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【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者:
第一章

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捜査の基本は張り込みから~アッザの嘆き~

 ライル様がお慕いしている方がいるというのは、本当に初耳でした。ですが、その後のセシリア様の行動がすべてを(くつがえ)すほどで。


 翌日。


 朝の身支度を終わらせたセシリア様は、いつもの庭の木陰ではなく、ライル様の執務室に続く廊下へ。

 そのままライル様の執務室に突撃されるのかと思ったら、その手前の角で立ち止まり、左手に紙の束を、右手にペンを取り出した。


「あの……セシリア様? 新しいご予定が入りましたので、お話してもよろしいでしょうか?」

「はい」

「ライル様と舞踏会に参加していただくため、本日よりダンスの練習をしていただきたいのですが……」

「はい」


 返事をしながらも目線はライル様の執務室に固定されたまま、まったく動く様子がないセシリア様。私の言葉も正しく耳に入っているのか怪しい。


「あの……なぜ、そのようなことをされているのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ライル様がお慕いされている方を探すために、執務室を見張っております」

「やっぱりぃぃぃ」


 私は思わず両手で顔をおおって嘆いた。そんな私にセシリア様が慌てる。


「え? どうされました? 神殿で読んだ書物には捜索の基本は張り込みから、と書いてありましたので、その通りにしたのですが」

「間違ってます」

「えっ!? どこが間違ってますか!? あ、顔を隠す帽子と、携帯食料の豆が入ったパンとミルクがないからですか? ですが、それらは用意できなくて……」

「そうではありません」


 噛み合わない会話に私は膝から崩れ落ちた。


「アッザ!? どうしました!?」


 セシリア様が私の体を助け起こす。

 この城に来られた時より、ずっと良くなった顔色。肉がつき、少し丸みがついた頬。艶があり粉雪のように輝く白銀の髪。その美しさは、どこに出ても問題がない淑女の容姿。


 けど、今は置いといて。


「あの、ライル様がお慕いされている方を探すのは、私にお任せくださいませんか?」

「いいえ。これは私がしなければならないことです」

「クッ!」


 セシリア様はこういうところが頑固。

 そこに微かな足音が私の耳をかすめた。気配は消しているけど、警戒心が強い草食獣である私の耳と鼻は誤魔化せない。

 私は素早く立ち上がり頭をさげた。そこでセシリア様の背後から声が。


「セシリアちゃん。朝から、どうしたの? ライルに用事?」

「ひゃっ!」


 絵に描いたように驚くセシリア様。そういう仕草もとても可愛らしい。


「あら、驚かせちゃった? ごめんなさい。で、何をしているの?」


 ラナ様の質問に私は冷や汗が出た。

 まさか昨日の話を盗み聞きした上に、ライル様がお慕いされている方を探しているなんて。


(どうかセシリア様がバカ正直に答えませんように)


 そう祈っていると、セシリア様が平然とラナ様に訊ねた。


「ライル様がお慕いされている方を探しているのですが、ご存知ありませんか?」


 一気に血の気が引いた私は思わずセシリア様に訴えていた。


「セ、セシリア様! あれほど、他の者には聞かないようにと!」

「たしかに使用人の方には聞かないように、とは言われましたが、ラナ様は使用人ではありませんよね?」


 思わぬ返しに私は言葉を失った。


(え? とんちですか? そういう問題ですかぁ!?)


