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【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者:
第二章

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39/53

それは、新たな火種でした

 翌朝。私は久しぶりに神殿にある自室で目を覚ました。


 昨夜、私がライル様に謝罪していた頃。

 神殿内の部屋を確認したアッザが「何もなさすぎです!」と憤慨して崩れかけた城からマットやシーツなどを運んで寝具を整えた。

 そのおかげで私は柔らかい寝床で一晩を過ごし、しっかりと回復。


 朝日が降り注ぐ祭壇の前でいつも通り歌を捧げた。


 こうして歌っていると昨日の地震が嘘のようで。でも、きっと外に出れば現実だと思い知る。だから、少しでも私の歌が力になるように。前を向く力になれるように。


 私は精一杯の力を込めて歌いきった。


 パチパチパチ。


 久しぶりに聞く拍手の音。振り返ると満面の笑みのアッザがいる。


「やはりセシリア様の歌は直接聞いたほうが良いですね」

「直接?」

「ここに来てからは、ずっと本殿の廊下から聞いておりましたから。毎朝、直に聞いておられたライル様が羨ましいです」


 アッザが睨んだ先には壁に背をつけて立っているライル様。


「文句があるなら、皇族しか入れないという仕来(しきた)りを作ったヤツに言え」

「無理と分かっていることを言われますよね?」

「そうでもないだろ」

「そうでもあります」


 淡々としながらも声に怒りを込めるアッザ。それを軽く流すライル様。忖度なく本音で話す二人の姿を見ていると、やっぱり胸の辺りが変な感じがする。


「セシリア様? 調子が悪いのですか?」


 アッザの心配そうな声に私は慌てて顔をあげて笑顔を作った。


「い、いえ。なんでもありません」

「本当ですか? 昨日はかなり無理をされましたし」

「大丈夫です。先ほども、いつも通り歌えましたから」

「確かにそうですが……不調がありましたら、すぐに教えてくださいよ」

「はい」


 私が頷いたところでライル様とアッザが神殿の入り口に注目した。カツン、カツン、という足音とともにラナ様が歩いてくる。


「おはよう、セシリアちゃん。昨日はたくさん歌ってくれて、ありがとう。とても助かったわ」

「ラナ様、おはようございます。少しでもお力になれたなら良かったです」

「少しどころじゃないわ。すごーく、力になったから。それでね、ちょっとお願いがあるんだけど」

「はい」


 話を聞こうと身を乗り出した私の前にライル様が出る。


「待て」

「ライル様?」


 首を傾げる私をライル様が大きな体で隠す。


「こいつはすぐに無理をする。それを踏まえて要件を言え」

「分かっているわよ。でも、どうしてもセシリアちゃんの力が必要なの」


 今日から街で獣人が救助作業を行うのだが、それが円滑にできるように街で歌って援助してほしい、という。昨日は私の歌が聞こえてから、仲が悪かった人族と獣人が協力して救助作業をすることが出来たそうで。

 その話を聞いた私は、ずっと気になっていたことを訊ねた。


「どうして人族のために、そこまでしていただけるのですか?」


 ラナ様が優しく微笑む。いつもの妖艶な笑みではなく、慈愛に満ちた穏やかで包み込むような笑みで。


「秘密」


 教えてもらえると思っていた私は固まった。


「え? あの、どうして秘密なのでしょう?」

「そうね……セシリアちゃんが、もう少し私たちに甘えられるようになったら、教えてあげる」

「甘えられる、ように?」

「そう。で、街で歌ってもらえるかしら?」


 強制的に話を戻された私は戸惑いながらも頷いた。


「はい」

「よかったわ。じゃあ、準備ができたら私に声をかけて。私は帝城内で一番大きな庭園にいるから」


 ラナ様が颯爽と去って行く。地震の対応で疲れているはずなのに、その片鱗も見せない。

 私はアッザが用意してくれた服と朝食をいただいて神殿を出た。あれから小さな地震が何度かあったらしく、本殿から外へと続く廊下の壁や柱が再び崩れている。そのため私は履き慣れた靴でもまともに歩くことができず、ライル様に抱き上げられて移動した。

