爆発しろリア充・再び~ラナ視点~
ライルとセシリアちゃんの結婚のお披露目のはずが、バルコニーでの公開プロポーズとなった日から一小節が経過。
私はストファリア帝国の新しい帝城の庭で紅茶を飲んでいた。最近はこうして、ゆっくりする時間もなかったから。
数日前、ライルとセシリアちゃんの結婚の儀がおこなわれ、無事に終わった。儀式というだけあって、なかなかに堅苦しく、面倒だったけど。その後の二人の夫婦生活は…………ひとまず置いといて。
そんなことを思い出しながら、私は緑が豊かな庭に目をむけた。色とりどりのグラジオラスが咲き乱れ、ラベンダーの香りが鼻をくすぐる。
心を豊かにする風景に疲れも癒やされる……が、目の前には、それをぶち壊す存在。テーブルに肘を付き、頭を抱えたライルがいる。なんか、以前にも同じことがあったような。
「どうしたのよ?」
しぶしぶ声をかけた私にライルが嘆いた。
「嫁が……セシリアが、オレから逃げる……」
「嫌われるようなことをしたんじゃないの?」
ライルが慌てたように顔をあげる。
「してなっ……してない、はず……だ。たぶん」
徐々に弱々しくなる語尾。私は呆れながらカップに口をつけた。
「してないなら、別にいいじゃない。私の優雅なお茶の時間を邪魔しないで。本来はあんたがしないといけない仕事を私が肩代わりしてたから、ずっと忙しかったのよ」
「そこまで言うほどの仕事量じゃないだろ」
私は笑顔のまま顔を引きつかせた。
「シェノバ国の王弟の処遇の交渉について、どれだけ苦戦したと思っているのよ。あんたに任せたら暴走一直線で譲歩も何もないんだから」
「譲歩する必要ねぇだろ」
怒りを露わにするライル。普段の治政はちゃんとしているのに、セシリアちゃんが関わると振り切れすぎるところが難点。
「だからって、処刑の一択はないでしょ」
「自作自演で、無傷で返すつもりだったとはいえ、皇女を誘拐したんだぞ」
「で、本音は?」
「セシリアを危険な目に遭わせた時点で万死に値する」
どす黒い気配が周囲を包む。私はパタパタと左右に手を動かして不穏な空気を払った。
「はい、はい。そうは言っても相手は王弟。さすがに処刑はできないわ」
「分かっている。だから爵位剥奪の幽閉処分で妥協したんだろうが」
「妥協というか、ほぼ決定していたけど。まさか、あなたたちの結婚の儀の前にシェノバ国の王が自ら顔を出して堂々と弁明するとは思わなかったわ」
結婚の儀がある数日前にシェノバ国の王がストファリア帝国へ突然の来訪。
そして、今回の誘拐劇については「王弟であるフェルナンの独断である。地震で甚大な被害があるストファリア帝国への支援を要請され、それについては了承したが、婿入りについては反対した」と王が直々に説明をした。
その時のことを思い出した私はカップをテーブルに置いた。
「あの説明がどこまで真実かは不明だけど。ただ、シェノバ国はフェルナンの罪を認めて処罰を下した。他の者がフェルナンをそそのかしたとか偽証することもなく、減刑を求めることもなく」
「あぁ」
「今後の国同士の付き合いを考えるなら、ここで手を打つしかないわ。それにストファリア帝国内のシェノバ国派の貴族も一掃できた。結果としては上々よ」
「……わかっている」
ライルが盛大に不満な様子で紅茶を飲む。その様子に私はふと訊ねた。
「ライルは欲しいとは思わないの?」
「何がだ?」
「自分の国よ。フェルナンは自分の国が欲しかった。暴君マクシムは優秀だった兄を超えたかった。ライルは? ライルは自分の国が欲しいとか、兄上を超えたいとか思わないの?」
私の質問にライルが嘲笑うように口角をあげた。
「ずっとオレの願いは、ただ一つ。セシリアが泣かないこと。国も兄も関係ない」
その真っ直ぐな答えに私は力が抜けた。
「一途なバカが強いってことかしら」
私の言葉にライルが片眉をあげる。
「どういうことだ?」
「その心意気に免じて、お手伝いしてあげるってことよ」
私は紅茶を一気に飲んで立ち上がった。
「手伝いだと?」
「そう。セシリアちゃんが逃げている理由。聞いてきてあげる」
「なっ!? 待て! あ、いや、聞いたほうが……いや、だが……」
葛藤し、悩むライル。
「はい、はい。そこで大人しく待っていなさい」
背後で何か叫ぶライルを放置して私は歩き出した。セシリアちゃんの居場所は知っている。今日もあそこで書物を読んでいるはずだから。
私は新築の本殿の端にある書庫へ足を運んだ。
新築の建材の中に微かに混じる紙の匂い。とはいえ書庫にある棚の半分以上は空。これから少しずつ神殿にある書物を運びこむ予定。
