶でも注ごうと思うが、ミルクか砂糖は必要かな」

 

「それじゃあ、両方お願いします」

 

 シセンからの尋ねにも答え、暖炉の前のソファに腰を下ろした。

 シセンが部屋の隅から、紅茶のいいにおいを漂わせながらこちらに二つのティーカップを持って来て、目の前の机にそれを静かに置いた。

 

「休日の間にぜひ飲んでくれと頂いたものだ。中々に良いものらしい」

 

(正直、紅茶の味の良し悪しがわからないけれど…そんなにお高いものならちゃんと味わなくちゃ)

 

 と考えつつも、砂糖とミルクを注いだ後に紅茶に口をつけることにした。

 二人がカップから口を離し、その風味を堪能した後、最初に口を開いたのはシセンだった。

 

「このことは既にヴァヒルにも言ったのだが、これから二週間ほどは遠征の準備期間に当ててもらう」

 

「準備期間ですか。具体的にどんな――」

 

「その前に、だ」

 

 何を準備すればいいのか聞こうとした瞬間、アラヤの言葉はシセンにより防がれた。

 

「これは君にしか聞いていないことだが――」

 

 そう何か含みを持たせた後に、シセンは聞いてきた。

 

「君はなぜ、旅をしている?」

 

 あまりの予想外の質問に何も言えなくなってしまった。

 しかし、絶対に応えられなければならない質問だと思った。

 

「あ、えっと…、人助けをする…ためです…」

 

「…」

 

 そのアラヤの回答に対して、シセンは先ほどまでとは違い鋭い空気が凍てつくような表情でアラヤの顔を見据えた。

 目の前の男が酷く怖く感じ、身が固まって冷や汗をかくのが感じられた。

 

 どれくらいそのようにしていただろうか。両者身動き一つも取らず(アラヤは取れず)正対(せいたい)していた。

 そして漸くシセンが言葉を紡ぐ。

 

「私は正直に答えてほしい。建前ではなく、君の本心を、だ。アラヤ君」

 

「…」

 

 人を助けたい。そのために強くなりたい。どちらも嘘ではない。しかし、本音と言えば嘘になる。アラヤはそのことを自覚していた。

 今まで旅をしてきた本当の理由を、自分が嫌いにならないために必死に建前で隠していた。

 アラヤが本当にこの旅をしてきた理由は――

 

「私は…あの…。あの里を…里から…出ていきたかった…のだと思います…」

 

 必死に隠したかった自分の本音。それを今見破られ、自白した。

 一刻も早くここから逃げ出したいと、何度も思った。

 

 沈黙がこの空間を支配し、どこにも逃げ場がないことをアラヤに突きつける。

 自分の情けなさ。エストリアでの出来事。バースでの出来事。里の人間。

 これまでの出来事が頭の中を横切り、不安と恐怖だけがアラヤを支配する。

 アラヤにとって逃げたくても逃げることのできない、最も嫌な戦いの始まりだった。

第十四話を読んでいただきありがとうございます!


改めて投稿が遅くなり申し訳ありません。

投稿をやめるようなことはありませんので、これからもお願いします。


今回は漸くアラヤの旅の目的について触れていくための前段階の話です。遅いだろと思うかもしれませんが、私もそう思います。

投稿も物語の核も遅いんですが、次回以降も読んでいただければ幸いです。

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