十話
オリバー視点 のち アニータ視点です。
(最悪だ……そして、殿下が気持ち悪い)
せっかくアニーと色違いのドレスを着て、東屋で楽しくお茶してたのに、なぜか殿下が混ざっている。しかも、僕の隣に座って手を握ってくる!
「殿下、あの、姉様は?」
捻ったり、引っ張ったりと、何とか手を引き抜く。
「ああ、何か急な案件があるからと、王宮から呼び出しがあってな」
(なら、一緒に帰れ!王宮っていったら、あんたの家だろう!)
「なので、未来の妹と親交を深めようと思ってね」
(だから、僕の手を握ろうとしないで!!)
アニーはじっとりした目で殿下を見ている。これは絶対殿下の言葉を信じて無いな。僕も信じて無いけど。
侍女や侍従達も怪訝な顔をしている。姉様の婚約者が僕の手を握ろうとするんだから当然だろう。とりあえず何も出さないわけにもいかないので、侍女に殿下の分のお茶と、ついでに僕とアニーの新しいお茶の用意を頼む。
「オリヴィア様、新しいお茶をお持ちしました。」
「ありがとう」
うちの使用人の何人かと、アニーの家の使用人は、女装している時の僕を〈オリヴィア〉と呼ぶ。ドレス姿と男名が似合わないからという理由で。アニーも女装して一緒に街に出た時はそう呼ぶことにしている。男名で呼ぶと、周りがぎょっとするからだと言って。殿下はこの名を聞いてどう思うのだろう?
「オリヴィア……そうか、そうだったな、オリヴィアだ、うん、そうだ、オリヴィアだ……」
あれ?なんだろう、この反応……そう言えば、殿下は今まで一度も僕のことをきちんと名前で呼んでいなかったような………?
***
(いやぁーー!!殿下、その手を離してーー!!)
心の中で叫びながら、第二王子の手を叩き落としたいのをこらえる。
さすがにそんな事は、<未来の妹>でも許してはもらえないだろう。
て言うか、先週うちに来た時もそうだけど、私に会いに来たとか言いながら、殿下はずっとオリバーに言い寄ってる。
いくら王族だからって、人の婚約者に手ぇ出して良いわけ無いんだからね!
オリバー、そんなに可愛いく首をかしげないで!王子が見惚れて赤くなってる!
どうしよう、本当に王家から婚約解消するように言われたら?でも、この国では同性同士の結婚は認められていない。どっかの国では、出来るとか聞いた事があるけど……あとは、確か神殿で…………
ん?……神殿?
はっ!そう言えば、殿下は神殿に入るよう仄めかされたってオリバーが言ってた!神殿に入る人の一部には、そんな趣味の人がいるって噂があるし……やっぱり殿下はそっちの趣味の人か!
じゃあ、もしかして殿下は、ヴァイオラ様と婚約を解消して、オリバーを連れて神殿に入るつもり?
そんなの、絶対ダメ!オリバーは私と結婚するんだから!
これはなんとしても、私の婚約者を守らないと!




