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【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者:
第二章

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その頃、政権内では~とある宰相の困難~

 未曾有宇の大地震が起きる数刻前。



 暴君マクシムを幽閉し、政権を先帝派に取り戻した私は忙しい日々を過ごしていた。

 乱れた国を整えることは一昼夜ではできない。だが、民の心はセシリア様の毎朝の歌のおかげで平穏を取り戻しつつあり、先帝派の改革はスムーズに受け入れられている。


 このまま暴君マクシム派を牽制しつつ政権を先帝派が維持して国を再興する。


 それが今の私の最重要事項……なのだが。


 今後の政策について会議をしている議場で私は頭を悩ませていた。


「何故、獣人に来賓用の城を使わせるのです!?」

「あのような蛮族は、家畜小屋で十分です」

「そこまで粗雑な扱いはできない」

「だが、離れの城を獣人どもが占領していることで不満が出ているのも事実だ」


 私の前で他の臣下や貴族たちが喧々囂々(けんけんごうごう)と吠え続けている。先ほどから延々と繰り返されている議論。

 もっと優先すべき議題があるのに、暴君マクシム派が分かりやすい問題点を突いて議論を乱してくる。目的は先帝派を分裂させ、自分の派閥に取り入れること。


(この場に先帝がおられたら、どのようにまとめらていたか……)


 腕を組んだまま考えていると、私の腹心の一人であるハロルド卿が声を出した。


「同盟国として相手を最大限の対応でもてなすのは我が国の礼儀。そのような礼儀さえも忘れてしまいましたか?」

「忘れてはおらぬが、相手は獣人ですぞ」

「その獣人に先に助けを求めたのは我が国です」

「それは暴君マクシムに原因があり、我々のせいではありませぬ」


 ハロルド卿に一歩も引かず応酬をしているのは、隣国との国境に領地を持つ有力貴族の一人であるセドリック侯爵。一応、先帝派だが実際は日和見なところが強い。

 私は手を挙げて発言をした。


「その暴君マクシムを制御できなかったのは我々だ。セドリック侯爵、それは貴殿も同じであろう?」

「そのようなことはありません。私は先帝派の一人として……」

「暴君マクシムが政権を握っていた時、帝城には一切姿を現さず、意見を言わず、自分の領地に引きこもっていたのは誰だったかな? その結果、領地を半分ほど失った」

「クッ……」


 セドリック侯爵が口の端を噛みながら座り直す。私は声に力を込めて言った。


「今、優先すべきことは国の再興だ。その象徴としてセシリア様の結婚式を盛大におこない、国内外に我が国の変革を宣伝しなければならない。そのための仕事は山程ある。獣人の対応は今、議論すべき問題ではない」

「その結婚について提案があるのですが」


 軽く咳払いをしたセドリック侯爵に全員が注目する。


「歴史ある我が国の皇女がなぜ獣人と結婚せねばならないのでしょう? そもそも、そこが間違いではありませぬか?」

「何を言っている? 盟約を破るというのか?」

「もちろん、結婚はしましょう。ですが、その後に離婚をしても盟約を破ったことにはなりません」


 とんでもない内容に私は声を荒げた。


「そのようなことをして、なんの得がある!? セシリア様に負担がかかるだけだ!」

「はたしてそうでしょうか? 無理矢理、獣人と結婚生活をさせられるほうが、セシリア様の負担になるのでは?」


 その言葉に私は息を呑んだ。

 暴君マクシムによって、皇女にもかかわらず劣悪な生活をさせられていたセシリア様。それでも我々を恨むことなく、今も国のため、民のために毎朝、歌を捧げてくださっている。

 セシリア様には幸せな余生を過ごしていただきたい。

 どうすることが、セシリア様にとって幸せなのか。ここで道を間違うわけにはいかない。


 私の迷いを読み取ったのか、セドリック侯爵が畳みかける。


「それに、我が国に毎朝のセシリア様の歌は必須であります。獣人の国に嫁がれたら、毎朝の歌はどうされます?」


 痛いところを突かれた私は黙った。

 今は国の再興のため獣人たちと滞在されているが、いつかは我が国を離れなければならない。

 その時までに次代の聖女を見つけ、代王を立てなければ、と考えている。だが、今は聖女を探す人手も余裕もない。


「丁度良いことに、隣国の一つであるシェノバ国のフェルナン王弟がセシリア様に求婚されたとか。ならば、セシリア様が獣人の王子と結婚、離婚した後で、フェルナン王弟に婿入りしていただいたらよろしいかと。そうすれば、歌の問題も解決です」