そんな書庫の端にある机。顔を真っ赤にさせながら書物と睨めっこしたり、両手で顔を隠したりしているセシリアちゃんがいた。
その様子を少し離れた所で微笑ましく見守るアッザ。ちなみにワヒとナンは書庫の扉で待機している。完全に忠犬ね。
私はわざと足音をたててセシリアちゃんに近づいた。
「その本はどう? 面白い?」
なるべく驚かさないように声をかけたつもりだったけど、セシリアちゃんの体が盛大に跳ねた。
「ぴゃっ!? ラ、ラナ様っ!?」
(人って座ってても椅子から飛び上がれるのね……)
貴重な動きを見た私は感心しながらも謝った。
「読書の邪魔をして、ごめんなさいね。そんなに集中して読んでるとは思わなくて」
「い、いいい、いえ! と、とと、とととても勉強になっております!」
思わぬ返事に私は首を傾げた。
「勉強?」
「は、はい! 私が感じていたライル様への気持ちがどういうものなのか、知ることができました」
恥ずかしそうに話すセシリアちゃんの前には山積みになった書物。それは、セシリアちゃんの母が神殿内に隠していた恋愛関係の書物だった。
帝城と神殿には人が簡単に入れないように魔法を施したけど、貴重な書物や必要な道具は新しい帝城に移す必要がある。その準備中に偶然、床下に隠してあったのを発見した。
それから、ライルには内緒でこっそりとセシリアちゃんに渡したのだけど。結婚の儀が終わってから書庫に籠もって読み続けている。
「……それは良かったわ。でも、その感情が分かったのに、まだ勉強しているの?」
セシリアちゃんが頷く。
「どういう気持ちかは分かりました。ですが、この気持ちにどのように対応していけばいいのか、まだ分かっておりません」
「対応って?」
「あの……ライル様とお顔を合わせるとドキドキして、言葉がでなくなりまして……その、どのようにすれば自然にお話できるのか。その対応が書かれている書物を探しております」
「あー……もしかして、ライルから逃げているのって、普通に話せないから?」
セシリアちゃんの顔が真っ赤になって俯く。
「は、はい……このような状態では、とてもお話できそうにありませんので……」
「でも、食事とか夜とか、どうしているの? 同じ部屋にいるでしょ?」
「食事は……ライル様の食事の回数は少ないので、時間をずらして顔を合わせないようにしております」
「あ、そういえば人族とは食事の回数が違ったわね。あれ? でも、夜は? 一緒に寝ていないの?」
俯いていたセシリアちゃんが顔をあげて盛大に両手を振った。
「いぃ、いいい、一緒なんて!? そ、そんな!?」
この反応に私はアッザに視線をむけた。アッザが生温かい目で微笑む。
「別々の部屋で過ごしているのね、新婚なのに…………初夜なんて聞くだけ愚かなのかしら?」
私の呟きにアッザが静かに頷く。一方のセシリアちゃんが首を傾げた。
「新婚? 初夜? えっと、新婚とは結婚したばかりの夫婦のことですよね? 初夜は……初めて聞く言葉なのですが、どういう意味でしょう?」
純粋な質問に私は思わず乾いた笑みが漏れた。
「そうね。それはライルに教えてもらったらいいわ。そのためにも、ライルから逃げずに話せるようになりましょう」
「で、ですが、その……結婚の儀を終えましたし……その、近づきすぎると……」
「近づきすぎると?」
セシリアちゃんが両手で顔を覆って叫んだ。
「子ができてしまいます!」
私とアッザは絶句した。ダンスの時に言った、その場しのぎの嘘を信じ続けている。いや、セシリアちゃんなら当然のこと。
唖然とする私たちに気づかないセシリアちゃんが必死に話す。
「あ、あの、私は皇女として、まだまだ未熟ですし、覚えないといけないことも、仕事もたくさんあります。それに、子ができましたら、年に二回、神殿で歌うことも難しくなるかもしれません。ですので、その、子はまだ早い、かと……」
私は困惑しているセシリアちゃんの頭を撫でた。白銀の髪が極上の絹糸のように指を滑る。
「ちゃんと先のことまで考えて、セシリアちゃんは偉いわ。そのことはライルに伝えておくから」
パァァァと明るくなり満面の笑みになるセシリアちゃん。
「ありがとうございます! ここでしっかり勉強をして、お話ができるようになります!」
「頑張って」
(ライルは盛大に嘆くだろうけど、十年も待ったんだし、少しぐらい伸びても平気よね)
これからの二人も特等席で見守らせていただきましょう。
最期までお読みいただき、ありがとうございます!
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書籍の出版日になりましたら、お礼SS投稿します
二人の後日談となる予定です