 呆然としている私の前でラナ様が楽しそうに笑う。


「セシリアちゃんは頭がいいのね」

「そ、そのようなことは……いつも頭が悪い、世間知らずと言われております」


 恥ずかしそうに俯くセシリア様の頭をラナ様が優しく撫でる。その眼差しは愛しむように温かい。


「顔をあげて、セシリアちゃん。知らないことは悪いことじゃないのよ。自分が何を知らないのかを知っていることは、とても大切なの。そして、そこから学ぶことが重要なの。悪いのは、自分はなんでも知っていると学びを止めることよ」

「……そうなの、ですか?」

「えぇ。だから、セシリアちゃんは、これからいろんなことを学んだら良いわ」

「はい!」


 元気に返事をしたセシリア様をラナ様が興味深そうに覗く。


「で、話を戻すけど。セシリアちゃんはライルが誰を慕っているのか知りたいの?」


(そちらに話を戻さないでくださいぃぃ)


 当然、私の心の叫びなど届かない。セシリア様が意気揚々と頷く。


「はい!」

「どうして?」


 セシリア様が理由を説明をすると、ラナ様が微妙な顔になった。


「恩返しのためかぁ。ちょっと予想外だったわ」


(ですよね! 普通はお相手のことが気になったり、嫉妬したりするものですよね!)


 私は心の中で盛大に頷いた。でも、セシリア様はマイペースで。


「ご存知ありませんか?」

「うーん。まぁ、知ってるけど……」

「教えてください!」


 セシリア様がラナ様に飛びつく。


(これ以上、面倒事になるのは避けていただきたいのですが!)


 私の思いも虚しく、ラナ様が涼しげな瞳を細めて妖艶に微笑んだ。


「じゃあ、少しだけ教えてあげる。ライルが出会った時、相手は真っ黒な髪でね」

「黒髪の方ですか! ありがとうございます! まずは、城内の黒髪の方を探しましょう!」


 セシリア様がラナ様の言葉の途中で走り出す。私は慌てて追いかけた。


「ちょ、お待ちください! そんなに走ると転けますよ!」


 離れていくセシリア様にラナ様がぼそりとこぼす。


「話は最後まで聞いたほうが良いと思うわよ……」


 もしや、重要なことを聞きそびれたのでは……という一抹の不安を抱えながら、私はセシリア様を追いかけた。 




 その日の午後。

 セシリア様が庭にある木陰の長椅子に座り、メモとにらめっこをしている。そこには黒髪の使用人の名前。


「……黒髪の方って少ないのですね」

「多くはないですね」


 精魂尽き果てた私は、げっそりとしていた。っと、ここで態度に出てはメイド失格。

 気を引き締めると、セシリア様が心配そうに私に声をかけた。


「調子が悪いのですか?」

「いえ、肉体的には問題ありません。これは精神的な疲労によるものです」

「精神的?」

「はい。セシリア様が料理番たちの帽子を外させ、庭作業の者たちの帽子も片っ端から……」


 思い出した私はつい両手で顔をおおってしまった。


「あのままでは、セシリア様が変になったという噂が流れる恐れがありましたので、目的を言わずにフォローを……」

「それは失礼いたしました! そこまで考えが及ばず……ですが、私が変になったと噂をされるのは別によろしいかと」


 私は拳を作って顔をあげた。


「まったくもって良くありません! セシリア様の評価はライル様の評価にも繋がります! ライル様におかしな娘が嫁いだ、と噂をされてもよろしいのですか!?」

「はっ!」


 セシリア様がなにかに気づいたように目を丸くする。そして、勢いよく私に頭をさげた。


「申し訳ございません! そこまで考慮しておりませんでした! やはり世間知らずの私では捜索は難しいのですね。最初に言っていただいたように、アッザに任せます」


 その一言に安堵した私は、落ち込むセシリア様に微笑んだ。


「ご理解いただき、ありがとうございます。では、ダンスの練習を……」

「その前に、こちらをお渡ししますね」

「なんでごさいましょう?」


 私はセシリア様からバスケットとメモと紙を受け取った。

 バスケットの中身はパンとミルクが入った小瓶。


「捜索の基本道具です。私の代わりに頑張ってください」

「いえ、その……はい、頑張りますが……このミルクとパンはどうされたのですか?」

「バクスに作っていただきました」

「……………………どのように理由を説明して?」

「ライル様がお慕いされている方を探すために必要「ノォォォォオ!!!!!」


 私は頭を抱えて叫んでいた。




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