 アッザが歩きながら話す。


「泉の魔力は相当強いようですね。神殿にいたら、揺れをまったく感じませんでした」

「あれだけの地震の影響も受けない程の魔力だ。それより、問題はこの城だな。ここまで壊れたなら、ヘタに再建するより他の場所に新しく城を建てたほうが早そうだ」

「そうなのですか?」


 首を傾げる私にライル様が説明をする。


「古い城だから脆くなっていたのもあるが、壁にかなり亀裂がある。これをすべて修復するぐらいなら、別の場所に新しく建てたほうが費用も時間も安く済む」

「そうなのですね」


 確かにこれだけ天井や壁が崩れたなら、直すより新しく作ったほうが早いかも。ただ……


「そうすると、この城はどうするのですか? このまま放置ですか?」

「そこは人族が決めることだ」


 本殿を抜けて帝城で一番広い庭に出る。そこでは柱と布で作った簡易のテントが張られ、人々と獣人が生活していた。

 眺めているとラナ様がやってきた。その足下にはワヒとナン。


「「わふっ! わふっ!」」

「おはようございます」


 ライル様の腕から降りた私はワヒとナンの首元を撫でた。砂と埃で汚れ、ザリッとした肌触り。

 ラナ様が私に説明をする。


「二頭も連れていって。昨日は大活躍だったのよ」


 きっと瓦礫の中に入って、たくさんの人を見つけたのだろう。足は土で汚れている。


「お疲れ様です。もう少し状況が落ち着いたら、全身を洗いますね」


 私の一言にワヒとナンが尻尾をさげて後ずさる。


「「くぅーん、ひぃーん」」

「どうしました?」


 アッザが苦笑いをしながら二頭の頭を撫でる。


「洗われたくないようですね。あとで魔法で綺麗にしましょう」

「「わふ! わふ!」」


 明らかに喜ぶ二頭に私は声をかけた。


「お風呂に入るのは気持ち良いですよ?」

「「ふぃん……」」


 二頭がそろってアッザの後ろに隠れる。


「どうして、そこまで嫌がるのでしょう?」

「水に濡れるのが苦手な動物もおりますから」

「そういえば神殿にある書物にも書いてありました」

「そういうことです。さあ、参りましょう」

「「わん!」」


 元気に返事をしたワヒとナン。本当に頭がいい。

 私は二頭を連れ、ライル様とアッザとともに街へと出向いた。


※※


 街は帝城ほど高い建物はないものの、崩れている家が多く、空いた土地に人々が寄り添い集まっている。その中で獣人が人族の兵士と一緒に崩れた家の瓦礫を除く作業をしていた。

 そこに数人の男たちが詰め寄る。


「獣人がオレの家に触るんじゃねぇ!」

「余計に壊れるだろ!」


 そこに獣人が体を起こす。巨体で周りを囲んだ男たちが子どもぐらいに見えるほど。


「おまえらが非力だから手伝ってるんだろうが! 力がいらねぇなら帰るぞ!」


 巨体の獣人の声に押され、人々の顔が青くなる。あれは、ゴリラの獣人のグリラ。力持ちで、どんな物でも軽々と持ち上げる。でも、本当は……

 私は駆けだしていた。


「セシリア様!」


 アッザの声を振り切ってグリラと人々の間に入る。


「お待ちください! グリラは力がありますが、思いやりもある繊細な方です! この前も木から落ちた鳥の巣を壊すことなく、元の場所に戻されていました!」


 私の言葉に騒がしかった人々がポカンとした顔になる。


「え? 鳥?」

「鳥の巣を? こいつが?」

「戻した? 壊さずに?」


 ざわつきが広がる。そこに困ったような焦ったような声が頭上から降ってきた。


「セ、セシリア様!? いつ、それを見て!?」

「十日ほど前にお見かけしました。あと三日前、グリラは帝城の庭師さんが動かせなくて困っていた大岩を、夜中にこっそりと移動され、感謝されていました」


 私の話に街の人が質問をする。


「なんで夜中にこっそりなんだ?」

「グリラは奥ゆかしいのです」

「奥、ゆか……しい? こいつ、が?」


 唖然とした顔がグリラに集まる。


「はい。恥ずかしがり屋さん、とも言います。照れ隠しで素っ気ない態度をされたり、逃げたりされますが」

「セ、セシリア様! それぐらいで! それぐらいで勘弁してください!」


 真っ赤になった顔を大きな手で覆うグリラ。しかも膝を曲げて屈んで、私の後ろに隠れている。巨体すぎて、まったく隠れていないけど。


「あの、何か失礼なことを言いましたでしょうか?」


 困惑する私に複数の足音が近づいてきた。顔をあげると、従者を連れたフェルナン様。いつも通りの綺麗な身なりでグリラと私を見比べた。


「獣人もセシリア皇女の前だと大人しい姿を見せたいようですね」

「どういう意味だ?」


 静観していたライル様が私の隣に立つ。フェルナン様が肩をすくめた。


「言葉の通りですよ。私はつい先ほど、その獣人がそこの家を裏から破壊している光景を見たのです」

「なんだと!?」


 和みかけていた空気が凍りついた。




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