 思いもよらぬ提案に議場がざわつく。私は手を振って場を沈めた。


「それこそ問題だ。歴史ある我が国の皇女がそう易々(やすやす)と結婚、離婚を繰り返すなど」

「周囲の国からすれば皇女が獣人と結婚生活を続けるほうが奇異に見られるでしょう」

「グッ……だが、一度離婚をしている皇女への婿入りをシェノバ国が受け入れるとは考えられん」


 私の言葉をセドリック侯爵が軽く流す。


「そこは先に根回しをしておきます。これは内密の話ですが、フェルナン王弟はセシリア様をいたくお気に召したようで、結婚できるなら兄王を説得すると断言されておりました」

「なっ!?」


 そこで私は思い出した。セドリック侯爵の領地がどこの国(・・・・)と接しているか。


「そういえば、セドリック侯爵の領地はシェノバ国と接しておりましたな。暴君マクシムの時代には、領地の半分をシェノバ国に奪い取られたこともあったのに、ずいぶんと仲がよろしい様子だ」

「それは、ずいぶんな言いがかりですな。私はシェノバ国に領土を半分奪われた身。恨みこそすれ、良好な関係など築けるわけもない」


 普通ならそうだ。だが、この状況。シェノバ国とセドリック侯爵がなんらかの交渉をおこない、密約を結んでいたら……あり得ない話ではない。


(フェルナン王弟は表面的には婿入りになるが、実際はセシリア様を傀儡化して政権を奪う可能性がある。そうなれば、我が国は内部からシェノバ国に乗っ取られる)


 国政が乱れている状況で暴君マクシム以外の、裏に他国がいる勢力の出現を考えていなかった訳ではない。ただ、あまりにも早く、内部にまで食い込んでいる。

 私は机の下で拳を作った。できることなら、敵国に我が国を売ろうとしているセドリック侯爵を殴りつけたい。


「……そのことについてはセシリア様のお気持ちもお聞きしなければならない」

「聞くまでもありませんでしょう。誰が()(この)んで獣人と結婚など」


 肩をすくめ呆れたように言い捨てる姿に私はプツンと切れた。


「セドリック侯爵」


 低い声が議場を這う。私と目が合った者たちの体が小さく跳ね、口を閉ざす。


「セシリア様をそのような現状に追い込んだのは、我々だということをお忘れなく」


 私の言葉にセドリック侯爵が顔を青くしたまま口元だけで笑みを作る。


「と、当然でしょう。だからこそ、シェノバ国の王弟と結婚を」

「それは後日の検討課題とする。では、次の議題だが……」


 やっと本題に移ろうとした時――――――



 ドンッ!!!!



 下から突き上げるような大きな揺れ。悲鳴とともに壁や物が崩れる。逃げようにも立っていることもできず。気がつけば机の下に押し込められ、護衛の兵士が身を盾にして私を守っていた。


 揺れが収まり、護衛の兵士とともに城から出た私は絶句した。


 帝城の一部が崩れ落ち、所々から煙りが上っている。助けを求める声や泣き声、悲鳴が入り乱れ、まるで敵襲を受けた後のような光景。


 そこに若い女性の声が聞こえてきた。


「獣人は三人一組で動きなさい! 決して一人では行動しないこと! 救助が必要な者は私に報告を! 現状に合わせて獣人を派遣するわ!」


 ドレス姿のまま勇ましく指示を出すラナ王女。獣人の国の王の娘でもありながら、戦の時は先陣で戦う戦士としても有名。

 外見の美しさからも戦女神の二つ名を持つ。


「ラ、ラナ王女! ここの指揮は我々に任せて安全なところへ避難してください!」

「私より瓦礫に埋もれている人を助ける方が先よ。獣人は全員の無事を確認したから」

「ですが、勝手に動かれても困ります」


 ラナ王女が眉間にシワを寄せ、口調を強くした。


「今は一刻を争うの! さっさと動かないと助けられる命も助けられなくなるわ!」

「ですから、そのためには状況を把握しなければ、的確な指示も出せません! まずは状況把握が先です!」

「だから! それだと、遅いのよ!」

「急がば回れという言葉を知らないのですか!?」


 異常事態にお互い気が立っているため、妥協点を見いだせない。険悪な雰囲気。殺気立つ周囲。

 徐々に兵が集まり、一触即発の気配。



 そこに……




「……これは、歌か?」




 セシリア様の歌声が響いた。



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