十二話
オリバー視点です
<オリヴィア>という名を聞いた時の殿下の反応を考えると、もしかして殿下は僕を女の子だと思ってるのかもしれない。
もしそうなら、殿下の記憶力があまりにも残念すぎるが、彼の言う<未来の妹>は僕のことってことだ。
確信は無いけど、可能性としては高いと思う。もっとも、男だとわかってて言い寄てきている可能性も捨てられないが。
まぁ、どちらにせよ婚約者がありながら、他の者に言い寄る男が姉様にふさわしいとは思えない。 殿下がどういうつもりなのかはっきりする迄、しばらく様子を見るしかないけど、この婚約は潰すのは確定かな。
「オリバー、私、この日は全部来るからね!そして、側を離れないから!」
日付の書かれた紙を差し出し、そう宣言したアニーは、それからは殿下が来る日は必ず来るようになった。そして、僕の側にずっとくっついていてくれる。まるで僕を守るかのように。そんなアニーが可愛くて仕方なく、彼女のことを考えるだけで顔がニヤけてしまう。
「やぁ、オリヴィア、と、アニータ嬢」
そして今日もアンドルー殿下は僕たちのお茶会に混ざってきた。あまりに毎回なので、最近はお茶も最初から三人分を用意させている。一応姉様ともお茶を飲んでいるようだが、だからと言って出さないわけにはいかないからだ。
でも席はできるだけ離しておきたいので、テーブルを丸形から正方形の物に替え、殿下は僕の正面に座るしかないよう、位置をセッティングしてもらった。これで、僕が手を伸ばさない限りは、手を握られることはない。
それにしても、どうやら殿下は僕が姉様にいじめられていると思いたいみたいだ。
「ヴァイオラは君にひどい事をしたりしてないか?例えば、ドレスを破ったり、ひどい言葉を言ったりされてないか?」
などと聞いてくる。姉様がそんなことをするはずないが、ここは話を合わせてみようと思った。ただし、絶対にウソは言わないで。だから、アニーも知ってる問題ない範囲で、それっぽく聞こえる話をいくつかすることにした。
それをどう受け取るのかは殿下の勝手だ。
その後も似たような質問をされたことを考えると、やはり殿下は姉様を悪人に仕立てて、自分の都合のいいように話を持って行こうとしているみたいだ。
でも、それはどんな結末なんだろう?たとえ姉様と穏便に婚約解消しても、殿下は神殿に入るしかない。なら、姉様を悪者にして解消したとしたら?それでもなにも変わらない。殿下はやはり神殿に入ることになる。
あと考えられるのは、なにか間違った情報を元に動いている可能性だ。これが一番高いかもしれない。おそらく半端な知識しか持たない者が入れ知恵しているのだろう。
その仮説を証明するかのように、アニーとの久しぶりの街カフェデートを邪魔してきた際に、殿下の友人だというトビーという男から、こっそり手紙を渡された。「我々に任せていたら大丈夫ですよ」なんて伝言と一緒に。
手紙には殿下の署名と、<2週間後の侯爵の誕生日パーティで決着をつけるから、それまで我慢して待っていて欲しい>と書かれていた。
何をどう考え違いしてるのかは知らないけど、そう都合よく物事が運ぶなんて思わないで欲しいね。




